第4話

君の顔は見えない。


顔のない君を目印に自分の席へ向かう。


「おはよう」


挨拶をする。

自分から声をかけたのは初めてかもしれない。


「うん、おはよう」


それだけが返ってくる。


席について前を向く。


目の前には頭のない君。


いつも通り。


いつも通りに進む1日。


ふと、思う授業中。


おはようと言った君はどこを見ていたのだろう。

どんな表情をしていたのだろう。


お得意のスマホ顔はなかった。


仕方ない、こっちが急に声をかけたんだ。


君の視線はどこだったのだろう。

ぼーっとどこかをみていたのか。

それとも何かを見ていたのか。


視線どころか顔の向きすらわからない。


君はどんな顔で返事をしてくれたんだろうか。

俺の顔を見て笑顔で返してくれたのか。

それとも迷惑そうな顔をしていたのか。


いつも、誰のも見えない表情が気になってしょうがない。


もう一度話しかけようか。

いや、迷惑かも。


次は移動教室だ。


話すチャンスはあるはずだ。


迎えた休み時間。

目の前のデュラハンは友達と先に移動してしまう。


結局、モヤモヤは収まるどころかうねりを増すばかり。


馬鹿馬鹿しい。


誰にだって機嫌や気分があるだろう。

それをいちいち気にしていてはきりがない。


それに表情がなくったって人の感情はわかる。

顔の見えない自分はそれに人一倍敏感なはずだ。


きっと彼女はいつも通りだった。

きっと彼女は…。

きっと…


引きずって引きずられて1日が終わる。

あとは帰るだけ。


「また明日ね!」

[(^^)]


「う、うん。またね」


顔は引き攣っていなかったはずだ。


いつもの調子で手を振る彼女。

教室を出ていく姿を見送って。


馬鹿馬鹿しい。

本当に馬鹿馬鹿しい。


ただのスマホの画面だろう。


それなのに、それだけなのに…。


(明日も声をかけてみようかな)


そんな風に思ってしまう。

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顔が見えない君と顔が見えない僕 維七 @e7764

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