タイトル募集中です

氷瑠

第1話

最後に彼女と話したのはいつだっただろうか。

最後に彼女から手紙を受け取ったのはいつだっただろうか。

思い返せば、彼女とはまともにデートなんかしたことなかったし、誕生日プレゼントさえも贈ったことはなかったのに、彼女は毎年律儀に手紙付きで誕生日プレゼントをくれた。

「本日も大変蒸し暑い日となります、くれぐれも熱中症にはー」

なんとなくつけていたテレピのアナウンサーがそう言った。

思い返せばいつから外へ出ていなかったのだろうか。

床に散らばるカロリーメイトのゴミをどけ、久しぶりに外へ出てみた。

「暑い、とにかく暑い...」そう呪言のように呟きながら駅へと向かう。いつの間にか駅の近くにはコンビニが出来ていた。

駅へ着き、1番遠い駅への切符を買う。値段1180円。その切符を握りしめ、改札へ入れることなく家へと帰った。

何回も、何回もその行為を繰り返してきた。


この癖がついたのはちょうど高校生の時だっただろうか。

趣味もなく、友達もいなく、かといって忙しい訳でもない。惰性で続けていたバイトが生み出した金だけが余っていく中、ある日何かから逃げ出すように学校を休んだ。何かから逃げ出すために、確実に逃げれるように1番遠い駅への切符を買った。でもそこへと向かう勇気は僕にはなかった。切符を買い、改札の前で立ち止まりただ時間だけが過ぎていった。駅員からの心配の声も無視して、ただ時間だけが過ぎていった。


やがて高校の下校時間が来た。自分とは違い、友達と遊び、部活を楽しみ、バイトで稼ぎ週末はデートをしたり友達と遠出する。

そんな「当たり前の青春」を過ごしている彼からを見て、近くの本屋へと逃げ込んだ。

現実から目を背け、一時だけでも本という世界に熱中するために適当な本を買おうとしていた。その矢先だった。

彼女はそこにいた。



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