第50話
「夜子は卒業式の打ち上げ行かなかったの?」
「うん、すぐ帰った。あゆむも?」
「うん、特にクラスに思い入れも無いし」
「だよね」
「菜々は行ったみたい」
「あー菜々は断れないからね」
葉月夜子はふふっと笑うと
カウンターに並ぶ化粧道具を
手際よくポーチに収めた
「卒業してもう1年か...そろそろまた集まる頃じゃない?」
夜子はカウンターに折りたたみの鏡を置き
顔を近づけて
まつ毛の最終チェックをしながら
あまり興味無さそうに言った
「かもね、番号変えたし連絡無いだろうけど」
隣で夜子の化粧技術を見ながら
女性は大変だなとあゆむは思った
「あゆむは行けばいいのに、野田が待ってるし」
と、言うと夜子はふふっと笑って
鏡を折りたたみ、化粧ポーチと一緒に
カバンにしまって
こちらを向いた
「よし、お待たせ行こっか」
夜子と店を出た僕は
夜子の少し後ろを歩く
夜子のコツコツと響く足音と
足首を見つめる
僕と夜子は卒業してから数ヶ月経った頃
偶然夜の街で再会した
僕の母が経営する飲み屋に
夜子がお客さんと訪れた
その日は人手が足りなくて
僕が借り出されていた
「同じクラスだったよね?」
夜子は村人Aを覚えていた
母は夜子をいたく気に入り
熱心な勧誘の末
夜子はうちの店で働くようになった
それからしばらくして
僕の母は体調を崩し
夜子は今
僕の母の店を切り盛りしている
僕たちはお互い菜々で繋がる
菜々に焦がされた同士だった
お互いの高校生活を
僕たちは昔からの親友のように
自然と語らいあった
菜々には言えない秘密の話も
2人で沢山共有した
佐々木は進学したが
ギャンブルにはまり堕ちてしまった
杉田は彼女が妊娠して結婚するようだ
夜子が密かに好きだった塩田君は
暴力沙汰で捕まったらしい
夜子は
「私やっぱり見る目が無いわ」
と嘆いた
そして菜々は専門学校を辞めて
出会ったばかりの
金髪エリートと結婚をしアメリカに居た
眩しすぎて周りを焼き尽くす太陽は
美しい大きな翼を手に入れて
世界に旅立った
僕は役目を無くし
夜子は1番という呪いにかかったままだ
いつまでも消えない
やけどの後のようだ
今、僕たちは傷を舐め合うように
僕は夜子の為に
夜子は僕の為に
生きている
あゆむくん、私アメリカに行くの
どこに居ても私の一番はあゆむくんだよ
死ぬまでずっとだからね
また菜々はきっと僕の側に帰って来る
その時、葉月夜子は
また菜々にとって必要な存在になるだろう
僕は死ぬまでずっと菜々の理解者だ
太陽と足枷 のいこ @bannouyaku
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