第22話
八月最後の日。よく晴れた昼間の河川敷、傾斜のある野原で二人並んで寝転ぶのはニートと金髪の女子高生。周囲の目にはどう映っているのだろうか。多分、恋人には見えないだろう。なぜなら二人の目は死んだ魚の目をしているからだ。
「また晴香から逃げてきたの?」
「またとか言うな。……色々あったんだよ」
「色々って?」
追求する彼女に誠は溜息を吐いてから話し始める。
野村夏菜子は誠から晴香との話を聞いてクスッと笑って言う。
「やっぱりお兄さんってヤバいね」
ニートはヤバい。大人になれば働くのが当たり前なのにそれができていないのだから。そんなことは誠も勿論わかっている。
「そんな俺と昼寝しているお前こそヤバいよ。夏休みでバイトとかしないのか、働けよ」
自分のことを堂々と棚に上げて誠は言った。
「うわぁ、お兄さんには言われたくないランキング一位の言葉だね」
誠は咳払いをしてから言う。
「俺が高校生の時なんかコンビニのレジ打ちやら品出しやらで三ヶ月はバイトしたぞ」
「過去の話でしょ。長い期間、バイトに勤しんでいたみたいに言うのやめてよ。たったの三ヶ月じゃん!」
「労働者だった先輩の言うことはありがたく聞いておけ。そして汗水垂らして働いて将来、俺の分の生活保護費を頑張って作れ」
まあ、未来に生活保護という制度がまだあるかはわからないけど。
「うわぁ、最低だな」
「今更知ったのか。俺は生まれた瞬間から最低だ。文句は俺の親に言え。性格は遺伝するらしいからな」
「そんな酷いこと言うわけないっしょ」
「まあ、本当に言われたら困るから助かるな」
こんな自分をなぜ作ったのか。そんなことを産んでくれた親に言うのは誠でも良心が痛むし、言っても良いことはないのでしない。それに、誠は自分の性格や生き方が嫌いではないのだ。むしろ好きだから呼吸を続けている。
「お兄さんって晴香のこと好きなの?」
純粋な疑問を夏菜子は誠にぶつける。大体、見ていればわかるけどそれでも聞かずにはいられなかった。
「好きだよ。単純接触効果が働いたからだと思うけど、そうとは思いたくないほどには好きだ」
「気持ち悪いなぁ」
夏菜子は真顔でそう言った。
「人の気持ちを自分から聞いておいて気持ち悪いは酷いだろ」
「だって気持ち悪いでしょ。理由なんて無理矢理探さなくてもシンプルに好きだけで良いのに」
「そんなの特別じゃないし、本物じゃないだろ?」
誠の憧れたラノベの主人公だって本物が欲しいと言っていた。
それを見習って誠も本物を欲しがっている。
「お兄さんって意外とロマンチストなんだね」
ロマンのカケラもない男がそんなことを言われる。
「リアリストがニートなんてやっているわけないだろ」
「あはは、それもそうだね」
スマホを確認して夏菜子は起き上がり立ち上がる。
「そろそろ行くね。私、お兄さんと違って忙しいからさ」
「お使いでも頼まれたか?」
少し間を置いてから夏菜子は答える。
「そうだね。お使い」
誠は苦笑する。
「ギャルなのに似合わないな」
「お兄さんも何か頼み事があったら私に言ってね。協力してあげるから」
「じゃあ、一所懸命に働いて俺を養ってくれ」
「それはムリ! それに二股はダメだよ」
すぐに否定されて誠は舌打ちをする。
「使えないな」
誠がそう言うと夏菜子は苦笑を見せてから去っていく。それを見送ってから誠は起き上がって言う。
「……俺も帰って食器洗いくらいはするか」
松本誠は働かない。だけど、好きな女の子のためなら少しは動ける、はず。
ニートですが何か? 楠木祐 @kusunokitasuku
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