意思のちから

やざき わかば

意思のちから

 生来からのゲーマー気質で、ゲームが好きで好きで仕方がない。


 小説や映画、音楽、マンガといったありとあらゆる創作物が大好きだけども、その中でもとくにゲームは常軌を逸している。


 あの小さな媒体に、この世と違う世界があり、そしてその世界に生きるキャラクターを操作し、擬似的にではあるが、その世界の一員になれる。これがどれだけすごいことなのか、わかっていただけるだろうか。


 ゲームと言えば、ボード、カード、テーブルと様々存在するが、俺の言っているものはあくまでも「コンピュータゲーム」である。


 将棋やチェスをするとき、貴方は自分をコマに投影するだろうか?


 いや、しないはずだ。将棋やチェスは、コマになりきるのではなく、軍師か神になりきるものだ。玉ですら、プレイヤーの思うままなのである。


 その点、コンピュータゲームは(ものにもよるが)その世界にいるキャラクターになりきるのだ。今、異世界転生のお話が大人気だが、我々人類はその昔から、ゲームという異世界に簡単に転生出来ていたのだ。


 しかし、しかしである。


 俺は贅沢者だった。コントローラを握って、擬似的にゲーム世界を探索するという行為が物足りなく、我慢できなくなってしまったのだ。


 都合の悪いことに、俺は贅沢者でありながら、あまり頭はよくなかった。頭のよくない俺が出来ることは、神に祈ることだけだ。


 俺は家に神棚を祀り、毎日祈った。時間があるときは、神社へ赴き、お百度参りまでした。これはこれで運動になって、一石二鳥だ。俺は健康になった。


 半年、神棚や神社に祈り、俺のハムストリングスもなかなかに成長したとき、なんと俺の祈りが通じた。神が俺の前に顕現したのだ。まばゆい光をともなって、ということもなく、のっそりと神棚から出てきたので、最初は泥棒かとも思ったが、さすがに泥棒は神棚から出てくることはないだろう。


「おう。邪魔するぜ。毎日熱心に拝んでやがるな。ありがとよ」

「あ、あなたは神様ですか」

「てやんでい、やめろよその呼び方。背中が痒くなっちまわぁ。神でいいよ神で」

「では神。現れてくれてありがとうございます。実はお願い事がありまして」

「まぁそうだろうな。お百度参りをここまでする変人だ。さぞかし大層な願いだろうぜ。聞いてやるから、お前の願いとやらを言ってみな」


 俺はゲームへの情熱と、いかにその中に入りたいかを熱く語った。


「なるほどな。俺も長いこと人間界を見てきたんだ。ゲームってやつも知ってるぜ。その中に入りたいと、まぁこういうわけだな」

「はい。その通りです」

「いいか。俺たち八百万の神は、そう簡単に人間の願いを叶えたりなんかしねぇ。だが、強い意思を持った、努力をする人間には手助けをしてやりてぇんだ。お前には、その努力、意思のちからがある。これからも、そいつを忘れるな」

「ありがとうございます」

「じゃあ、入りてぇゲームを頭に思い描いて、『入りたい』と集中しな」


 俺は、冒険ものが好きだ。総じて、RPGが好きだ。俺が入るのは、絶対にこのゲームだと決めていた。


「よし、行くぜ。ただ、向こうに行っても無敵ってわけじゃあねぇ。せいぜい死なねぇように気をつけな。じゃあ、あばよ」


 眼の前に真っ白な光が広がり、身体が浮き上がり吸い込まれる感覚がする。これから、やっと俺はゲームの中に入れるんだ。入ったらやりたいことがたくさんある。俺にはゲーム好きという以外、何もないと思っていたが、こんなに意思の強い人間だったのか。


 この意思のちからがあれば、きっとどこへ行っても、なんでも出来る。俺は栄光ある未来に思いを馳せ




※いしのなかにいる※

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