第2話
渦中に入って何を言い出したかと思えば……本当に何言ってんだ?
バチバチと飛び交っていた二人の視線も今や鎧の発言に頭を傾げる始末。
どこの言語かも分からないその言葉は、鎧の不思議加減をさらに助長させた。
「アルケミー……どういう意味なんだ?」
「……失礼、Alchemyと言うのは錬金術と言う意味です」
「それよりも、先程は助けて下さりありがとうございました」
鎧は「ぺこり」と軽く頭を下げる。
ガチガチな外見とは裏腹中々性格の出来た奴だ。
「いやぁ、気にしないでくれよ。俺死んでると思って拝んでたんだぜ?」
そんな人畜無害な空間に水を差すように
目の前の女兵士は「ううん」と咳払いし話の腰を折る。
「この森に入るような人間は殺せと教わって来た」
「しかし、それとは対照的に救えとも教わって来た」
この森を神聖視するユジの民の掟だ。
理由の善悪で俺達を解放してくれるって事だろう……。
「悪いが、お前達の慈悲で叶うような願いじゃないんだ」
「この先にある願を叶える秘宝が必要なんだよ」
「……理由を聞かせ願おう」
女兵士はそう言うと剣を抜き出す。
善悪なんて極論で分ける人間は厄介だな。
「……過去に戻るため」
俺がそう呟いた瞬間、霧はよりいっそ濃くなった。
微かに見えていた木や草でさえその姿が虚ろになって来ている。
目の前3mも距離が開いてなかったあの女兵士の姿も今は……。
「これは私の魔法、Alchemyです」
「矛盾な思考が霧を濃くして……私達を包む」
*
覆っていた霧が晴れて視界が広がっていく。
「……どこだ?」
周りを見渡すとそこは私の部屋だった。
それも昔家族で暮らしていた家の……。
「なぁ、やっぱり俺はこの子を育てれないよ」
「この子は俺の子じゃない」
扉の先から聞こえてくる怒号。
父親のだ。
「今更何て事言うの!?」
勝てない勝負なのにキンキンと喚き散らかす。
母親のだ。
「産まれた時点でもう遅いんだよ!」
そう叫んだ後何かを叩いた鈍い音が響く。
まだ何もされていないのに涙が流れる。
この肌が……。
私の肌は白色だった。
父と母の肌は黒色だ。
毎晩喧嘩になっては、こうして部屋に閉じこもっていた。
このとき……私はどうすれば良かったのだろう……。
誰からも愛されていない私は……どこに行けばよかったのだろう。
「……なんで産まれたんだろ……」
小さい体ながらもそんな気持ちに脳が犇めいていた。
そして私は逃げ出して……あの森に入って願いを叶えた。
「親を殺して欲しい」
愛を知らない慈愛の心。
宗教なんてルール以前に私の心は完成されていた。
そして私は兵士と成った。
二度とあんな事が起きないように。
それと……もう秘宝を使ってしまった事を誰にも悟られないように……。
*
多少の霧が晴れ、視界が開けた先では女兵士がなぜか倒れていた。
「こいつどうなってんの?」
軽く頬を叩くが起きる気配も無い。
気絶してしまったのか……そう思っていると横から鎧がやって来た。
「催眠をかけたんです、今のうちに逃げるのが得策かと」
鎧は女兵士に手の平を向けながらそんな発言をする。
「へ~なかなかやるんだな」
「お前も来るか? この森の秘宝ってヤツまで、取り分は俺だけど」
「……はい、私もそう提案しようと思っていました」
「……良い成果が出るといいですね」
そんな会話をしていると急に地面が揺らぎ始めた。
思わず倒れ込み何があったと辺りを見渡していると
そこには女兵士の体が渦巻く塔のような物体になっていた。
迷い込んだ深い森の奥、そこには世界の真実があった。 きらみあ @ramia_1116
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