恋人はトイレの花子さん!
崔 梨遙(再)
1話完結:1500字
その日、僕はクラスの女子数人と校舎の3階にいた。僕は、クラスの女子に見守られながら3階の女子トイレの3番目の扉を3回ノックした。
「花子さんいらっしゃいますか?」
と言うと個室からかすかな声で「はい」と返事が返ってきた。そこで扉を開けると、赤いスカートのおかっぱ頭の女の子がいて、僕はトイレに引きずりこまれる。見ていた女子は“キャー!”と叫びながらバタバタと去って行った。誰も僕を助けてくれない。人間がいかに冷たいのか? 小学生ながら思い知った。
僕は中肉中背だが、腕力はある。小学6年生の同学年の中では1番握力も背筋力もある。僕は強引に立ち上がると、女の子のか細い両腕を握って、逆に女の子をトイレから引きずり出した。
その時、僕は女の子と目が合った。
“か、かわいい……!”
女の子は白いブラウスに赤い吊りスカート、そしておかっぱ頭。服装と髪型はイケてない。だが、色白でお人形さんのような美しい顔立ちをしていた。
「何をするのよ!」
「君が花子さんか?」
「そうよ、引きずり出されたのは初めてなんだけど。ここは普通、逃げるか? 引きずり込まれるか? どっちかでしょう?」
「いやいや、そんなことを言うてたらアカンよ。君はかわいいから、トイレに閉じこもってたら勿体ないで」
「じゃあ、どうすればいいのよ」
「ついてこいや、僕の家に行こう!」
「ただいま!」
「お帰り~! って、そのかわいい女の子は?」
「この子、僕の婚約者やねん」
「まあまあ、急展開やね。とりあえず、上がってちょうだい。話を聞くから」
「花子さん、上がって。とりあえず、僕の部屋に来て。お母さん、話は後で」
「親に話す前に、花子さんの設定を考えないとアカンな」
「設定?」
「まずは名前や、苗字は?」
「無い。ただの花子」
「ほな、戸入野(といれの)花子とか、どう?」
「絶対に嫌です! あなた、ネーミングセンス最悪!」
「ほな、好きな苗字は?」
「……伊集院とか」
「ほな、伊集院で決定! 名前は花子でええんか?」
「名前は花子で。あ、漢字は変えたい、華やかという字で華子」
「完全に原型が無くなったなぁ。まあ、ええわ。ほんで、華子さんは両親も親戚もいないことにしよう」
「うん、実際、いないし」
「よし、それでウチが引き取ることにしよう」
「でも、戸籍も住民票も無いよ」
「……親父になんとかしてもらうわ」
「本当に? ありがとう。もしかして、私、学校に通えるかな?」
「うん、一緒に学校に通うで。そうか、華子さんは学校のトイレにいるけど、授業を受けたことは無いよね?」
「うん、授業を受けることが出来たら嬉しい」
「言うとくけど、華子さんは僕の将来のお嫁さんやで。もしも僕のことで気に入らないことがあったら言うてや。華子さんの好みの男になれるように直すから」
「お嫁さん……」
「なんや、僕が相手やったら嫌なんか?」
「ううん、私をトイレから出してくれた恩人だから」
「あ、言い忘れてたな、僕は西園寺歌麻呂」
大人になって、僕は華子と結婚した。子宝にも恵まれた。だが、たまに喧嘩をする。すると必ず華子は、
「実家に帰らせていただきます!」
と言って学校の3階トイレに閉じこもる。放っておくわけにはいかないので、僕は学校の3階トイレで華子に声をかける。
「なあ、出て来てくれや」
「……」
「なあ、僕が悪かったから」
「……」
「なあ、許してや」
「……」
「なあ、頼むわ、許してくれや、出て来てくれや」
「……」
それから、学校の7不思議に、3階トイレで謝る“トイレの西園寺君”が加わった。
恋人はトイレの花子さん! 崔 梨遙(再) @sairiyousai
ギフトを贈って最初のサポーターになりませんか?
ギフトを贈ると限定コンテンツを閲覧できます。作家の創作活動を支援しましょう。
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
参加中のコンテスト・自主企画
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます