リソウノカノジョ
@marumarumarumori
合理的人事整理
この世界で言うところのごく普通の男───佐藤三郎は、ありふれた居酒屋の中にて、失意と絶望の混ざった感情の中に沈んでいた。
その理由は簡単で、つい数時間前にAIによって合理的人事整理、世間一般的に言うところのリストラされたからである。
三郎が生きるこの世界──2052年という時代において、AIは一般企業の人事管理に医療のサポート、バスなどの運転に加えて、ドローンを使用した配達業もするため、なくてはならない存在となっていた。
「はぁ───私が何をしたというんだ」
しかし、三郎はこの時代では珍しく、そんなAIが苦手なタイプの人間だった。
その理由としては、何を考えているのかがサッパリ分からない上に、合理化という名目でアッサリと人を切り捨てる冷酷とも感じ取れる性質も相まって、三郎自身はAIのことをどこか好きになれなかったのだが、時代の流れには逆らえず、勤めていた会社は管理用AIを取り入れ、三郎はそのAIによって解雇されたため、彼のAIの苦手意識にますます拍車がかかったのは、言うまでもない。
「──これだからAIは苦手なんだ」
そう言いながら、配膳用ロボットが運んだ料理と酒に手をつける三郎。
三郎自身、この時代に置いていかれないように努力してきたつもりであった。
しかし、その結果が合理的人事整理という形での解雇だったため、やけ酒に近い形で酒を飲んでいた。
「早く──再就職しないと」
三郎にも家族はいる。
その家族のためにも早く仕事を見つけ、養わないといけない。
三郎はそう思いつつも、やるせない思いを酒に飲むことで発散していたのだが
「あれ?誰かと思ったらサブじゃねぇか」
とある人物が声を掛けたことによって、そのやけ酒は一時中断となるのだった。
「──小林、か?」
その人物は三郎の同級生であり、かつての友人でもあった男──小林誠也で
「隣、良いか?」
そう言った後、三郎の隣に座った。
「──何年振りだ?」
「さぁな?」
そう言った後、二人は酒の入ったコップで乾杯し、再び酒を飲み始めた。
「んで、何かあったのか?」
コップになみなみと注がれた酒を飲みながら、そう尋ねる小林。
その問いに対し、三郎はグイッと酒を飲んだ後、こう言った。
「───合理的人事整理とかいう理由で、AIに会社を解雇された」
その言葉には、解雇されたことに対する悔しさと、どうにもならない苦しみが滲み出たのか、三郎はその苦しみを中和するかのように、つまみのタコ天を食べた。
一方、その言葉を聞いた誠也はただ一言。
「合理的人事整理──ねぇ」
そう言った後、酒をチビチビと呑んだ。
「大企業も中小企業も、今となってはAI頼りだもんなぁ」
「あぁ、だから私はAIが苦手なんだ」
苦々しい顔をしながら、三郎は酒を喉に流し込んだ後、タブレットを使って酒のおかわりを注文した。
「──私がまだ学生だった頃の居酒屋は、こんな風ではなかった」
昔を懐かしむように三郎はそう言うと、店内をぐるりと見渡した。
居酒屋の店内には、メニュー代わりのタブレットがテーブルに置かれていたり、数台の配膳用ロボットがせっせと料理を運んでいたりと、居酒屋でさえ、三郎がまだAIが苦手だと感じる前よりも変化していた。
三郎はその変化がどうにも受け入れられず、何とも言えない表情になっていた。
「恋愛だってそうだ。近頃の若者は結婚前提のAIマッチングアプリとやらを使っているが多いが──何も、結婚相手をAI頼りにしなくとも良いとは思うんだがな」
三郎自身は、最近の流行り廃りには疎い方だ。
だが、三郎が働いていた会社でそのAIマッチングを使う人が多かったため、そのことに対して苦言を言った後、配膳ロボットから酒入りのコップを受け取った。
「確かに、最近の若者は恋愛よりも結婚を重視しているからなぁ」
誠也はしみじみとした様子でそう言った後、三郎の食べていたタコ天に手をつけると
「それに、今じゃ
と言った後、ガブリとタコ天を食べ、酒を流し込んだ。
「───そういや、そういうお前はどうなんだ?」
ふと、誠也の近況が気になったのか、2杯目の酒を呑みながら、そう尋ねる三郎。
すると、誠也はニヤッと笑った後
「今は社長をやってま〜す」
と言った後、三郎に名刺を手渡した。
その名刺は、『ラヴァーズ』という会社名が書かれていて
「───お前、歌舞伎町にでも店を構えているのか?」
名刺を見た三郎は思わずそう言うと、誠也はケラケラと笑った後、こう言った。
「相変わらずお堅いなぁ」
その言葉を聞いた三郎はムッとすると
「お堅くて結構」
そう言った後、誠也が注文したタコさんウィンナーを食べた。
「あ!!それ俺の!!」
そう声を上げるセイヤを尻目に、タコさんウィンナーをもう一個食べる三郎。
そして、酒をグイッと呑むと
「どうせ俺は時代遅れの人間だ」
自身を自嘲するようにそう言った。
学生時代の友人の皮肉めいた言葉に対し、誠也は
「だったら、俺の会社で働くか?」
ニンマリと笑いながら、そう言った。
リソウノカノジョ @marumarumarumori
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