【#45】ティーシャママとのお話

「んふふふ~♪ あなたがウワサの酒クズちゃんねぇ~~?」


「え、えぇ……」


 長い銀髪を揺らしながらこっちに近寄ってくる、ティーシャママ──アミーシャさん。


 彼女はティーシャよりもサキュバスの特徴が強く、その妖艶な姿にドキドキしてしまう。


(な、なんだろう、この雰囲気は? まるで俺に何か仕掛けようとしているような……?)


 そんな風に様子を見守っていると、アミーシャさんは鋭く目を細めてこう言ってきた。


「んふふ~♪ いきなりの挨拶で悪いんだけどぉ、ワタシの”奴隷”になっていただけないかしら~~? 我が魔眼まがんに忠誠を誓え。詠唱キャスト──【イーヴィル・アイ】」


「はっ!?」


 ピンク色に染まるアミーシャさんの瞳。


 その瞬間、アミーシャさんの目から視線が外せなくなってしまった!! これは……魅了魔法か!?


 ティーシャも予想外だったようで、必死に止めてくる。


「ママ!? 何してんの!?」


「んふふ~♪ ティーシャは良い子だから静かにしてて~♪ ね?」


「!!」


 急に糸が切れたように直立するティーシャ。


 彼女はピンク色に染まった目でクスクスと微笑み、母親の片腕に絡みつくように密着していく。


「……はぁーい♡ ティーシャ、良い子だからママの言うコト聞くぅ~♡」


 おいおいおい!? 我が子をも魅了するのか!?


 や、ヤバイ。そういえば、以前聞いた話では……ティーシャのママって【色欲しきよく】をつかさどる悪魔って言ってたな!? だから、ティーシャを上回る実力を持っているのも当然か!?


 そして、しばらくアミーシャさんの目を見つめていると……。


(あ、あれ……? 頭がボーっとして……やばい……意識が持っていかれる!?)


 なんだかアミーシャさんが"自分のママ"に見えてきたような……って、何考えてんだ俺!?


 そうか!! これが彼女の魅了魔法なのか!? い、色んな意味で危険すぎる魔法だ!?

 

 どうにか俺は身体を動かして……腰の妖刀に手をかける。そして──。


「酔剣──【八鏡やかがみ】!!」


 空中に円を描き、俺は魔法を斬り返した。


「!? まぁ!! 流石ねぇ~~♪」


 跳ね返した魔法を回避するアミーシャさん。そして、なぜか嬉しそうに声を上げて言ってくる。 


「まさかワタシの魅了魔法が通用しないなんて!! これも【酔剣】の力ってヤツかしら~?」


「う……う~~ん……」


 その時、ティーシャが目をゴシゴシこすってから、「ハッ!」と気づいたように言った。

 

「あっ!? ママぁ~~~!! また魅了したでしょ!?」


「んふふ~♪ ごめんねぇ~、ティーシャ~」


 アミーシャさんは我が娘に軽く謝った後、俺の方へと向き直って頭を下げる。


「それと、アヤカさんもごめんなさい~。あなたを試すような真似をして……。ヴァルフレッドを倒したあなたの実力、この目で確かめておきたかったの~」


「そ、そうだったんですか……」


 見た目よりも結構豪快な事をする人なんだな……。むしろ「普段は爪を隠してる」と言った方が正しいのか。


 やがて、アミーシャさんは小型の魔法カバンをゴソゴソしながら言ってくる。


「それでその”お詫び”といってなんだけどぉ~。、ワタシからおごらせてくださらないかしら~?」


「!!」


 アミーシャさんが取りだしたのは、大量のお酒!! しかも、なかなかこっちで手に入らない異世界製のものばかり……!!


「やったー!! いいんですか!?」


「えぇ♪ もちろんですわ♪」


「それじゃ、せっかくですし今日はみんなで飲みましょうよー!! さぁ、フリールームへどうぞ!!」「ピィー!!」

 

 フワンちゃんと共にアミーシャさんを案内していると、ティーシャがジト目で見ながら言ってくる。


「アヤカちゃん……ホントにお酒ですぐ機嫌なおっちゃうね? ママにあんなコトやられたのに……」


「い、いちいち気にしててもしょうがないですから!!」


 そう。些細なことは酒に流そうじゃないか!!


◇◆◇◆◇


 その夜。フリールームにて三人で飲む事になった。


「ぷはーーー!! アミーシャさ~~ん、かなりイケる方ですね~!?」


「んふふ~♪ ありがとぉ~」


 ビールジョッキを掲げて応じるアミーシャさん。無防備にサキュバスの翼を広げながら、俺の方を赤い顔で見つめてくる。


「久しぶりに飲むから、ちょっと張り切っちゃってるかも~♡ ほら、ティーシャもガンガン飲みなさ~い? まだお酒はいっぱいあるわよ~?」


「ママぁ~……よくそんなに飲めるよねぇ~。アヤカちゃんのペースについていけるなんてさ……」


 どうやらかなり酔いがまわっている様子のティーシャ。


 そのまま彼女はフラフラと頭を揺らした後、ソファにパタッと横になってしまった。


「スー、スー……」


「あら? もう”おやすみ”みたいねぇ〜?」


 アミーシャさんは軽く笑いながら、ティーシャの頭を太ももへ乗せた。


(う、うらやま……いや、何考えてんだ俺は!!)


 こうして、アミーシャさんと二人きりの状況になった。ちなみにフワンちゃんは向こうでエサを喰っている。


「えっと……」


 やべ……何話そうかな。今までティーシャがいたから気楽に話せたんだけど。


 そうやって迷っていたら、アミーシャさんの方からこんなことを切り出してきた。


「アヤカさん、いつもありがとうね? ティーシャと仲良くしてくれて〜」


「えっ!?」


 あまりにももったいない言葉だった。俺は思わず両手をブンブン振って頭を下げる。


「と、とんでもないですよ!?  むしろこっちがお世話になりっぱなしですよ~~!! そもそも元々わたしはティーシャの大ファンですから!?」


「んふふ〜♪ 嬉しいわぁ〜、このをそんな風に言ってくれて♪」


 ワインをグラスに注ぐアミーシャさん。


 彼女はグラス上で揺れるワインの波を、はかなげな目で見つめながら呟いた。


「……ティーシャに聞いたわ〜。ワタシ達の家の事情、この子から聞いたのよねぇ?」


「!! え、えぇ……まぁ」


 そう言われて、俺はティーシャから聞いた話を思い出した。


 ティーシャの一家は異世界アルターで隠れるように暮らしていた。


 だが、魔界デモニアからの刺客により、ティーシャは幼くして父親を亡くしたそうだ。


「ティーシャのお父様、どんな人だったんですか?」


「そうね。あの人は……本当にかけがえのない人だったわぁ」


 眠るティーシャの猫耳をそっと撫でるアミーシャさん。


 それは父親の血の証であり、アミーシャさんは懺悔するように語り出す。


「あの人が亡くなったのは……全部ワタシのせいなの。ワタシと結ばれなければ、悪魔に襲われる事もなかった……」


「…………」


 どうやら夫が亡くなった事に対し、強い自責の念を感じてるらしい。


 きっとそれほど愛していたんだろうし、俺には計り知れない苦しみがあったのだろう。だが──。


「アミーシャさん。それでも……二人が結ばれたことに意味はあると思いますよ」


「えっ……」


「あなた方がいなければ、ティーシャは生まれてません。そして、ティーシャは配信者として多くの人々の『光』になってます。──それは旦那様が立派に残してくれたモノなんじゃないでしょうか?」


 しばらく黙るアミーシャさん。その後、彼女は少し気が楽になったように微笑んだ。


「そうね〜。ありがとう、アヤカさん。ワタシ、ちょっと弱気になってたみたい〜」


 アミーシャさんはティーシャを優しく見つめながら、自分に言い聞かせるように囁く。


「そう。あの人が残してくれたこの子を守る……それが"母親"であるワタシの役目なのねぇ〜」


 この二人は強い親子の絆で繋がってる──そう思わせられた夜だった。



 

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どうも、酒クズ女サムライです。~呪いの妖刀でTS美少女と化した俺、【酔剣】使いの酒クズ女配信者としてバズリまくる!?~ 深海(フカウミ) @hukaumi

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