第33話 魔神器解放

「うおおおおぉぉおおお!」


 魔神器にありったけの魔力を込める。

 ガントレットに凍てつく冷気が結集。

 俺はゴーレムに向かって拳を振り抜いた。


「『氷点下の正拳ゼロストライク』!」


 全力で繰り出した俺の正拳突きを、ゴーレムが両腕を盾にして正面から受け止める。俺の拳はまたしてもゴーレムの盾に防がれたかに思われた。

 しかし次の瞬間、盾が粉々に砕け散った。


 ゴーレムの両腕がボロボロと崩れ落ちていく。


 これが俺の新しい必殺技の真価。

 魔神器の力で強化した冷気によって敵の身体を凍結させると同時に拳で打ち砕く。

 この技を生身で防ぐことはできない。


「とどめだっ!」


 がら空きになったゴーレムの胴体に、左腕で『氷点下の正拳ゼロストライク』を打ち込む。

 ゴーレムの身体はバラバラになってその場に散らばった。


「ゴーレムが一撃で!?」


 隊列の一番後ろに控えていたメイジーが驚きの声を上げた。


「皆さん、前衛が突破されました!『防護魔法プロテクション』!」


 しかし、すぐさまメイジーはティオの傍に行ってサポートを始めた。

 補助魔法で防御を固められるのはマズイ。

 俺がメイジーに向かって走り出そうとしたその時。


「『紅蓮の驀進プロミネンスドライブ』!」


 ベロニカが灼熱のオーラを纏った突進攻撃で、もう一体のゴーレムの身体を突き破った。

 勢いそのままに、ベロニカはティオに体当たりをかました。


「きゃあっ!」


 メイジーがかけた『防護魔法プロテクション』でも防ぎきれない強烈な一撃がティオの胴体に直撃。

 ティオは大きく吹き飛ばされて地面を転がり動かなくなった。


「くっ、『氷雪球弾アイシクルスフィア』!」


 形勢が傾いたことに気づいたクライブが発動の速い氷魔法でベロニカに攻撃を仕掛ける。


「そんなの当たらないわよっ!」


 ベロニカは地面を蹴って離脱。

 ブーツから噴き出す熱気で加速し、軽々とクライブの魔法を避けた。


「速いっ!?なんて機動力だ」


 クライブは仰天しながらも、魔法を連射。

 ベロニカはクライブから大きく距離を取って回避に集中している。


 しかし、おかげでクライブはすっかりベロニカに気を取られていた。

 俺はその隙を逃さず、クライブに肉薄する。

 俺の拳がクライブの脇腹を打ち抜く寸前。


「『防護魔法プロテクション』!」


 メイジーが防御魔法でクライブを守った。

 だが、それはもう予測済みだ。


「ぐあっ!」


 魔法による防御を貫いて、ガントレットがクライブの身体にめり込む。

 クライブはたまらず膝をついて倒れ込んだ。


「そ、そんな……」


 メイジーが今にも泣き出しそうな顔で怯えている。

 が、すぐに彼女の眼つきが変わった。


「ま、まだ諦めません!」


 メイジーは俺に背を向けて走り出した。

 彼女が向かった先にはティオが倒れている。

 仲間を回復させて戦線を立て直す気だ。


「させるか!」


 ところが、追いかけようとした俺の足が止まる。

 見ると、クライブが右足にしがみついていた。


「こ、この僕がそう簡単にやられるとは思わないで欲しいな」


「くそっ、しぶといなっ!」


 俺は右手に冷気を込めてクライブの背中に触れる。

 すると、クライブが着ているローブがみるみる凍り付いていく。


「なにぃ!?」


 クライブが驚いている内に、彼の腕を振りほどく。クライブの身体の半分ほどが硬い氷の膜に覆われた。


 俺は足元に落ちていた杖を蹴り飛ばす。

 身体の自由は奪ったし、杖にも手は届かない。

 クライブはもう何もできないだろう。


 だが、しっかり時間は稼がれてしまった。

 メイジーはすでにティオの近くまで駆け寄っている。

 

「『血濡れの触腕ブラッディテンタクル』!」


 不意に赤黒い2本の触手が視界に飛び込んで来た。

 触手の先端には刃物がついている。


 あれは、ソウマの魔神器だ。

 二振りの短剣を器用に掴んだ触手がメイジーに襲い掛かる。


「きゃあぁぁああっ!」


 短剣が両肩に突き刺さり、メイジーは悲鳴を上げて杖を取り落とした。

 触手はさらにメイジーの身体を押し込んで突き飛ばす。

 彼女は吹っ飛んで背中から地面に落下した。

 

「よし。勇者以外は全員倒れたね」


 触手と化した両腕を元の形に戻しながら、ソウマが呟いた。

 クライブの隕石攻撃に追い回されたせいで衣服が砂埃まみれになっているが、怪我はなさそうだ。


「こっちはみんな無事だな。後は勇者をなんとかするだけだ」


「でも、アスレイはやっぱり手強いみたいよ」


 ベロニカが武器のぶつかり合う音がしてくる方向を指さす。


 俺がそちらへ目をやると、2つの人影が目にも止まらぬスピードで戦闘していた。

 アスレイは魔神器を解放したエルガノフとも互角に渡り合っている。


「これが君たちの奥の手か。だが、負けるわけにはいかない」


 アスレイの剣が稲妻を纏った。


「『紫電光断しでんこうだん』!」


 エルガノフの槍を弾いて、アスレイの必殺剣が繰り出される。

 その時、エルガノフは魔神器を素早く構えなおした。


「奥の手は、最後まで取っておくものだ」


 エルガノフが振り上げた槍に黒い稲光が宿る。

 彼の十八番おはこである『雷霆葬らいていそう』に匹敵する膨大なエネルギーが魔神器に集約される。


「『雷霆葬槍らいていそうそう』!」


 両者の必殺技が激突。

 雷光が瞬き、衝撃波で大地がひび割れる。

 爆音と共に勇者の身体が宙に浮いた。

 

 アスレイは凄まじい勢いで弾き飛ばされ、俺たちの方まで吹っ飛んできた。


「ぐはあっ!」


 勇者の身体が何度も地面をバウンドし、俺の横を通り過ぎたところでようやく勢いが止まる。

 ズタボロになったアスレイはうずくまったまま立ち上がる気配がない。


「す、すごい……。さすがエルガノフね」


 呆然と勇者を見つめながらベロニカが感嘆の声を漏らす。


「ここからが肝心だよ。ゼラン、説得は任せるからね」


 ソウマは俺の顔を見てそう言うと、勇者の方へと向かった。

 彼の言う通り。

 やっと勇者を説得する準備が整ったのだ。


 俺は大きく深呼吸して、ボロボロになったアスレイの前に進み出た。

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最弱の四天王に転生した俺、殺されるのは嫌なので他の四天王と共闘して勇者パーティを返り討ちにします~なんか仲間たちのキャラがおかしいと思ってたら、実は全員転生者だった件~ 尾藤みそぎ @bitou_misogi

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