第3話 潮風 下

 朔が過ぎて薄い月が高く昇るころ、前の浜辺と同じ場所に向かう。沖から顔を出して様子を窺えば、渚であの人間がぼーっと立っているのが見えた。


「元気そうじゃない。今日こそはと思ったんだけど」

「いつもあんなに酷いわけじゃないよ。昨日はここに来たばかりだったからさ。ちょっとはしゃぎすぎちゃって」

「そ。じゃあもう帰るわ。元気そうだし、他に言いたいことも聞きたいこともないから」


 振り返ろうとすればちょっと待ってと静止されたが、そんなことは気にしない。

 今にも死にそうなくらい苦しんでいたから興味を惹かれただけで、元気にしているならなんの面白味もない。


 けれど、足元の袋から取り出そうとしているものは面白そうだ。潮風を塗りつぶすほどの甘ったるい香り。肉とも果実ともつかない不思議な匂い。風からも潮からもこんな匂いは感じたことがない。


 人間が掌に持っているのは銀色の小さな球体だった。

 銀色の皮を向いた中には茶色い粒が入っていて、つまんでみれば硬い土塊のようだった。


「へえ。地上の土って固めるとこんな香りになるのね。悪くないから貰ってあげる」

「嬉しいな、いい香りでしょ。じつは食べられるんだよね」


 確かに甘い香りはするけれど、硬いし土の塊みたいな色と感触だ。こんなものを食べるだなんて、人間はどうかしているに違いない。


「ウイスキーボンボンって言ってさ。弟や妹がこっそり食べようとしてたのをなんとか取り上げたけど、僕は体調の都合で食べられなくて。君なら喜んでくれるかなって思ったんだけど」

 

 この塊を目の前の人間の弟妹ですら食べたがるらしい。赤ん坊に毛が生えたくらいにしか成長していない連中ですら食べたがるのに、人魚の自分が食べられないのは度胸試しをされているみたいで癪だった。


 なんたらぼんぼんだか知らないが、私は一気にそれを口の中へと放り込んだ。


「ん」


 吐息まで染めていきそうな甘い甘い香りが口いっぱいに広がっていく。舌に乗せると見た目からは信じられないような複雑な味わいがする。苦くて、甘くて、香りが広がって。舐めてみるとねとりと粘りながら溶けていく。


「噛むと中からウイスキーが出てくるんだけど、これもいい香りがするよ」


 人間がそういうのなら噛んでみよう。歯と歯の間にぼんぼんを挟んで、僅かに力を入れると殻が割れるように中からトロリとした液体が流れてきた。ツンと来る香り。舌をしびれさせるような刺激。

 毒を盛られたかと思ったが、とろけたボンボンと舌の上で重なることでまた別の味わいが広がっていく。

 液体の香りとも味ともいえない未知の風味ともあいまって、全身が高揚していくような感覚で満たされていく。


「気に入ってくれて嬉しいな。大人の味らしいんだけど、どんな味」

「美味しいじゃない。あるだけ寄こしなさい」

「あっ。そんなに食べたら。わあ」


 人間がちまちまと皮を向いていたぼんぼんを、まとめて口に放り込む。

 ぼんぼんが放つ香気がさせることなのか。妙に身体が浮き立つような。初めての味。知らない香り。言葉にならない何か。いずれもが私を楽しませる。なんだかとても気分がいい。

 空になった私の口からは歌声が漏れていた。


 Lah—ehya—yaaa—


 普段のように自然と自分を精巧にチューニングしていくような感覚とは違う、自分の感覚が境界と一緒に蕩けていくような感覚。


「あぁ。身体から力が抜けていくわ。まるで喉から音が零れ落ちるような心地」


 喉は暖かで、心臓の鼓動さえもが心地いい。この身体の高まりはどれほどぶりだろうか。 

「いい歌だった。ありがとう。人魚はとても綺麗な歌声をしているっていうけど。なんていうか。想像以上だった」

「当然。そして言葉が足りてない。もっと讃えなさい。人間」

「月並みな言葉だけど喜んでくれるなら。あと僕の名前は万洋だよ」

「へぇ。覚えておくわ万洋。じゃ、聞かせて」

 

 人間はいくらか音楽の心得があるらしく、声だけでなく繊細なピッチの調整や音の選定の仕方まで細かいところをよく聞いていた。地上にない音楽を形容するのだから拙くはあったが、自分のために紡がれた言葉を聞いて悪い気分はしない。

 けれど、私のものにはなっていないのだから限りはあった。


「残念。もう戻らなくちゃだ」

「あらそう。勝手にしなさい、さようなら」


 腕に巻いている時計が小さく震えたのが合図だったらしい。人間は立ち上がって身体についた砂を払い始めた。


「本当はもっとお話したいけど、あまり丈夫じゃないからね。眠る時間はしっかり取って、明日の元気を作らないといけないから。それと、最後に一つだけ」


 まっすぐと私を見つめながら、人間はピンと伸ばした小指を差し出してきた。お土産を渡したいのならぼんぼんの方が嬉しいのだけれど。


「いいわ。その指は貰ってあげる」


 あともう少しで指先が触れるという所で、人間は私の小指に小指を絡ませてきた。なかなか思い切った渡し方だが、気に入った。明日の夜までゆっくり味わってやろう。

 あとは捻ってちぎるだけだと思ったが、どうも違うらしい。


「指切りっていう合図なんだ。こうやって小指を絡ませて人間は約束するんだよ」

「あなたがする約束なんかに意味があると思うの。吹けば飛ぶようなその命で、なんて傲慢なのかしら」

「大事なことだよ。守りたい約束とか、会いたい人がいるから毎日を大事に過ごすことができるんだから」

「けっきょく自分のためなのね」

「うん」


 悪びれる様子もなく人間は頷いた。

 小指をそのまま持っていこうとしたが断られた。明日もなにか持ってくるらしいが、使うためには小指が必要らしい。


「じゃあ。小指は明日いただくわ」

「それが困るけど、また明日ね」


******


「人間が欲しいわ。探しても探しても人間の持ちものばかりでなんだか飽きちゃった。海の底まで招待したら来てくれないかしら」

「歌を聞かせてみましょう。人魚の歌が人間の心を揺さぶったとき、人間は自分から海へと飛び込んでくれます。ですが問題はそのあとです。魂は手に入れられたとしても、肉体は腐ります。使い道も思いつきませんし、どうしましょう」

「提案。食べてしまえばいい。人間が人魚を食べて八百年生きるなら、人魚はいったいどうなるのか。試すべき」


 まだ仲間が人間について話している。夜になれば人間に会いに行くのだから、昼の間はクジラの話をするなり歌っていればいいのに。


「あなたたち。人間が好きなのか興味あるのか知らないけれど、食べてうっかり泡になっても知らないから」


 もしかしたらそうかも。いいや違うに決まってる。どうせすぐ飽きるくせに仲間たちは議論にもなってないおしゃべりを始めた。

 毎度のことで呆れるが今だけは都合がいい。今夜も仲間を気にせず渚まで向かえるのだから。


******


「こんばんは。今日も会えてよかった」

「べつに。ぼんぼんが食べられないか気になっただけ。持ってるだけ出しなさい万洋」

「今日はないんだよね。あれ、もともと僕が食べられるものじゃないんだ。そのかわり面白いものを持ってきたよ」


 万洋が持ってきた袋の中には細長い箱が入っている。

 蝶遣いを開けた箱の中身は三本の銀色の筒だった。三本のうち二本にはタコの吸盤のような丸いなにかがついていて、残りの一本には真ん中より端に穴が開いている。

 食べ物ではないと直感したが、これがどういうものなのかわからない。観察しているうちに、万洋は三本の筒をいつの間にか一本の細長い筒になるように組み立てていた。

 

「フルートっていうんだ。君みたいに歌うことはできないけれど、これを使えばセッションできるよ」

「したいならさせてあげるけど。せっしょんってなによ」

「一緒に音楽を作ることというか。うん、チューニングもまだだし。ちょっと聴いてみて」


 フルートという道具の端についた小さな穴に万洋が唇を寄せる。口笛の音をフルートという道具を使って増幅するなり音色を変えるなりするのだろう。

 ある程度予想はしていたが、聞こえてきた音色はまったく別のものだった。


 透き通るようでありながら広い音域と深みのある音色。人の身体からでは出る音とはまったく違う音が新しい音が耳を揺さぶってくる。

 

「なかなかいいじゃない。でもダメ。トーンが乱れてる。人魚の耳をナメないで」

「チューナーもないのに驚いたな。ちょっと待ってて」


 万洋がフルートの管を少しよこにずらして、またさきほどの息を入れた場所に唇を寄せる。フルートの管の長さを変えて音色を変えているらしい。

 数度その作業を経たあとの音色は僅かな乱れもなく、蕩けるような心地よさを私に届けてきた。


「万洋、あなたのことを誉めてあげる。あなたのいうセッションとかいうの、私はとても楽しめそう」


 万洋にも音楽の心得があるらしい。波に拍子を取らせながら、次に選ぶ音を的確に選んでフルートを奏でている。勝手気ままにそこらの人魚とは違う。

 まさか地上でそんな相手に出会えるとは。


 Lah—ehya—yaaa—


 完成された音楽があるのならそこに足を踏み入れる位置も瞬間も自然とわかる。

 お互いの音をよく聞いて、さざなみの繰り返しに息を合わせれば。自分が歌うべき音どころか、相手が奏でる音さえも伝えられるし伝わってくる。

 自然の脈動。私の歌声。フルートの音色。引っ張られすぎず、しかし寄り添いながらも譲り合い一つの新しい音楽が奏でられていく。


 歓喜と陶酔はいつまでも続いてほしいとさえ思ったが、人間に永遠を求めるのは愚かなことなのだ。

 

「どうしたの」

「わかってるでしょ」


 万洋がフルートから唇を離して、疑問を投げかけた瞬間。私はその唇を指で塞いだ。

 あれほど狂いのなかった音色を奏でていたはずの呼吸が、フルートから口を離した瞬間から千々に乱れている。


「聞こえているのはフルートの音色だけだと思って。あなたの心臓の脈動。身体中を巡る血液の流れ。筋肉の収縮。すべて聞いているわ。私たちの音楽に雑音はいらないの」

「それは」


 あれほど人懐っこかった人間の表情に初めて陰りが見えた。怒っているとも怯えているともつかない哀しい顔。

 慰めるつもりもないし、方法も知らない。


 けれど私はこの儚い命にできることがある。だから潤んだ瞳を拭う万洋に小指を差し出した。


「今日は返してあげる。このまま死んだら困るもの。ゆっくり休んで明日またおいでなさい。そしたらあなたのこと、私がどうにかしてあげる」


 震える小指を万洋は縋るように私の小指へと絡みつけてきた。

 人間の血が通った身体の手触りは素晴らしいと感動する。けれど、この温かさはとてつもなく残酷な事実があるからだ。


 朝と夜の間に目まぐるしく温度が変わり。雨が降れば風も吹く。温かい血と肉は、海の静寂とは違う地上の激動に耐えるためのものだ。鼓動さえ覚束ない身体に保持できるものではない。


 もはや地上は万洋の住処ではない。


「ありがとう。でも、僕は君の名前もしらないのに」

「名前なんて地上のものは水底に必要ないの。また会いましょう」


******


「私は決めたわ。今夜浜辺に上がって人間を連れ去ろうと思うの。かわいらしい女の子にしようかしら。かっこいい男の子にしようかしら。どちらも連れていきたいわ」

「賢そうな大人は面白そうですし、元気な子供は楽しそうです。目についた人間はみんな水底へ引きずり込みましょう」

「承知。みんなで歌えばたくさん連れていける。好きなのを選んで、あとは沈めてしまえばいい」


 夜に備えてたっぷりと寝だめしておくつもりだったのに、いつもの三人組がとんでもないことを言うものだから跳ね起きた。

 まさか私のやろうとしていることがバレたのか。とにかくこいつらを今夜浜に上げるのは絶対に阻止しなくてはならない。


「勝手気ままに歌うばかりのあなたたちには無理。試しに三人で歌ってみなさいな」


 言い出しっぺの私が歌う曲を選び、気まぐれな人魚を三人横一列に並ばせて。手拍子までして拍を取っている。


「みんないいわよね」

「ぜひやってみましょう」

「いつでも歌える」

「せーのくらい言ってあげるから人魚らしい声を聞かせなさいよね、あなたたち」


 手拍子でリズムの把握くらいはできていただろうに、三人の合唱は酷かった。

 まずスタートが揃わない。お互いの声質は把握しているだろうにパートの担当がバラバラだ。人魚だけあって一人一人の声はいいのだが、重なった結果が不協和音になっているので耳障りになっている。

 人魚と人間があれほど見事な音楽を作り上げたというのに、コイツらときたら。


「はいやめ。あなたたち、合唱以前にユニゾンの練習から始めなさい」


 仲間たちはああしないかこうしてみようと意見を交わし始めた。耳がよくても声がよくてもこんなもの。昨晩のセッションには遠く及ばない。


 私が満足できる音楽を作り上げるには、やはり万洋が必要なのだ。


******


 渚に向かっても万洋はいなかった。

 愚かな人間のことだから集まる場所を間違えたのだろうと思って、浜辺を端から端まで探してやったが見つからない。


 ひょっとしたら。あの後どこかで死んだのか。万洋の身体が脆いと思っていたが、まさかこれほど儚いものだとは。

 こうなると知っていれば、けっして手放しなんかしなかったのに。なんであの時一度返してしまったのか。


 最初に出会った渚で潮騒の音を聞いていると、暗がりの中から万洋がひょっこりとでてきた。

 抱えた鞄の中身はずいぶんと膨らんでいて。うっすらとだが、あのぼんぼんとかいう食べ物の匂いもする。私の機嫌を取ろうとしたから遅れたのだろうが、こんな思いをさせておいて許せるはずがない。

 なにがあっても離すものか。


「待たせてごめんなさい」

「なにを謝っているの」 

「それは。待つのって寂しいから。約束を破られたって思うのは辛いでしょ」

「人間なんかと一緒にしないで」

「そ、そうなんだ。今日は面白いものを持ってきてね。楽譜っていうんだけど」


 言葉はなにもいらない。私たちは音楽を通じて心を通わせ会えるのだから。そして万洋が音楽を奏でるのに、もう楽器は必要ない。魂からあふれ出る音色がこれからあなたが奏でる音楽なのだから。


 華奢な肩に両手を添えて、月光が微かに映る瞳をまっすぐ見据える。細いながら幼さを残している指先。なだらかな肩。折れてしまいそうな首筋。薄い唇。柔らかな頬。

 どれもこれも、万洋の命を支えるにはどれもこれもが心もとない。


「ねえ万洋。あなた、海に来なさい」

「ぼく泳げないんだけど」

「肉体は置いて行ってもらうから心配ないわ。魂だけ連れていくの」

「それ戻れない感じだよね」

「未練なんかあるのかしら」


 肩に回した手を背中に回し、引き寄せられるように私は万洋を抱いた。返答を聞くつもりはないのだから。耳の後ろから首の付け根あたりの髪に頬ずりをして、生きている肉体の香りをゆっくりと胸に収める。

 この場で食べてしまいたいくらいだが、このまま海へは持ち込めない。とても残念だ。


「二度と地上には返さない」


 私の声が聞こえてから、言葉の意味を理解するまでどれほどかかったのだろう。万洋がどれほど賢いとしても、今の自分になにが起きたのかは理解できまい。

 吸った息を吐くより前に浜辺から沖の深い深い潮の流れへと引き込まれたのだから。


「万洋。あなたに永遠をあげる」


 自分がどこにいるかわかったところでもう遅い。空気なんてものに包まれている地上の生命にとって海の重みは耐え難いだろう。指の一つすら満足に動かせず、肺は空気を取り込めず、水温は瞬く間に身体を冷やしていく。


「やっと。やっと私のものに」


 安らかな永遠こそ人魚が人間に贈る祝福。なにもあなたを苦しめない。誰もあなたを傷つけない。だからあなたの全てを私に奪わせて。

 唇を開いて私は初めて誰かのために歌い始めた。


Lah—ehya—yaaa----


 水底において人魚の歌声から逃げられるものはいない。歌に蕩かされた魂は、肺から漏れ出た最後の一息と共に零れてしまうのだから。

 水圧に潰された万洋は僅かの抵抗もできずに命と空気を漏らしていく。喉も、口も、胃も、肺も、身体中の全ての空気が海に置き換わるのももうすぐだ。


 肉体は腐り落ちてしまうのだから必要はない。病み枯れて朽ちていくものを私たち人魚は選ばない。地上の者には地上の物を返してやればいい。それで人間は結論を付けてしまうから。


 だから彼の魂は私の物に。見えも聞こえも触れることすらもできない輝きを泡の牢獄に閉じ込めて共に消えるその時まで抱え続けていたいのだ。


 万洋の瞳から光が消えていく。肺に残った僅かな空気を使って絞りだした最期の言葉は泡となってもう聞こえはしない。

 聞こえはしないはずなのに誰に向かって喋っている。私を映して役目を終えた瞳が、私以外の誰かを見つめている。


『万洋。誰よそいつは』


  最後の一息と共に魂が零れて、闇を練りこんだようになにも見えない海の中で鮮やかに輝いている。

 極彩色のような、淡く儚い色合いの七色の光。その中に浮かび上がるのは様々な人間と多様な音楽を作り上げる万洋の姿で、どの景色にも一人の人間の姿がある。


 どことなく万洋に似ている、少しだけ大人びた女の姿が。


 あれだけ音を心を重ねて、魂を響かせあったのだからわかってしまう。

 万洋の音楽はこの女と作り上げて、この女を目指して、この女のために楽器に触れて今も続いている。

 海を沸騰させてもまだ足りないほどの怒りが全身を爆発させんばかりに巡っていく。万洋があの女に、私が万洋にどのような想いを抱いているのかを余すことなく理解してしまったから。


 魂を保管して音楽を永遠にするということは、万洋の想いを永遠にするということだ。最初から私のものではない魂を大事に抱えるなんてことは認められない。海に隠せば他の人魚にいつか見つかり、手放せば作り上げた音楽を一つ失ってしまう。


 ついに唇からも零れた万洋の魂を、逃さないように口に含む。

 いっそ噛みつぶして呑み込んでしまおうとも思ったが、唇を寄せて息と一緒に詰めなおす。魂を受け取った万洋は息を取り戻して私から酸素を受け取っていく。

 これで一命を取り留めたわけだが、万洋が陸まで泳ぐのは無理だろう。あの華奢な身体を大切に陸まで運んでやらなければならないが、そんなことは人魚のやることじゃない。恋破れた人魚が愛しい相手を陸に返せば泡になって消えてしまうのだから。

 万洋の瞳に映る自分もはっきり見えるほど顔を寄せて、お互いの唇を初めての方法で触れあわせた。

 彼が夢見たものを一つ私のものにできた。それだけは人魚でなくなっても忘れたくない。


 風に運ばれるように浮き上がった私が見たものは、泡になった自分の身体が万洋の身体を瞬く間に運ぶところだった。

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風の産声 柏望 @motimotikasiwa

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