第3話 チャレンジのはじまり
次の日。
今日もぼくは放課後、商店街で扉探し。
……まぁ扉は見つからなかったんだけど。でもでも、今日はそれだけじゃ終わらない。
「ただいまぁ」
「おかえり―」
ぼくは手洗いうがいをしながら、昨日考えた計画を思い浮かべる。
ご飯を食べた後は部屋にこもって、三十分だけ算数の教科書を見ながら勉強をしよう。
来週の月曜日が算数のテストだから、日曜日まで。だから、今日を入れて三日間。
うん、それがいい。三十分じゃなくて二十分でもいいけど……。
夕飯のハンバーグをおなかいっぱい食べて、いざ、部屋へ。
ガチャリと開けた自分の部屋の中は、とにかく乱雑としている。
床には投げ出された紺色のランドセルに、散らばったプリントたち。せっかく畳んであった服が崩れてぐちゃぐちゃになって広がっている。……お母さんが見たら悲鳴を上げるにちがいない。
まぁ、ぼくはなんとも思わないんだよね。
そんな物たちを踏まないように気をつけながら、つま先歩きで机まで進む。
机の上にあるマンガやおもちゃをガサガサと手で避けて、ノートを広げられるスペースを作る。
そして、テレビでよく見るはちまきを頭に巻いて、気合い十分でえんぴつを握りしめた。
このはちまきに意味があるのか、ぼくにはわからないけど。まぁ、それは置いといて。
「よし」
めざせ、来週の算数のテスト百点!がんばる!
真っ暗な部屋の中、机のスタンドライトの黄色い光をたよりに、心がメラメラと煮えたぎる。
……でも最後の方は気づいたら机に突っ伏してスヤスヤ眠っていて、お父さんに揺さぶられて起きるのがお決まりなんだけど。
まぁ、それも置いといて!
ぼくはそれでも二日間、机にかじりついた。抗えない眠気にことごとく負けながらも。
そして……とうとう来た、明日がテスト当日!
部屋の中、ノートにひたすらえんぴつを走らせる音が響く。
「ふぅ……」
今日のぼくはひと味違う。なぜなら、一度も寝なかったんだ。
この日のためにお父さんが買ってくれた真っ白だった自習ノートは、十ページほどぼくの大きく太い文字で埋めつくされている。
ぼくはその力強く書き連ねられた数字たちを見て、ふふん、と息を吐くと、急いでお父さんに見せにドアを開け放った。
リビングのソファで、山になった大量の洗濯物を畳んでいるお父さんに、ずい、とノートを差し出す。
「どう?合ってる?」
「どれどれ……」
お父さんはいつものにこやかな笑みを広げて、ぼくのノートを受け取ると、計算式を左から右へゆっくり見つめる。
すべてのページをめくり終わると、黒ぶちのメガネをくい、と上げ、変わらない笑顔でぼくを見上げた。
「うーん、はじめはよくがんばってるよ」
そう言って、ポンポンとぼくの頭をなでた。
*
次の日の二時間目。
チャイムが鳴ると、先生がテスト用紙を配っていく。
ぼくは力の限りをつくした、だから大丈夫のはず。
配られてきた紙を見るなり、背中を丸めてえんぴつを勢いよく走らせていく。
解ける、いつもよりも確実に……完ぺきだ!
一日たって、ようやくテスト用紙が返された。
ぼくはあの、全問埋められた今回のテストに自信があふれ出して止まらない。
「前川―」
先生に名前を呼ばれ、テストを取りに前まで歩いた。でも……。
返されたテストを見て、ぼくは氷のように固まってしまった。
五十二点。前のテストの、五点しか上がってない。
赤ペンの、ばつ印のあまりの多さにむなしくなり、ぼくは力が抜けてその場にひざからくずおれた。
「前川、自分の席に戻りなさい」
ぼくの努力をみじんもわかってない先生の声が、とてつもなく冷たく感じるよ。
「そんなに落ち込まなくても……」
テストを取りに来たあゆみちゃんが、ぼくの横に屈んで顔を覗き込む。
あゆみちゃんはいつもやさしいんだよね……。
「ありがとう……」
その温かさにほっこりして、あゆみちゃんの方を見る。
すると、ちらりと見えてしまった、あゆみちゃんのテスト用紙を。
百点……はなまる……。
そういえばあゆみちゃん、頭よかったよね……。
そしてぼくはガックリと肩を落とした。
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