かわいくて小悪魔な睦月君の無自覚誘惑?

一筋の雷光

かわいい男の娘の無自覚誘惑?

 既にシャツの中が汗だくになる程暑苦しい6月中旬のある朝。


 僕は誰よりも早く教室に入った。

 普段は騒がしい教室も、朝早くに来れば静かかつ広く、ゆったりとした時間が流れる最高の空間へと一変する。


 朝早くに教室に入り、誰もいない教室でただ一人、窓を開けて窓際に肘を付き、音楽を聴きながら本を読んで黄昏れるのが趣味の一つだ。


 他の趣味や好きな事はサッカーとその他球技、Vtuber、アニメ、ネトゲ等々、アウトドア系からインドア系まで幅広いが、根は陰キャオタクそのものだ。


 陰キャオタクの僕は、彼女居ない歴=年齢(高校2年生)なのは勿論。

 クラスの子達が優しいから孤立していないだけで、友達もほぼ居ない。


 まぁ僕は中学生の時のとあることがきっかけで、いわゆる女性恐怖症になり、元々陰キャなのも相まって、恋をするとしても症状があまり出ない二次元にしか恋をしないだけなんだけど。


 だから勘違いしないで欲しいのだが、作れないんじゃなくて作らないんだ。

 そのお陰で悠々自適に趣味を楽しめてる訳だからね。


 教室の扉を開け、静かな教室を穏やかな気分で闊歩する。


「まだ6月だってのに暑すぎる! 僕暑いの苦手なんだよな」


 僕はシャツで胸元を仰ぎながら席へ向かった。


 席は窓際一番後ろと言う主人公席だ。


 席に着いた僕はカバンを机の横に掛け、漫画とスマホ、そしてワイヤレスイヤホンを取り出した。


 そして窓を開け、窓際に肘をついてイヤホンを耳にはめて音楽を流し、漫画を読み始めた。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



 数分後。


『ま〜た漫画と音楽で黄昏れてる。ボクにも聴かせて』


 僕が窓際に肘をついて漫画と音楽を聴きながら黄昏れていると、何者かにイヤホンを外された。


「っ! 何!? ……って何だ、睦月君か」


 後ろに振り向くと、そこには透き通った白皙の肌に白のニーハイと制服を着ており、艷やかな白髪ショートに色素の薄いオレンジ色に澄んだ瞳をしたかわいい女の子が僕のイヤホンを耳にはめていた。


 いや、正しくは女の子では無く、男の娘である。


 彼の名前は睦月陽斗むつきはると


 身長は160cmぐらい、そして女の子にしか見えない端正な顔立ち。

 男なので当然胸は平らだが、多少引き締まっていながらも柔らかさが分かる体付き。

 髪を染め、目もカラコンなので、ハーフでは無い。


 この高校は校則が緩いので有名な為、それ目的で入学し、髪を染めている生徒が殆どなので珍しい訳では無い。


「何だ、ってひどくない!? む〜」


 睦月君は、ほっぺを膨らませて怒った。


「いや、良かった〜って方の何だだよ。睦月君の事は信用してるし?」

「ふ〜ん。なんか良くわからないけど良かった」


 僕は席に座り、再び漫画を読み始めた。


「ちょっと。ボクにかまってよ」


 睦月君は隣の席に座り、筆箱などを出して、自分の椅子ごと僕の席に近づいてきた。


「な、何?」

「いや〜、こんだけ暑いとスカートの中とかニーハイとかが蒸れちゃうんだよね〜」


 睦月君は、ニーハイを脱ぎながら言った。


 白のニーハイがスルスルと脱がされていき、睦月君の白く透き通った生足が露わになる。


 睦月君の生足……。マジで綺麗だな。


 僕は、程よくもちもちとした純白の太ももと、ふくらはぎに釘付けになっていた。


「ん? どうしたの?」


 僕が生足に釘付けになっていると、睦月君が不思議そうに顔を覗かせてきた。


 睦月君のオレンジに澄んだ煌びやかな瞳と目が合う。


 僕は思わず目線を逸らした。


 いやいや、睦月君。これを無自覚でやってるのはかなり危険じゃないかい?

 ここが共学だから良かったものの、男子校だったら絶対ただじゃ済まなかったからね!


 僕は思わずツッコミを入れたくなったが、それを言えば睦月君が恥ずかしがるのは目に見えていた為、ぐっと心の中に留めた。


「いや別に、睦月君も大変なんだなぁ〜って。それよりさ、何で近くに来たの?」


 睦月君はもう片方のニーハイも脱いでカバンに入れた。


「えっと、汗で気持ち悪いからシャツも着替えたいんだけどさ、一人だと脱ぎにくいから、手伝ってくれない?」


 睦月君はシャツで胸元を仰ぎ、暑さで火照った体を冷ましていた。


 シャツで胸元を仰ぐ睦月君の表情は、暑さで火照って崩れており、首筋を滴り落ちる汗が色っぽく魅せた。


 と言うか、胸元を仰いでいるので胸元がチラ見えしているのは、気にしたら負けだ。

 見ないようにしないと。


 僕は胸元から視線を逸らした。


「あ、いやなら全然大丈夫だよ。一人で脱げない訳じゃないし」


 い〜やっ、睦月君それはむしろご褒美というやつです!


 まぁ決して男が好きな訳では無いが、こんだけかわいく頼られるとね? 僕がしてあげないとって思う気持ちもある訳です。


 それに、庇護欲は人が助け合う為に必要な本能なのだ! だから仕方がないよね。


「いや、やらせてください!」


 僕は睦月君の方を向いて、勢いよく大きな声で言った。


「な、何でお願いされる側なのか分からないけど、そんなに言うならやってもらおうかな」


 その後、僕は睦月君と向い合せに座り、シャツのボタンを外していった。


 や、ヤバイこれ。さっきより近いのに加え、シャツのボタンを外してるから、睦月君の汗の匂いとシャンプーの甘い香りが混ざった良い匂いが、辺りにムワッと漂ってて頭がクラクラする。


 僕はなんとか平静を保ちながらボタンを外し終わった。


「よし、それじゃあ次は袖を脱がしていくよ」

「うん」


 睦月君は、心なしか先程までより顔が赤くなっているように見えた。


 ま、僕も汗かいてるのに、近づいちゃったから余計に暑くなったんだろうな。

 睦月君の体調も心配だし、早く終わらせないとこっちの心臓も持たなくなる。


 そんな事を思いながら、僕は再びシャツを脱がせていった。


「ん、ありがとう七星君」


 シャツを脱いだ睦月君はTシャツ姿になり、細い体付きに加え、白く透き通った胸元と鎖骨までもが露わになり、白髪は朝日に照らされて余計に女の子っぽさが増していた。


「いや、別に良いよ。そ、それより早く替えのシャツとニーハイに着替えなよ」


 僕はあまり見ないように理性を保つので必死だった。


「うんそうだね。そろそろ他のクラスメイトが来る時間だし、こんなところを見られたら大変なことになっちゃうもんね」


 睦月君はカバンから替えのシャツとニーハイを取り出し、無邪気に微笑んだ。


 こんな風に、超絶可愛い男の娘と陰キャオタクが近い席とは言え、距離が近くなったのは今から2ヶ月ぐらい前の事。


 僕達が2年生に上がり、クラス替えで新しい教室と席になった時に睦月君が隣の席になった。

 その時は、まさか1年の時から学校で可愛いランキング五本の指に入ると言われていた睦月君が隣の席になるとは思ってもみなかった。


 そして睦月君は隣の席に座ると、半分放心状態の僕には目もくれず、僕がカバンにつけているVtuberのラバーストラップを見て興奮気味に『君もこの子の事知ってるの!?』と話しかけてきたのだ。


 僕はいきなり話しかけられたことで慌てており、付け焼き刃の言葉でその場を切り抜けた。


 この時の僕は、陰キャオタクに舞い降りた一回きりの特別イベント……、そう思っていた。

 が、睦月君の方は違ったらしく、次の日からも学校で暇があれば話しかけてきた為、僕も段々緊張せずに話せるようになっていた。


 僕が自然に話せるようになってからは、顔を合わせる度オタクトークを繰り広げる程仲良くなり、その過程で僕自身の話の引き出しも多くなっていた。

 そのお陰もあってか、いつの間にか女の子に話しかけられても普通に話せるようになっていつの間にかモテ初め、今では僕のことを好きだと言ってくれる女の子も増えてきている。


 まぁまだ現実の女子が怖いのが完全に治った訳じゃないから、ちょっと心の距離を空けて話してるんだけど。


 それでも、本当に睦月君には感謝だ。


 でもさっきも言った通り、この時からなんだよな。無自覚誘惑され初めたのが。

 まぁ2ヶ月も経たずに、急速な勢いで親友レベルで仲良くなったからかな?


 いや、無自覚誘惑される程仲が良いって聞いたことないけど。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



 それから暫くオタクトークをしていると、段々とクラスメイト達が教室に入ってきた。


「おっはよ〜う。むつききゅんと、りお君♪」


 同学年なのに、包容力抜群オーラを辺りに撒き散らしまくっている金髪ロングヘアの女子が、ノリノリで睦月君に抱きついていた。


「ぐっ! いい加減子供扱いは辞めてよな」

「えぇ~。だってりお君、睦月きゅんに負けず劣らず可愛いんだもん♪ 身長も睦月きゅんと変わらないし」


 金髪ロングの女子は、そう言いながら僕の頭を撫でてきた。


 そう、彼女が呼んだ通り、このクラスでの僕の呼び名は『りお君』でほぼ定着してしまっている。てか、なんなら他クラスや学年の人、ひいては一年生にまで呼ばれている始末だ。


 何故、僕の呼び名が『りお君』になったかと言うと、ある日いつものように睦月君とオタクトークをしていると、そこに今も睦月君に抱きついたままの金髪女子が来た。


 そして、金髪女子は徐ろに『ねぁあんたって睦月きゅんに隠れてるけど、男の割には可愛い過ぎない? そんなあんたをちゃん付けで呼べば、疑似百合が出来るんじゃない?』と突拍子も無い事を言い出し、何とか下の名前に君付けをする形で留まってもらって、僕は『りお君』と呼ばれるようになったのだ。


 まぁ昔から低身長かつ女っぽい顔付きと名前だからって、君やちゃん付けされることが多かったから今更だが、流石に年下の女子に君付けされるのは恥ずかしいから辞めて欲しいんだよな。


 その後も睦月君や他のクラスメイトと話していると、担任の先生が教室に入ってきて朝礼を始めた。


「それでは、朝礼を始めましょう」

「きりーつ、礼!」

「「「おはようございます」」」


 その後は特に何も起きず、終わりの会までいつも通りの時間を過ごした。


 これが、僕と睦月君の学校での日常。


 そして睦月君の無自覚誘惑は、学校に居る時だけのご褒美イベント。


 の筈だった……。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



 時は進み、紅葉が街を彩る秋のある日。


 僕はあれからも睦月君に無自覚誘惑されたり、体育祭などの学校行事などで新たな友達が出来たりして、楽しい学校生活を送っていた。


 この頃には、更に仲が良くなったからか睦月君にデレの要素も追加されていた。


 僕の方もここまで無自覚誘惑が続き、デレの要素まで増えて来ると、さすがに睦月君が僕のことを好きなんじゃないかとほぼ確信していた。


 だから、最近は可愛い男の娘に迫られている状況を素直に楽しんでいる。


 時刻は15時頃。僕達はいつも通り授業を受けて、終わりの会を終えている。


 終わりの会を終え、他のクラスメイトはちらほら教室を出ていた。


 僕もカバンを背負い、いつも通り教室を出ようとすると、後ろから弱い力でそっと腕を引っ張られた。


「ん? どうしたの睦月君」

「あ、あのさ。良かったら今週末一緒に映画観に行かない? この間話してたアニメ映画をさ……」


 睦月君は、顔を赤らめて目線をあちこちに逸らしながら言った。


 え? えぇ〜〜!!


 こ、これっていわゆるデートのお誘いと言うやつでは?

 まさか女子より先に男の娘に誘われるとは思ってなかったけど。


「うん。僕もちょうどその映画見に行こうかなって思ってたし行こうか」


 僕は動揺しているのを表に出さず、落ち着いた立ち振舞で話した。


「うん! じゃあ今週の土曜日、駅に集合してから行こ! 時間は帰ってから電話しながら決めよ」


 睦月君は無邪気な笑顔を浮かべて嬉しそうにいつもより高い声で言った。


「睦月君。めちゃくちゃ嬉しそうだね」

「ん? そりゃあだって、七星君とデート出来るんだもん。嬉しくもなるよ……」


 睦月君は恥ずかしそうにしながら上目遣いで呟いた。


「ふふん、なんちゃって〜。ねぇドキドキした〜? ねぇねぇ〜」


 睦月君は小悪魔の様なニヤケ顔で煽ってきた。


 くっ! 今のはヤバかった。完全に心が持って行かれる所だったぞ。


「いや、ドキドキする訳無いだろ。ただちょっと困惑してただけだよ」


 僕は、睦月君に表情が崩れてドキドキしているのを悟られぬように何とか平静を保ったまま下校した。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



 それから数日が経ち、土曜日。時刻は昼の2時、場所は駅付近にある広場。


 そこでは、通りがかる人達が何やらざわついていた。


『ねぇねぇ、あの子めっちゃ可愛くなかった?』

『ね! アイドルとかやってるのかな?』


 女子高生ぐらいの女子2人が、歩きながら広場の中央をチラ見して話し合っていた。


「ん? 何だろう? アイドルとかモデルとかが居るのかな?」


 僕は待ち合わせ時間より十分程早かったのと、待ち合わせ場所と同じ場所だったのでチラ見することにした。


「んなっ!」


 そこにはいつもの制服姿とは違い、全体的に白で統一したスポーティーなコーデにウエストバッグを肩に掛けて、黒の帽子を被っている睦月君の姿があった。


 睦月君はベンチに腰掛けながら、ジト目でスマホをいじっている。


 いや、確かに容姿はアイドルやモデル並みにかわいいですけど、その子実は男の娘なんですぅ〜!


 僕は内心ツッコミを入れながら睦月君に近づいた。


「お、おはよう睦月君」

「あっ! おはよう七星君!」


 睦月君は元気よく立ち上がった。


 白い肌と白髪が太陽に直接照らされ、学校で見るよりも更に神々しく目に映る。


「まだ待ち合わせ時間じゃないのにもう来てたんだね。もしかして結構待ってた?」

「いや、いま来たとこだよ」

「そっか、じゃあ行こっか」


 僕達は、映画館へと歩き出した。


『えぇ〜、あの子結構前から居たよね?』

『うん。彼氏とのデートなのかな? 両方とも初々しくて推せちゃうわ〜』

『でも、相手の子も結構可愛いから分からないね』


 映画館に行こうとしていると、近くのベンチに座っているお姉さん達の話し声が聞こえてきた。


「え? 結構前から、……むぐっ!」


 僕が喋っていると、途中で睦月君の手で口を押さえられた。


「うるさい! 行くよ七星君!」


 睦月君は強い口調で言った後、僕の腕を掴みせかせかと前を歩く。


 ちらっと見えた睦月君の顔は赤くなっている気がした。


「う、うん?」


 僕は頭の中がはてなになりながら、睦月君について行った。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



「いや〜、映画面白かったね!」

「うん! 特にあの戦闘シーンの作画と声優さんの迫力はやばかったよね!」


 夕方の4時半頃。


 映画を見終わった後、僕達は睦月君が行きたいと言っていた、いかにもカップルがデートの休憩所に使いそうなキラキラとしたカフェに来て、飲み物を飲みながら映画の感想会みたいのをやっている。


 いや、出来ればこんなキラキラした、場所に来るなんてあんま乗り気じゃなかったよ!? でも睦月君に誘われたなら行くしかないじゃん?


「ねぇ。ボク、そっちのも飲みたいんだけど、別にあんま喉乾いてないんだよね。ボクのと交換してくれない?」

「え、あ、うん良いよ」


 いきなりの申し出に戸惑いつつも、睦月君にコップを渡した。


「えへへ、ありがとう。じゃあボクの方もあげるね」

「ん、ありがとう」


 そうして、僕達はお互いの飲み物を交換しあって飲んだのである。


 あれ? 僕達って付き合ってたっけ?


 いやいや、友達なら飲み比べ合いぐらいするよな。なに周りの甘い雰囲気に騙されて勘違いしかけてんだよ、僕。


「そうだ! 七星君もパンケーキ好きだよね?」

「うん。好きだよ」


 僕がそう答えると、睦月君はナイフでパンケーキを一口大に切ってフォークで刺した。


 睦月君もパンケーキ好きだったんだ。まぁ解釈一致ではあるか。


 僕がそんな事を考えていると、睦月君が手で受け皿を作りながらフォークをこちらに差し出してきた。


「はい、アーン」

「へ?」

「あれ? 食べないの?」

「い、いや、いただきます」


 僕は頭の整理が追いつく前に睦月君が差し出したパンケーキを口に入れた。


「どう? ここのパンケーキ美味しいでしょ?」

「うん。美味しい」


 僕は睦月君との間接キスが短期間に連続した為、変な事を言うかもしれないと内心焦っていたが、パンケーキが予想以上に美味しかったので変な事を言う前に素直な感想が言えた。


 ふぅ~、良かった。もう心臓バクバクだよ。


 僕は変な汗をかいていたので、残っていた飲み物を一気に飲み干した。


「ふふっ、間接キスしちゃった♪」


 僕が読み物を飲み干していると、睦月君がフォークを見つめて何やら呟いていた。


「ん? 何か言った?」

「ううん、何でもないよ♪」


 そう言った睦月君はさっきまでより更にご機嫌な様子でパンケーキを平らげた。


 こんな風に睦月君とカフェを満喫した後、僕達は外も暗くなってきたのでカフェを出て、とある場所へと向かった。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



 時は進み、辺りはすっかり暗闇に包まれ、街灯や家の明かりが街をまばらに照らす夜6時頃。


 あれから僕達は近くの公園のベンチに座り、静かな時間を過ごしていた。


「あ、あのさぁ、今日はボクのわがままに付き合ってくれてありがとうね。七星君はさ、今日のお出かけ、た、楽しかった?」


 睦月君は、僕の顔を伺いながら尋ねてきた。


「うん、楽しかったよ。映画も観れたし、パンケーキも美味しかったしね」

「良かった〜。七星君に楽しんでもらえるように色々調べた甲斐があったよ」


 僕の言葉を聞いた睦月君は、嬉しそうに柔らかい笑顔を浮かべた。


「あ、あとさ、今日のボクの服装、一応七星君の好みに合わせたつもりなんだけど、似合ってる?」


 え!? いや、確かに最近睦月君が僕の事を好きなんじゃないかって思い始めてたけど。睦月君、そのセリフは殆ど僕への告白みたいなもんじゃないのかい?


 こ、これって、僕も睦月君の勇気に応えるべき、だよな……。


「すぅ~……、ハァ~」


 僕は一旦心と頭の整理をする為に、深い深呼吸をした。


「い、いきなりどうしたの? ってやっぱ今の質問答えづらかったよね。ごめんね変な質問をして」


 横に座っている睦月君の顔を見ると、明らかに落ち込んでいた。


 ま、マズイ。早く言い出さないと。


 僕は睦月君の落ち込んだ顔を見た事により、再び焦りが戻ってきてしまい、話すことも十分に決めずに話し始めてしまった。


「ま、まぁ似合ってると思うよ。睦月君って天真爛漫なかわいい系だからさ、そう言うスポーティーな服を着るとかわいさにちょっとしたかっこよさも加わって、明るい系のかっこかわいい感じになるからいつもの睦月君とのギャップもあって僕はかわいいと思うし、似合ってると思う」


 僕は思いついた言葉から片っ端に並べて、オタクトークの時みたいな早口で一気に思いを伝えた。


「そっかぁ〜、良かったぁ〜」


 睦月君はそっと胸をなでおろしながら安堵の表情を浮かべていた。


 あぁ~、ヤバイ!? 今の僕変な事言ってなかったか? いや、睦月君は良かったって言ってるし大丈夫なのか?


 僕は睦月君の横で、心の中で静かに悶えていた。


「ボク、ちゃんと可愛くなれてたんだ……」 


 睦月君は右手を胸に押し当てて、満面の笑みを浮かべて呟いた。


 僕は隣に座っている為、睦月君の呟いたことがハッキリと聞き取れた。


 今言わないと!


 隣で嬉しそうに呟く睦月君を見た僕は、心の奥底に無理矢理閉まっていた睦月君への気持ちが溢れて出してきていた。


「あ、あのさ睦月君!」


 僕は睦月君の方に体を向けて、睦月君の両手を強く握りしめた。


「へ?」


 睦月君はいきなりの事で戸惑いながら顔を赤らめてどきまぎしていた。


「僕ずっと考えてたんだ。男が、いや男らしい所はあんまないんだけど。かわいいとは言え、男である睦月君を好きになっても良いのかって。でも、今その答えが出たよ……」


 僕は、うるさい心臓の音を少し整え、話し続けた。


「かわいい物が好きな所も、いつも明るくて誰に対しても優しい所も、男にしてはちょっと高い声も、もちろん白皙に透き通った肌とかも、色んな内面や見た目全部含めて、ずっと前から睦月君の事が好きでした。もし睦月君さえ良ければ、僕と付き合ってください!」


 僕は自分が出せる精一杯のイケボで、緊張が伝わらないように、出来るだけ落ち着きながら思いつくかぎりの言葉で想いを伝えた。


「〜〜〜〜っ!」


 僕の告白を聞いた睦月君は顔を真赤にして悶えていた。


 いや、睦月君。悶えたいのはこっちもだからね? 僕、別に今日告白するつもりじゃなかったんだからね! てか、君から誘ったようなもんだからね!?


 僕は恥ずかしさの連続でその場から立ち去りたいのをぐっと堪え、表情を崩さずポーカフェイスを保った。


 僕達はしばらくの間沈黙を続けた。


「いや〜なにはともあれ、やっと告白してくれて良かったよぉ〜。ボク、告白はしてほしい派だからさ。まぁ後少しでボクの方からしようかと思ってたけど……」


 睦月君は手で赤くなった顔を仰ぎながら、わざとらしく大きな声で言った。


「やっとって、やっぱり今までの誘惑の数々は無自覚じゃなかったんだな」


 僕は横目で睦月君を見ながら小声で呟いた。


「えぇ~、どうだろうねぇ?」


 睦月君は、からかうような笑顔を浮かべてニヤついていた。


「ハァ~。まぁどっちでも良いけど。睦月君の方はどうなの? その、一応まだ返事を聞かせてもらってないんだけど」


「あ、そうだよね。今日ぐらい、ちゃんと伝えないと駄目、だよね。ほら、こっち向いて」


 僕達はベンチで顔を向かい合わせにして座りなおした。


「先ずは遠回りな事をしてごめんなさい。ボクも七星君の事が好き、だよ……。その、友達としてとかじゃなく、恋愛感情で。だから、こちらこそよろしくお願いします」


 照れくさそうに話す睦月君は、月明かりに照らされ、肌や髪がいつも以上に白く輝き、まるで天使の様だった。


 初めて会った時から約半年、遂に僕と睦月君は付き合うことになったのだった。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



 それから2日後の月曜日。


 日曜日は、お互い一人の時間も好きな為、学校では僕達が付き合っていることを話さないし、バレないようにすると言う約束をしただけで終わった。


 僕はあの告白の時以来、生で睦月君と会っていないのもあり、緊張であまり眠れず、いつもとは違い、皆んなが普通に登校し始めている時間に教室へ着いた。


「おはよう、七星君。今日はちょっと遅かったね。まぁそれでも遅刻はしてないんだけど」


 僕の隣の席には、変わらず女子の制服に白のニーハイを履いた睦月君が座っている。

 まぁ席替えしてないんだから当たり前だけど。


 僕は、教室の窓から入ってくる緩やかな風を感じながら席に着いた。


「いや、ちょっと寝るのが遅くなっちゃってさ」


 僕は遅くなった理由をどうにか誤魔化そうと、あくびをしながら話した。


「ふ〜ん。もしかして、あの時以来初めてボクと生で会うから緊張しちゃたのかなぁ〜」


 睦月君は、ニマニマと煽るような顔を浮かべていた。


「ぐっ!」

「ふふっ、図星みたいだね♪」


 そう言った睦月君はおもむろに椅子を僕の席に近付けてきた。


「ん、何で近づいて来るんだよ」


 僕は睦月君と近づいた事により、一層緊張が高まっていたが、バレないようにクールに返した。


「えっとですね。日曜日に色々考えたんだけどさ。ボクかわいいけど、どこまで行っても男な訳だし、別に女の子になりたいとも思ってないからさ。いつか君がどっか女の子に気持ちが向かないように、今まで以上に無自覚な誘惑をしようと言う考えになった訳です!」


 睦月君は、自信に満ち溢れた表情で胸に手を当てて宣言してきた。


「いや、それ言ったら無自覚にならないと思うんです……が!?」


 僕がツッコミを入れていると、睦月君が顔をどんどん近づけてきていた。


 え? は? ここ教室ですけど。普通にクラスメイトもいっぱい居るんですけど!?


 僕は恥ずかしさのあまり、目を力いっぱい閉じ、体全体にも力が入っていた。


「ふふん、頭に葉っぱ付いてたよ。かわいいね」


 睦月君は僕の耳元に顔を近付け、普段より低い声で小さく囁いた。


「ひゃっ!」


 僕は突然の事でびっくりして、声が裏返ってしまった。


 僕が思わず目を開けると、視線の先には右手に葉っぱを持ち、ニコニコと明るい笑顔を浮かべている睦月君が居た。


「クフフ。七星君ってさ、いつもボクに対してかわいいかわいいって感じの反応してたけど、七星君も結構かわいい所あるよね。女装したらボクより可愛くなっちゃうかも〜」


 笑いながらそう言う睦月君の綺麗な白髪は、窓から入る風で緩やかになびいていた。


 い、今のはどちらかと言うと、イケメン睦月君だったよな……。

 ハァハァ、これからの学校生活、僕の心臓持つのかな。


 その後、僕と睦月君はいつも通り授業の準備をして、朝礼を迎えた。


 こうして、睦月君の無自覚?な誘惑は続いていくのだった。

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