女の子様とお高い服

牛盛空蔵

本文

 この季節か。思い出す。

 最後に行ったのは九歳の頃。山形の祖父母の家だ。柱の木は歴史の重みで黒く、鉄の門がそびえる立派な邸宅。

 母の帰省に連れられる形で。使用人が梅仕事をしていた時節。小暑というらしい。

 その山形で、俺は分家の女の子と会った。

 肩まで切りそろえられた髪は艶があり、肌の色は画家がそこだけ塗り忘れたかのように白く、たまに見せる控えめな微笑は否応なく万人の目を引く。

 俺は神に与しないが、きっと彼女は造物主のお気に入りだったのだろう。


 性格以外は。


 その女の子様は、あれから十六年後。

「ねえタカ、この服買いたいからお金出してよ」

 カタログを見せ、暗い黄緑の、なにやらオサレな服を俺におねだりしていた。

「はぁめんどくさ……高い!」

 桁が違う。

「こんな地味な色とデザインなのに!」

「色はアイビーグリーン。あとデザインはガーリーって言え」

「知らねえよ。何に着ていくんだこんなん」

 言うと、「女の子様」は頬を染め。

「タカと、その、お出かけとかしたい……」

 ――これだから造物主のお気に入りは!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

女の子様とお高い服 牛盛空蔵 @ngenzou

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ