奇譚0023 ニセモノ
あー、急に残業とかありえねぇー、、、つーかこれサービス残業とかマジでクソだな!って社宅の自宅の電気が消えている。いつもなら旦那はまだ起きてるはずなのに、もう寝ちゃったかな?ドアを開けて「ただいー」と小声で言うと「おかえー」と旦那の声が奥からする。「何だよ。起きてんじゃん。何で暗くしてんのー?」と言いながらリビングの電気のスイッチを押したが暗いままだ。「ええ?何何?停電?ってそりゃ違うか。電気代払って無かったっけ?」「払い忘れがあったみたいで、さっきコンビニで払ったけど復旧は明日になっちゃうみたい」そう言いながら旦那の影が動いた。「マジかー」「しゃーないね」「ごめんね。私のせいだよね」「いやいや俺もわかってなかったし、誰が悪いって事じゃないよ」光熱費管理は私の役割なのにやっぱうちの旦那超優しいー!むふふやっべー!なんか部屋が暗いのも久しぶりにいいムードになれそうでテンション上がるとか思っていたけど最悪な事を思い出す。
「やべー、昨日買い溜めした肉とか全部ダメになっちゃうじゃん」
「いや、大丈夫。全部食べたから」
「え?全部って全部?」
「うん」
「すごい量あったっしょ?」
「うん、まぁ、なんとか食べれた」
暗い中を手探りで冷蔵庫まで行って開けて中を手で確かめたが確かに冷蔵庫の肉も冷凍した肉も無くなっていた。
「おいおい!うちの旦那の胃袋宇宙かよ!テレビチャンピオン出た方がいいんじゃね!」
「はっはっは、なんか古いし!」とか言われてやけに旦那の肌が恋しくなった。
「なんだよー」と旦那の前でしか出さない声音で旦那の腹辺りを目掛けてお触りしようとする。シャツの下へ手を滑り込ませてヘソの窪みに人差し指を入れようとして違和感を感じた。いつも触れている旦那の皮膚と違う。え?なんだこれ?何が違うのかわからないのに違うことだけがはっきりわかる。これ誰だ?
動かなくなった私に旦那がいつもの感じで「どしたー?」と言うけれど上手く反応できない。暗くて旦那の顔は見えない。私の電話が鳴った。私は手を引っ込めて「ちょい電話」と言いながら玄関を出た。スマホの画面には旦那の名前が出ていた。歯茎が乾いてる。喉も渇いてる。通話をスライドした。
「ごめん、ちーちゃん!残業で今から帰るんだけどご飯どうしよっか?なんか買ってく?でも昨日肉いっぱい買ってたし、って、おーい?聞こえてる?おーい?」
「ごめん、また掛け直す」掠れた声でそう言って電話を切った。今この部屋にいるのは旦那じゃない。そう考えるとめちゃくちゃ怖いけれど、それと同時に無茶苦茶腹がたった。私の旦那への愛情とか2人だけの時間とかそういう色々なものを犯された気がした。私は玄関のドアを開けた。奥から「大丈夫かー?」といつもの旦那の口調や声を真似た何かが言った。「てめー!まだうちの旦那のフリするつもりならぶち殺すからな!!!!」私は腹の底から叫び散らして言葉にならない怒号を喚き散らしながらリビングの扉を開けた。真っ暗で何も見えないはずなのに眼球がぎゅっと伸縮する様な感覚があってザザーとBB弾みたいな小さい黒い弾がベランダの窓の外へと消えていくのがはっきり見えた。リビングの床に炭を擦り付けた様な跡があった。私は異常な空腹感を感じて存在しない獣の遠吠えのような音が腹から鳴った。
了
奇譚領域 アシッドジャム @acidjam
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