第十話 魔法少女と救援②
「あ、第一パーティーの皆さん。探しましたよ」
「何か用かい?」
「あ、はい。先ほど攻略班の一つから救難信号が発せられました。お手数ですが、至急向かってください」
「ちなみに誰から?」
「えーと、第四パーティーになります。Bランクをリーダーとして、Bランク1名、Cランク1名、Dランク2名のパーティーになります」
「おっし、それじゃあ、相沢頼めるか?」
「わ、私ですか?」
「そうだな。今回は第四パーティーということもあるから、あまり難易度は高くない。経験の浅い相沢にはうってつけだろう」
「……わかりました。でも、今回は美咲は連れていけませんよ」
「……大丈夫なの?」
彼女が心配をしてくれるのが伝わってくるが、今回は救援の上に戦えるのは私一人だ。足手まといになる彼女を連れていくのは厳しいだろう。そう考えながら頷くと、彼女もあきらめたように了解してくれた。
「わかったわ。気を付けて行ってらっしゃい」
「葵ちゃん。気を付けてね」
「えーと、相沢さんが向かうということですか?」
「何か気になることでもあるんかい?」
「あ、いえ……。まあ、大丈夫でしょう。それではお願いしますね。信号が発せられたのは三十五階層になります」
「ボス階層か……」
「葵ちゃんなら遠距離攻撃もあるし問題無いわね」
思わず不安そうな表情になってしまうが、氷室さんが太鼓判を押してくれた。そして、みんなの期待を受けて、三十階層へと向かった。三十五階層にもポータルはあるが、ボス部屋の先になるため、三十階層から走る必要がある。私は転移直後から変身して、魔物を無視して疾走する。そうして、あっという間に三十五階層へと到着した。
ボス部屋の扉を開けた私は、その光景に驚いてしまった。なぜなら、そこにいたのは轟とその取り巻き二人だったからだ。もちろん、それ以外にも二人いるが、私を襲ってきたときの光景がフラッシュバックして立ちすくんでしまった。
その間にも、ボスであるグリフォンの攻撃をクロとタマが受け止めていた。受け止めた隙に轟が攻撃を入れるが、すぐに離脱されてしまい決定打に欠けているようだった。他の二人はBランクのはずだが、なぜかほとんど動いているように見えなかった。
「それどころか……。ニヤニヤ笑いながら見ているだけにしか見えないんだけど」
私はその行動に不信感を抱きつつも、彼らを助けることにした。正直言えば助けたくはなかったけど、さすがに目の前で苦戦している人たちを放置する気にはなれなかった。
「『狐火』」
轟たちの前に立つと、消えることのない炎をグリフォンに向かって放つ。しかし、距離があったせいか、あっさりとかわされてしまった。
「むぅぅ、それなら……。『雷光』」
今度は威力こそ弱いものの、速度の速い電撃を放った。攻撃を受けたグリフォンは地面へと墜落し──その瞬間、私の背中から重い衝撃を受けて、身体から力が抜けていった。
「へへへ、まさかこいつが来るとはなぁ。おい」
「轟のバカどもを蹴散らしていい気になっているようだが、流石に俺たちの攻撃はバッチリ効いているようだな」
攻撃をしてきたBランク二人が私の方にニヤニヤしながら近づいてくる。しかし、攻撃を受けてから、体中の力が全く入らなくなっていた。
「無駄だぜ。俺の異能は当たったらしばらく動けねえんだからな」
「そして、俺の異能は触れた相手を精神を自由にできるんだな」
「まったく、使えねえ轟たちを指導してあげてやってたら、とんだお宝が舞い込んできやがった」
そう言いながら、もう一人の男が私の頭に触れる。すると意識が混濁して、何故か彼に身体を捧げなければいけないような気持になってしまった。
「まあ、俺らが可愛がってやるからよ。安心して身を任せるがいいさ。ひゃっはっはっは」
「ダンジョンの中は何があるか分からねえからな。これも事故みたいなものだ。ふへへへ」
朦朧とした意識の中で、彼らの背後にいる轟たちが目に入る。彼らはあからさまに挙動不審だったが、流石にBランク二人に手を出すような勇気は無いようだった。
私が服を脱ぐために帯に手を掛けたところで、背後から抱き留められる。そして、混濁した意識のまま身体が全く動かせなくなった。
「やれやれ、油断するとは甘すぎるな。まあ、それが良い所なんだが」
「だ、誰だてめえ」
憤る男に冷たい視線を送りながら、ライカが答える。
「こいつは我の巫女にして妻であるぞ」
「な、なんだと……」
男たちが動揺するが、それ以上に突然、妻などと言われて私の方が動揺していた。もっとも、意識は朦朧としているし、身体が動かせないのだが、バッチリ聞こえてるんですけどぉぉぉ。
そんな私の気持ちなど、全く意に介さずライカは言葉を続ける。
「人の妻に手を出そうとしてタダで済むと思うなよ。ああ、ダンジョンの中は何が起こるか分からんのだったな。仮に死んだとしても事故だと思うがいい」
「ふ、ふざけんなァァァ」
男は動けなくなる異能を放つが、ライカは右手で掴んで握りつぶした。
「なんで……。動けてるんだよぉぉ!」
「ふん、この程度の力が我に効くとでも思ったか?」
「うわああああ」
男とライカが向かい合っている中、もう一人の男が背後からライカに迫っていた。そして、彼の頭に触れる。
「へへへ、やったぜ。これでお前も俺の思い通り──」
「ああ、すまんね。お前の異能のせいで、手加減ができなくなってたわ」
勝ち誇る男の背中からライカの手が飛び出していた。もちろん彼は男の目の前にいて、彼の腕は男の腹を貫通していた。
「あ、あ、ああ」
一人目があっさりとやられたことで、彼我の力の差を悟ったのか男が震えあがる。そして、自棄になった男が異能を乱射する。しかし、彼の異能がライカに効くはずもなく、それは目くらまし程度の効果しかなかった。
「さて、どう始末してやろうか。ふむ、葵もいることだし、少し我の力を見せても良いだろう」
そう言うと、ライカは男の額にデコピンをした。すると、男は突然ピンと立って、ライカの前で敬礼しだした。
「こいつは俺が殺しました。全ては俺の責任です」
「そうだ。本番も、その調子で証言を頼むぞ」
「カシコマリマシタ!」
彼がライカの意のままに動くのを確認すると、私の方に振り返った。
「これが『精神掌握』だ。人間程度なら何でもさせられるぞ。かつては王に使って何千人も処刑したこともある力だ」
明らかにヤバすぎる力だった。しかし、身体の動かせない私にできることは、ライカの話を聞くことと、その光景を見ることだけだった。そして私への説明を終えたライカは轟たちの方へと向かう。
「お前たちもやる気か?」
「「「い、いえ、滅相も無いです。相沢を助けられなくてすみませんでした」」」
「まあ、いいだろう。それじゃあ、戻るか」
そう言って、私を抱きかかえたライカと轟たちは三十五階層の転移ポータルから地上へと脱出した。
「葵ちゃん。大丈夫?」
帰還した私に氷室さんが駆け寄ってきた。もちろん、まだ身体が動かせないので、返事を返すことはできなかった。
「これは、どういうこと?」
「こいつは俺が殺しました。全ては俺の責任です」
私が動けない状態であることと、男の死体を担いでいることを訝しんで尋ねてくる白瀬さんにもう一人の男が先ほどと同じ証言を繰り返す。白瀬さんは降ろされた男の死体に駆け寄り回復を施す。ほどなくして、男は目を覚まし、ライカを見て青くなって震えだした。
「いやいや、おかしいだろ。お前の異能は動きを止めるものだろう? 腹に大穴を開けられるわけがない」
鬼道先生がツッコミを入れる。それは当然のことだった。むしろ、この男が私を攻撃したと思っているらしかった。状況から考えて、そう考えるのが妥当だろう。
「こいつは俺が殺しました。全ては俺の責任です」
しかし、そんな鬼道先生の問いかけにも、先ほどと同じ答えを返す男に不信感を抱いた先生は、白瀬に調べるように命令した。
「これは……。精神が雁字搦めにされています。下手に解除すると、精神ごと崩壊するようになっていますね」
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Re:魔法少女~偽りの異能少女は魔法少女として覚醒する~ ケロ王 @naonaox1126
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