第十話 魔法少女と救援①

「よし、今回は目標の五十階層攻略できたし、ここで一旦戻るか」


 紫電さんの号令に従って、各々転移ポータルに触れて入口へと戻ることになった。


「お疲れさまでした。紫電さん、皆様。攻略の方は如何でしたか?」

「おう、バッチリ五十階層攻略したぞ」


 ダンジョン受付嬢の問いかけに、自信満々に紫電さんが答えると、驚いた様子で電話をかけ始めた。


「はい、はい、えっと、五十階層を攻略成功したらしいです。はい、はい」


 しばらく電話をしていたが、話が終わったらしく、ゆっくりと受話器を置いた。


「えーっと、攻略の件で話があるそうです。第一会議室に向かっていただけますか?」


 その言葉を受けて、紫電さんは私たちの方を見る。全員が頷いたのを確認して受付嬢に向き直った。


「おっけー、それじゃあ、すぐに向かうんで話を通しておいて」

「あ、はい、わかりました」


 お辞儀をする受付嬢に見送られて、私たちは第一会議室へと向かった。


「第一パーティー。メンバー全員到着しました。入らせていただきます」


 私たち全員が中に入ると、一斉に歓迎しながらも見定めるような視線を送る。特に見定める視線は私と美咲の方に向けられていた。


「随分早かったじゃないか。攻略は進んだのかね?」


 会議室に座っている面々のうち、一番偉そうな爺さんが訊ねてくる。


「ええ、もちろん。バッチリ五十階層を攻略して戻ってきましたよ」


 紫電さんの言葉に会議室の中がしばし騒然とする。しかし、爺さんが手を上げると一斉に沈黙した。


「ふむ、偽りは無いようだな。しかし、倒しても蘇るボスと聞いていたが、どういうことだ?」

「俺たちが戦っていたボスは異能だった可能性が高い」


 どうやら、ダンジョンの魔物は異能を使ってくることは無いらしく、その言葉に一同、驚きの表情を浮かべた。


「異能だと?」

「そうだ。もっとも、相沢の力を見た後だと異能だと言い切れないところだけどな。だが、そういった能力だ。分類で言えば召喚系だな」

「なるほど、相手が異能を使ってくると言う想定がなかったことで、宇津木を同伴させなかったことが裏目に出たと言うことだな」

「まぁ、そうなるが。だが、さっきも言ったが異能の可能性が高いだけで、そうと決まったわけじゃない。宇津木の力が効果があるかはやって見ねえと分からねえ」

「だが、異能だと言うことは、その場に異能力者がいたと言うことだろう。何者だったのかね?」

「虫だ」


 ダンジョンに現れた異能力者の正体を虫と言われて、私たち以外は複雑な表情を浮かべていた。


「虫など……さほど脅威では無かろう。お前たちが苦戦する理由が分からんな」

「おいおい、虫だからってバカにするのは良くねえぜ。それが異能を使って魔物をボスだと思わせていたならなおさらだ」


 しかし、大半の人間が、虫という言葉によって、苦戦した理由としては不適当だと考えているようだった。むしろ、Sランクパーティーに難癖をつけたいのではないかと勘繰ってしまう。


「どうやら、頭の悪い連中が多いようだな。ほらよ。これを見ても分からないようなら、お前ら学園には不要だぜ」


 紫電さんが凄んで見せると、先ほどまで非難していた人たちも一斉に黙る。彼らは教師という立場から、公には生徒の上位に位置しているものの、実際にはSランク異能力者の方が実権を持っていたりする。過去にはSランクの意見によって、教師が罷免されることもあったらしい。紫電さんから、USBメモリを受け取った爺さんは、それを会議室のスクリーンで再生した。


「な、なんだ、この数は」

「それに、あの動きは……」

「あれが、全部ボスを召喚できると言うのか?」


 動画にはボス戦の一部始終が録画されていた。それを見た人たちは、一様に言葉を失う。無理もないだろう。ボスを召喚していた虫は、一匹だけではなかったのだから。


「虫が一斉に這い出てきたのは、相沢のお陰だろうな」

「えっ、私が?」

「あの時、轟に使ったものと同じ魔法を使っただろ? だから召喚じゃなくて、突進してきたんだよ」


 確かに、あの時、魔法がかかっているのを確認したのは召喚していた虫だが、キノコは部屋全体に広がっていた。魔法の性質から考えると、明らかに他の虫にも魔法がかかっていたと考えるのが自然だろう。


「もし、相沢の魔法が無かったら、異能を使っていた虫を殺しても、次のヤツが召喚していただろうな。そうして、延々戦い続ける羽目になる訳だ。原因の特定はできるが、結局持久戦にならざるを得ねえってことだ」

「ふむ……」


 あの映像を見て、たかが虫、と侮るような者は一人もいなかった。むしろ、ボスのギミックが分かったことで、私の魔法が無ければ攻略できなかったことが明らかになっただけだった。もっとも、それに気付いていない人も多く、ほとんどは大量の虫に驚いているだけのようにも見えた。


「あい分かった。確かに、五十階層のボスは想定通り、いや、想定以上の難易度だったのは間違いないようだ。皆の者、ご苦労であった」


 そう言って部屋を退室した私たちだったが、そこで先ほどから疑問だったことを聞いてみることにした。


「そう言えば、さっきの偉そうな爺さんって誰なんだろう?」


 その言葉に、全員が信じられないような目で私を見ていた。


「それ、本気で言ってるのか?」

「冗談ですわよね?」

「いやいや、ホントに知らないんだって」

「あれは、この学園の学園長よ」

「えっ?」


 そう言われて、どこかで見たことあったなということを思い出した。


「あはは、まあ無能力者だと関わる機会もないからね」


 実際、無能力者の人たちは学園内で卒業まで耐えるのが大事なので、役に立たない学園長など覚えている人はいないはずだった。


「まあ、そうだけど。学園長を知らないのは葵だけだと思うわよ」

「そ、そっかぁ……」


 どうやら違ったらしい。


「あ、それはそうと、今度Sランクのみんなでバーベキューする予定なんだけど、葵ちゃんと新城さんも来ない?」


 少し気落ちしていた私を励ますためなのか、白瀬さんがそんな提案をしてきた。


「いや、そもそも、Sランクの皆さんって、お互いライバルなんじゃ……?」

「んにゃ。そんなことは無いぜ。同じランクをライバル視するのは、せいぜいBランクまでだぜ」

「そうね。それ以上になると。ランクを上げる意味もあまりないですしね」


 ラノベとかで最強を目指してお互いを潰しあう場面が描かれていたので、そんな感じなのかと思っていたけど、Sランクだとそうでもないらしい。


「まあ、戦うの好きな連中は多いから、模擬戦で勝敗を争ったりするけど、それだけだしな」

「そもそも、私や宇津木さんは戦闘向きの異能じゃありませんしね」

「確かに……」

「そんなわけだから、気にせず気楽に参加して良いって訳よ」

「そ、それなら……」


 そう言いかけたところで、女子生徒がこちらに駆けてくる。

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