第2話 涙のワケ
あれ?ここはどこだ?
目を覚ますと俺は、薄汚れた部屋のベッドの上にいた。何が何だかわからず混乱していると、奥からあの男性が入ってきた。俺を投げ飛ばしたあいつだ。
「よぉ少年。やっと起きたのか」
そう言いながら、当然のように俺に近づこうとしてきた。
俺はその男性から距離を取り、警戒態勢をとったが、男性の、
「また投げられたいのか?」
と言う声に、背筋が凍ってしまい、大人しくベッドに座っておくことにした。
「自己紹介がまだだったな。俺の名前は"斎藤右京(斎藤右京"。気軽に"京さん"って呼んでくれ」
…初対面の相手にいきなりあだ名呼びを勧めてた。コイツ頭おかしいんじゃないのか。なんて思いながらも、また殴られるのが怖いため、一応呼んでやる。
「分かったよ、京さん」
すると男性は、少しの間沈黙して、
「京さんって呼んでくれる人、ホントにいるんだ」
なんて言ってきやがった。お前から言ったんだろ!ふざけんな!と、心の底から思った。
「まあそんな事は置いといて、本題に入ろうか」
ナチュラルに本題に入ろうとしているこの男性。自由人過ぎないかと思いながらも、話を聞くことにした。
「俺はなぁ、この辺で何でも屋をやってるんだ。毎日毎日、色んな人の依頼を解決してよ。中々やりがいもあるんだよ。でもそんな折、ある情報が俺の耳に入ってきたんだ」
何でも屋?情報?何を言ってるんだ?
誘拐したんだから、身代金でも要求するのかと思ったが、どうやら違うらしい。でもわざわざ俺に話したい情報があるって言うんだ。何かしらあるのだろう。
「その情報はな、お前のことだよ、西川クンッ」
…は?俺のことって、本当にどういうことだ?
「名前までは言えないが、近所のおばさんがな、ガーデニングの手入れをする依頼の時に言ってたんだよ。近所に痣まみれの少年がいるって。おばさんの話によるとお前、家庭環境が悪いらしいじゃないか」
うまく隠していたつもりだが、俺の身体中の痣はバレてしまっていたらしい。警察沙汰にまでなったらヤバいな、なんて思っていると、続けて男が、俺に尋ねてきた。
「おまけに学校でまでいじめられている。そうだな?」
俺は直感的に京さんに嘘は通じないと悟り、素直に白状することにした。
「そうですよ。俺は親から虐待も受けていますし、学校でいじめも受けています。でも、知ったからって何になるんですか?俺のことを今まで助けてくれた人は1人もいなかった!それは教師でさえも、家族でさえもだ。それをあんたに何ができるっていうんだ」
俺は本心を全てさらけ出してみた。どうせコイツも何もできないただの大人だ。この話も興味本位で振ってきただけだろう。だったら現実を見せて、相手に距離を取らせてやる。これが1番効果的だ。そう思った。
だがその話を聞いた京さんは、予想外のことを聞いてきた。
「じゃあ君は、人生を諦めているのかい?」
俺は返答することが出来なかった。あんなに諦めた理想も、あんなに諦めた夢も、結局俺は、諦めきることが出来なかったのだ。その様子を見た男は、
「そこで返答を止めることの出来るのは、まだ諦めていない奴だけだ」
なんて言ってきた。
それを聞いた瞬間俺は、涙が止まらなくなってしまっていた。
鬱逆襲 鍵香美氏 @kirikirisu119
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