鬱逆襲

鍵香美氏

第1話 鬱生活

   ◇エピローグ〜子供の頃の記憶〜◇


 "辛い、どうしてなんだ、誰か助けてくれよ"


小さな時によく吐いた他人を憎み、助けを懇願した言葉だ。今ではこの言葉を吐くことはない。だってどうせ"誰も助けてくれない"んだから。




   ◇俺の生活(表)◇

 俺の名前は"西川聖也(にしかわせいや)"、普通の高校2年生だ。彼女はいないし、友達もいない。誇れることがあるとすれば、成績がいつも10位以内なことぐらいだろうか。


 そんな俺だが、先生方には恵まれて、いつも俺の悩みに乗ってくれる。これが俺の心の助けでもあった。


 家に帰れば、優しい母さんが出迎えてくれる。父さんは幼い頃に居なくなってしまったが、それでも俺の生活は幸せだ。


 いつかは俺も進学して、夢を追いかけるんだろうか。そんな日を夢見て今日も1日、頑張るぜ!




   ◇俺の生活(裏)◇

 なーんて生活はもう諦めている。さっきの生活は、俺の"理想"だ。本当はいつもいい成績を取るたびに、クラスメイトからいじめられている。


『調子乗ってんじゃねえ!』


と言われては、顔を殴られ、机をボロボロにされたこともあった。酷い時は、真冬に俺を全裸にして、1時間手足を固定してきた事もあった。


 勿論最初の頃は抵抗したが、直ぐに多人数に囲まれて、ボコボコにされた。


 流石に限度を超えていると思い、俺は先生に相談したこともあった。だが、先生は、


『気のせいだろ』


だとか、


『嘘をつくんじゃない!』


だとか、散々な事を言ってきて、俺の言葉に見向きもしてくれなかった。


 頼みの綱の両親だが、全く頼りにならない。何故なら俺は、母親に幼稚園児の頃から、虐待をされてきたからだ。時に腹を殴られたり、時にベランダに放置されたり、どれも苦しかった。


 優しい父親は、そんな母親の行動を見ると、いつも止めに入ってくれたが、母親の不倫が発覚してからは、燃え尽きたように姿をくらましてしまった。


 その影響で、母親の虐待は、さらにエスカレートし、毎日違う男を家に連れ込むようになった。


 俺の人生はもう終わってるんだ。助けてくれる人なんていない。夢を見るなんてこと、俺にはできないんだ。




   ◇俺の生活(改)◇

 そんなクソみたいな毎日を過ごした学校の帰り道、俺は母親に会いたくないなと思いながら歩いていた。すると、曲がり角から、20代くらいの男性が、突然飛び出してきた。俺は、


「うおっ」


という声を出しながら、その男性をかわした。すると、男性は、


「悪かったね」


とつぶやいてきた。俺はその声を聞き、歩きさろうとした時、なんとその男性が俺の肩を掴んできた。

俺は、恐怖のあまり少し震えた声で、


「やめてください!」


と、叫び、走り去ろうとした。そう、走り去ろうとしたんだ。だが、俺の視界は気づいたら空にあった。俺は何が起こったのか理解できないまま、床に叩きつけられ、そのまま気を失ってしまった。



 

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