第3話

すべてが終わり、俺も男として一つの階段を上った後のこと。

 

俺たちは二人して仲良く…ではないが、ベッドでお互いに裸のまま毛布を共有しながら横になっていた。

 

俺はアリアに対してそっぽを向くように背を向いて寝ていたが、彼女は俺の腹に手を回して、その体を密着させてくる。

柔らかい感触が背中越しに伝わって、このまま寝ることもできそうになかった。

 

「おい、わざわざベットの上で意図的に境界線作って寝てんのに、そっちから超えて抱きついてくるかね普通。」

 

「嫌だった?」

 

「嫌なわけないだろ、俺は。こういう状況は美味しいものでしかない。」

 

「私からしておいてなんだかだけど、不思議だね。私は魔女なのに。私の姿をみた人たちはみんな怯えるか、怖い目をしていたよ?」

 

「そりゃお前から敵意は感じないわ、魔女特有のはずの歪な瘴気みたいなもんも感じられないからな。お前ほんとに魔女なの?」

 

「そう、らしいよ?私は魔女みたい。」

 

「ふーん……それじゃあ、お前はいつでも俺を殺せるぐらい強力な魔法を持っているわけか、……なんで殺さない?こんな体を弄ばれる体験をさせられておきながら。今ならいつでもやれるぞ」

 

「そんなことしないよ?それに、弄ばれたとは言わないと思う……オロオロしていたみたいだから。」

「………ソウデスネ。」

 

確かに、なるべく表に出さないように気を張っていたつもりだったが、それでもバレバレだったみたいだ。

 

「でも私も初めてだったから、お互いにぎこちなかった…かも?それに、エリク君が私も初めてだって気づいた時から気遣い始めていたのもわかってから、やっぱり弄ばれてなんかない、よ。」

 

「……だったら尚更だろ。初めてがこんな感じで、俺に奪われて、お前は悔しくないのか?」

「どうだろうね……」

 

それからアリアは少しだけ腕の力を込めて抱きしめてくる。より体は密着し、頭が擦り付けられる。

 

「あったかいねぇ……」

 

顔は見えないが、声色から彼女は笑っているみたいだった。

なんでそんな風に楽観的なのか、簡単に体を差し出せるのか、俺にはよくわからない。

 

「お前の体は冷たいな。」

「そうだね。」

 

それだけで特に会話が続くこともない。

俺はそのまま彼女の腕をそっと解いて、身体をアリアの方向に向ける。

 

それから今度は俺から彼女の背中に上を回して抱きしめてみる。

 

「お前が特に抱きしめ合うのが嫌じゃないんだったら、こっちの方があったかいだろ。」

 

丁度俺の胸元に頭を預ける形になったアリアは少しだけ体を硬直させて、さがて力を抜いて、再び腕を回して抱きしめ返してた。

 

「………ふふふ。」

 

途端にアリアは声を出して笑い始める。小さく肩が揺れる。

 

「なんで笑っている?」

 

「……出会ったのがエリクくんでよかったと思って。」

 

「どうしてそうなるんだ……ただお前の抱き心地が良くて気持ちいいから抱きしめているわけで、あと胸の感触を堪能しているな。だからそれ以外になんて特に深い意味はないぞ、下心しかない。」

 

そうだ、どこまで行っても俺の中にあるのは醜い下心で、優しさなんて一欠片もない。

 

通常だったら侮蔑の眼差しを向けられて要る場面で笑っているこいつがおかしいのだ。

 

「別に、それでもいいの……それ、だけでも。わたし……は………………あなたに……………………」

 

「?なんて……」

 

そう言って最後の方は聞き取れなかったからもう一度聞き返そうとしたところで、アリアがすうすうと吐息を立てて眠りに落ちたことに気がついた。


疲労がたまっていたんだろう。

 

外はとても静かで鈴虫が鳴いている音がよく聞こえてきた。

「わからないやつだな……」

 

俺も同じように、アリアをそのまま抱きしめながら目を閉じて眠りにつくことにする。

 

そして俺はいつのまにか殺される心配は消え、目の前にいる魔女と呼ばれているこの女を、ただの少女として認識していた。

 

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魔女を匿う代わりに、ヤらせてもらうことにした。 人気者 @fireflies

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