星の子といちにちスイッチ

季都英司

星の子といちにちスイッチ

 とてもひろい宇宙の中に、小さな小さな星の子が生まれました。

 星の子はあっというまに大きくなって、星の子の上には、たくさんの生きものたちがくらすようになりました。


 でも小さい星の子にはわからないことだらけ。

 おとうさん星やおかあさん星に、いろんなことをおそわります。

「星にとって大切なのは、きちんとした一日をつくることだよ」

 おとうさん星がいいました。

「お日さまをむいて、ぐるりとからだをまわすのよ。そうすれば、昼がきて夜がきて、一日ができるから」

 おかあさん星もおしえてくれました。


「とってもむずかしそう」

 星の子は、ふあんなかお。

「しっかり、れんしゅうしなくちゃいけないよ。はじめはこれをつかうといい」

 そういって、おとうさん星が、しかくいはこに、まあるいボタンがついたなにかをくれました。

「これはなに?」

 星の子はふしぎそうにききます。

「これは、いちにちスイッチだよ。ボタンをおすたび、昼と夜をきりかえてくれるんだ」

 おとうさん星がおしえてくれました。

「うわあ、ありがとう!」

「れんしゅうもわすれずにね。やくそくよ」

 おかあさん星がいいました。

「わかった! ぼくがんばるね」

 星の子もげんきいっぱいにいいました。


 次の日です。

 星の子は、一日のれんしゅうをしましたが、なんどやっても、うまくできません。

 からだをまわそうとしても、うまくまわらなかったり、へんなほうにとんでいってしまいます。

 ぜんぜん、きちんとした一日になりません。


 星の子は、いちにちスイッチをつかってみることにしました。

「こうすればいいのかな?」

 スイッチをぽちり。

 からだが、かってにぐるりとまわります。

 むこうにお日さまがみえました。

 星の上が、明るくかがやきました。

 しょくぶつたちもどうぶつたちも、お日さまの下でたのしくあそんでいます。


 もういちどスイッチをぽちり。

 またからだがぐるりとまわって、星空がみえました。

 星の上が、暗くしずかになりました。

 星の上のみんなは、すやすやと、きもちよさそうにねむっています。

「すごく、かんたん! いちにちスイッチがあれば、れんしゅうなんていらないや」

 星の子は、おかあさん星とのやくそくをやぶって、れんしゅうをやめてしまいました。


 それからまいにち、星の子はいちにちスイッチで、昼と夜をきりかえます。

「そろそろ、お昼かな」

 ぽちり。ぐるり。

 星は明るくなりました。

「もう、夜にしようっと」

 またぽちり。ぐるり。

 星は暗くなりました。

 星の子はれんしゅうをせずに、いちにちスイッチをつかってばかり。


 ある日星の子は、いっぱいボタンをおしたらどうなるかな?とおもいつきました。

 ぽちぽちぽちぽち。

 ぐるぐるぐるぐる。

 昼と夜が、ボタンをおすたび、ころころかわります。

「うわあ、とってもたのしいや」

 星の子はおおよろこび。

 なんどもなんども、ボタンをおします。

 そのときです。

『ぴきぴき、ぼかん!』

 いちにちスイッチが、こわれてしまいました。


 するとどうでしょう。

 ぐるぐると、からだがかってにまわります。

 昼と夜はもうめちゃくちゃ。

 夜が長い日は、お日さまにあたれず、しょくぶつがおなかをすかせ。

 昼が長い日は、まぶしくて、どうぶつたちがねむれません。

 昼と夜の長さもバラバラで、みんなおちついてくらせなくなりました。

 れんしゅうをしていない星の子には、もとにもどすことができません。


 とうとう生きものたちは、おこってしまいました。

「お日さまがでないと、大きくなれないよ!」

「ずっとねむれなくて、へとへと!」

 あまりのおこりっぷりに、星の子は泣いてしまいました。


 泣いている星の子のところに、おとうさん星とおかあさん星がやってきます。

「一日の大切さがわかったかい」

 おとうさん星がいいました。

「星がしっかりしないと、あなたの上のみんなが困ってしまうのよ」

 おかあさん星もいいました。

 星の子にもようやくわかりました。

 きちんとした一日がどれだけ大切なのか。

 星の子は、なみだをふいていいました。

「ぼく、こんどこそきちんとれんしゅうするよ」


 星の子は、また一日のれんしゅうをはじめました。

 やっぱり、なかなかうまくできませんが、もう星の子はくじけません。

 なんどもれんしゅうして、だんだんうまくまわれるようになりました。

 お日さまと星空がきれいにみえるのが、とてもたのしくなってきました


 どうぶつたちのこえがきこえます。

「さいきん昼も夜もきちんとしてて、おちつくねえ」

 しょくぶつたちのこえもきこえました。

「たくさんお日さまをあびて、おなかいっぱい」

 そのようすをみた星の子は、なんだかうれしくなりました。

 一日がきちんとしていることは、とてもとてもすてきなことだとおもいました。


「うまくできるようになったじゃないか」

 おとうさん星がいいました。

「もっともっとうまくなって、星のみんなによろこんでもらうんだ」

 星の子は元気にいいました。

「りっぱになったな」

 おとうさん星がえがおでいいました。

「やさしい子になったね」

 おかあさん星もうれしそうにいいました。

 星の子はとてもよろこびました。


「そうだ。これをかえそう」

 そういっておとうさん星がわたしたのは、いつかこわれた、いちにちスイッチ。

 なおしてくれていたのです。

「ぼくは、いらないよ」

 星の子はいいました。

「ほんとうにいらないの?」

 おかあさん星がききます。

「うん、もういらない。じぶんで一日をきちんとしたほうが、たのしくてすてきだから」

 星の子はちからづよくいいました。


 そう、星の子にはもう、いちにちスイッチはひつようありません。

 だって星の子は、きちんとした一日をつくれる、りっぱな星になったのですから。

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星の子といちにちスイッチ 季都英司 @kitoeiji

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