第2話 私の体……気持ちいい?
今日は何もない休みの日と言うことで、自室のベッドの上でダラダラしていたら、突然扉が開かれる。
(扉の開閉音)
//右側の遠くから
「さ、やるわよ!ASMR!」
(千夏がツカツカとこちらへ近付いてくる)
//右側の中くらいの距離から
「ボーっとベッドに寝っ転がってないで、早く座りなさいよ」
「そのままベッドの上に座ればいいわ。楽にしてなさい。
ふふん。前回は全く知識も何にもないままやったからあんまり上手くなかったかもしれないけど、
前回の反省を活かして色々勉強してきたから、今度こそあんたを骨抜きにしてあげるわ!」
「べ、別にあんたのためじゃないんだからね!いいから早く座りなさいってば!」
あなたは床にだらりと足を垂らすようにして、ベッドの縁に座った。
「道具無しでもできるASMRについて調べてたら読み聞かせがいいってどっかのサイトに書いてあったから、
ネットで見つけたいい感じの物語を読み聞かせてあげる。
ふふん。お姉ちゃんなんて目じゃないくらい気持ち良くしてみせるわ」
ポケットからスマホを取り出し、予め用意していたらしいサイトを開く千夏。
「じゃ、読むから、目を瞑って」
千夏はもう少しだけあなたに近付き、練習してきたのであろう優し気な聞きやすい声で語り始める。
//正面の近くから
「ある日の夜、雨風が窓を打ち付けます」
千夏は少し恥ずかしそうにあなたの耳元に唇を寄せた。
//左側のすぐ近くから
「ふ~……ふひゅるるる……」
真っ赤な顔で耳元から離れ、また台本に目を落とす。
//正面の近くから
「少女は毛布に身を包んで、ガタガタと震えていました。
そんな彼女のもとに、一匹の白いネコが寄り添います」
「にゃ、にゃ~」
何故かする必要のないネコの手ポーズまでサービスしてくれる千夏。
「ネコはベッドに飛び乗り、少女の頬を舐め………」
あなたからバッと離れる千夏。
//正面の中くらいの距離から
「…舐め……ましたっ!?そ、そそそ、そんなの、できるわけないじゃない!!」
「た、確かにこの話は私が選んだけどっ、内容を見ずに選んだのよ!!
あらすじに猫と少女のほのぼのストーリーって書いてあったのに!
ま、まあ……猫ちゃんが女の子を舐めてるだけだから……えっちじゃない……かもだけど」
「んん゛ぅ……。と、とにかく!気を取り直して読むわよ。変な所は全部飛ばすからね」
千夏はまたゆっくりとあなたの方へ顔を近付けていく。
//正面の近くから
「少女は震え声で言いました。『ネコちゃん……私を慰めてくれるの?』」
千夏はそこで一旦読むのを止めて、「んんっ」と咳払いしてから、恥ずかしそうに猫の鳴き真似をしてくれる。
「んな~」
ニヤニヤしているあなたを睨みつけながら、続きを読み始める。
「ネコは返事をするように鳴きました。そして少女の頬に寄り添うように顔を擦りつけ……ます」
千夏はあなたの頬を睨みつけるように見てから、小さく頷いた。
「……まあ、舐めるよりかは……健全ね……」
//右側のすぐ近くから
お互いの頬が触れる、吐息が右方の耳元にかかるくらいまで近付いてから、バッと音が鳴る程の速さで離れた。
//正面の中くらいの距離から
「や、やっぱ無理!!……は、恥ずかしい……から……手でしても……いい?」
千夏は恐る恐る手を伸ばし、あなたの頬に添える。
スリスリと、割れ物でも扱うような優しい手付きで撫でながら、愛おし気な微笑みを浮かべた。
「あんたのほっぺた……温かくて、もちもちしてるわね……んふ。赤ちゃんみたい」
もう片方の手も伸ばして、両頬を挟むようにしばらく撫でて、やがて思い出したように声を出した。
「あ……」
撫で過ぎたことに恥ずかしくなったのか、パッと手を頬から離し、気不味そうな顔で目を逸らした。
「ごめん……その……触りすぎた」
「……そう?気持ち良かったのなら……いいけど……き、気を取り直してっ、続き読むわよ!」
「少女は気持ちよさそうに目を細め、ネコをギュッと抱きしめました」
「……ふむ」
千夏はちらりとあなたの隣を見やってから、恐る恐るあなたのすぐ右隣に腰を下ろした。そして少しの逡巡のあと、本当に軽く、触れるか触れないかくらいの力であなたを抱擁する。
//右側の近い距離から
右耳に少しだけ荒い吐息がかかる。
「……どう?私の体……気持ちいい?」
「い、言い方……?……よくわかんないけど、変なこと言っちゃったのなら……気を付けるわ。
……それにしてもあんたの体、あったかくて……ポカポカして……なんだか眠く、なってくるわね……ねむ…く……ん……」
最初は軽く触れるくらいのハグだったが、段々と千夏があなたに寄りかかるように体重を掛けられていく。やがて、可愛らしい寝息が聞こえてくる。
(シーツがクシャってなる音)
//右側のかなり近い距離から
「すぅ……すぅ……んぅ……すぅ……」
あなたは千夏に抱きつかれたままベッドに寝転がり、起こさないように添い寝の形に寝かせて、自分も目を閉じて眠りに入るのであった。
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