第2話

「君、そんなにそれが好きなのね。」


 そう言った先輩は少し憧れているようで、少し悲しそうな表情をしていた。


「そうですね。でも、私、先輩が書いた話気になります! ちょっと読ませてください。」

「ええ。良いわよ。」


 私は、先輩のその表情を少し見て、先輩の思いを感じ取れていながら、気づかなかったかのように振舞った。

 受け入れることは、自分の始まりを歪めてしまうような気がしたから。

 自分の部活の先輩なんだって誇りを持てる存在であってほしかったから。



 そうして、私達は文芸部の部室に着いた。


「ここがですか。」

「そうよ! まずは、私の作品を読んでもらいましょう! そして、君の小説を読ませてね。なるはやで!」

「な、なるはや!? 初めて書くんですよ!」

「まあまあ、君、あれだけの情熱があるんでしょ。いけるよいける。」

「何を根拠に言ってるんですか。」


 そんなことを言ってはいるものの、集中できれば出来てしまうかもなという思いは心のどこかで感じてはいた。


 とにかく、今は先輩の作品を読みたい。そんな思いで溢れてる。


 そうして、入った部室には、様々なものがあった。


「ごめんね。ちょっと汚くて。さすがにこの量は片付けにくくてね。」

「いいですよ。なんか落ち着くので。」

「そう。それじゃ、今すぐ用意するね。」


 そうして、先輩は自分の作品を探し始めた。


 それにしても、この作品の束がある空間いいな。過去の先輩達の情熱を感じれる。

 ちょっと取った作品には、心からの愛を感じる。きっと、この作品の設定を作ることが好きだったんだろう。爽やかな世界だ。


 こんな作品を見たりすると自分は一体どんな作品を生み出せるのだろうかと思う。


「見つけたよ。はい、これ。私の作品。」


 そうやって手渡された作品のタイトルは『いつかのときのように』という作品だった。

 読めば読むほど先輩を表しているように感じる。


 だからこそ、私は届けないといけないのだろう。先輩は今のままでいいということを。足りてないところなんてないということを。




 それからというもの、私は毎日毎日、小説を書くようになった。書いても書いても納得できない。

 書ききっても、届けたいものには程遠い。

 自分はこの程度の文しか書けないのかと嫌気が差す。


 今まで様々な作品を読んできたのは何のためだったのか。

 経験は何も生かせないのか。そう思う。



 ふと、いつも横に置いている本を見た。

 そういえば、『千曲川のスケッチ』は人と人との戦いだったよね。


 アプローチの仕方を変えてみるか。



 そう思いきってからは早かった。確かに、作り直すことはあったけれども、少しずつ、少しずつ、作りたいものに近づいているような気がする。

 確かに、文豪の作品を超えられるわけでは一ミリもない。それでも、少しでも追いかけるような気持ちで、別の目標へ行く。

 それは、今までにしようとしたことがない考え方だったけれども、私はこれがきっと性に合っている。


 そうして作り上げた作品は、先輩に届けることが出来た。

 先輩は渡されるときは遅いよと言っていたものの、読んで、何かが変わったように見えた。


「すまないね。でも、ありがとう。」


 その一言がすべてを表しているようだった。


 そして、頑張ったかいがあったものだった。


 私は、こんなことをしたい。誰かの作品を追いながらも、誰かを救ってあげたい。

 その思いは体を突き動かしつづけた。

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