あの作品を目掛けて

学生初心者@NIT所属

第1話

 私は読書が好きだ。


 様々な文豪の作品を読んでいくと、世界に新たな彩りが与えられる感覚を得られる。

 新書を読めば、今まで知らなかった物事、考え方を知れる。

 それ以外だって、それぞれ個性があり、私とは違う思いが込められている。


 それらに出会うことは、私を進化させてくれる。


 だからこそ、私は暇があれば読書をするし、図書委員にもなったりしている。


 それは、高校生となった今も変わらなかった。


 そんな中学との違いはあまりない高校生活を変える出会いは、突然のことであった。


「やあやあ、君。いつも読書してるわね。」

「なんですか? 馬鹿にでもしに来たんですか?」


 そう、強気に言ってしまうのは、小中の積み重ねだった。

 毎日、隙あれば読書をする姿はほかの人にとって異様な様子であったし、馬鹿馬鹿しく見えるものであったようで、私に読書を否定するようなことを言ってきたからだ。

 限界に達し、怒りその馬鹿にしてきた人達を殴るようなこともあった。

 それから、周りの人間は自分のしていることの良さも理解できない低能ばかりと思うようになっていた。


「いやいや、そんなことないよ。何ならいいことじゃないか!」

「はぁ? 用がないなら帰ってくださいよ。読書の邪魔なので。」

「ちょっとまってよ。読書が大好きな君に少し部活の勧誘をしたくてね。」

「何ですか? 漫研なら行きませんけど。」


 読書好きの人が行くような部活と聞いて浮かんだのは漫画研究部。

 読書という意味では被っているが、ジャンルが違い過ぎるし、何よりも半分遊びのような人たちが入る部活であるため、即座に拒絶をした。

 でも、私の憶測とは異なり、先輩は自分の思ってもいないことを口にし始めた。


「違うよぉ。文芸部だよ。そんなに読書が好きならちょっとくらい作品を書いてみない?」

「文芸部ですか。」


 先輩はちょっと興味があるかな程度で言ったのかもしれない。でも、その一言は目的のない読書の旅の一つの目標を指示してくれたように感じた。

 それでも、考えたことがないことだった。

 だからこそ、悩んだ。


 そして、その様子は少し苦しいようにも見えた。


「ありゃ~。そんなに悩んじゃう?」


 見る分にはそう思うだけだったかもしれない。でも、その言い方は私の中の何かを変えた。

 でも、その思いの中の一つにはムキになったというところがあったのだろう。


「やりますよ! そんじょそこらの人間には負けませんからね。」


 そんなことを言っていた。

 言ったのは自分ではあるものの、いつもとはあまりにもかけ離れた自分に驚きと恥ずかしさでおかしくなりそうだった。


「あ、いや、えっと、その、何というか。」

「ふーん。君ってそんな自分に自信を持ってるタイプだったんだ?」

「え、あの、その。」


 そんなことを言われて、より恥ずかしさが増して、顔がもっと赤くなっていくように感じた。

 それは、リンゴよりも赤い。食べ物ならトマトのように赤くなるようだった。


「っふふ。はははは! 君って本当に面白いね!」


 その姿を見た先輩は、トマトを輪切りにしたような、大口をあける笑い方をしながら、少し泣いていた。


 そんな雰囲気だったからこそ、忘れていたし、気づかなかった。


「君達、ここは図書館ですよ。他に人はいませんけど、静かにしてくださいね。」


 司書の方が近づいていたことを。


「「すみません。」」


 そうして、先輩は図書館の出口の方向に向かって振り返った。


「じゃあ、ちょっと外で話そっか。」

「はい!」


 そうして、ついていこうとして、手元にあった本を思い出した。そして、机に置いてあるたくさんの本も。


「あの~。」

「どうした?」

「ちょっと、片付けるの手伝ってくれません?」

「あ~。そうね。急いで片付けちゃいましょう!」


 動き始めた二人は両方とも慣れた手つきで本を戻していった。


「片付け終わった?」

「ちょうどです!」

「じゃあいきますかね。」


 そうして前を歩く先輩の一歩一歩は飛んで行ってしまいそうなくらい幸せそうに見えた。



「それにしても、君。ザ文学少女って感じの見た目をしてるわね。」

「そうですか?」


 そういわれた彼女の見た目というのは、真っ直ぐなロング、眼鏡。

 確かにそういわれても当然のような見た目ではあった。


「あと、その持ってる本は何?」

「これですか?」


 先輩が指をさした先にあったのは、きれいと言えるようなことは決してない、よれよれとなっていて、読みつくされた本だった。


「島崎藤村の『千曲川のスケッチ』ですよ。私、これが好きなんです。」


 そう言った彼女の笑顔はあまりにも眩しく、読み取ることなんて出来るわけない尊敬の念がそこにはあった。

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