第9話 白色

 気づけば、五月下旬になっていた。毎週月曜日に集まって、短歌を詠みつつ2人で話す時間が『トクベツ』から『日課』になった。



 短歌のことだけじゃなくて、色々な話をした。サッカーはゆるくやりたいから、部活じゃなくてサークルに入ってるとか。カフェの店員と英会話講師のバイトを掛け持ちしてるとか。小学生から中2の途中まで海外にいたとか。


 いろんなことを知れたけど、空木が恋愛に対してどう思ってるかは、本人から未だに聞けないままだ。決意したは良いものの、隣に居られるだけで嬉しくて何もできないでいる。


 いつものように喫茶店で私はアイスほうじ茶、空木はアイスカフェオレを飲みながら課題の話をしていた。空木が働いているカフェの系列店なので、割引が利いて助かる。



「……て、いう感じでいきましょう」

「ありがとう、頼りになるな〜色葉さんは」

「どういたしまして。……そういえばつかぬことを聞いても?」

「どうぞ」

「誕生日はいつなんですか?」

「6/2だね」

「もうすぐじゃないですか!?おめでとうございます!」

「あ、ありがとう。……でもあまり嬉しくないんだよねぇ」

「なぜですか?」

「俺の住んでたところは、この日祝日になっちゃうんだよ。みんなに祝ってもらえなくて大体スルーされちゃうんだよね」

「……私が祝うので大丈夫です!!!」

「あはは、ありがとう。俺、ほしいものあるんだけど」

「なんですか?」

「これ」


 ニコニコしながら空木は写真を見せてくれた。綺麗なドッグタグのペンダントだった。あ、似合う、と思ったけど、結構な値段なので、驚いて空木の顔を見てしまった。



「え、私に買えと……」

「んなわけ。そこまで最低な男じゃないよ」

「で、ですよね」

「じゃなくて、俺と一緒にこれを買いに行かない?」

「え?で、デートってことですか?」

「と、言ったらどうする?」

「もう!からかうのやめてください!」

「ごめんごめん、いつにしようか?」

「え、えっと、」


 嘘みたい、夢みたい。


 そう思いながら慌てて手帳を出して確認する私。ページを捲る手が、震える。



「ここと、ここと、ここが空いてます」

「ほんと?あ、俺この日何も入れてない」

「平日ですし、混まないのでいいですね」



 運がいいことに、木曜日は全休だ。四月に時間割を組んだ自分に感謝したくなった。



「じゃあ、明々後日の13時に待ち合わせね」

「はい。宜しくお願いします」

「楽しみ?」



 そう言って空木に微笑まれる。小悪魔のようなその笑みを久々に見た気がする。なんだか悔しい。弄ばれてる気がする。



 楽しみに決まってるじゃないですか。


 その言葉をグッと堪えて、微笑みを返す。空木にやられてばかりの私ではない。



「空木くんの方が、楽しみなんじゃないですか?」

「うん、俺は楽しみ。じゃなきゃ会うわけないし」

「!!」



……慣れないことはしない方がいい。やっぱり空木には敵わないみたいだ。


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「似合うかな……」


 待ち合わせ場所に10分前に着いた私はそわそわしていた。


 咲良さんのコーディネートで今日は来た。グレーのジャンパースカートに白のカットソーというシンプルで大人っぽい服装だ。いつもふわふわした服ばっかり着る(自分の体型がコンプレックスなので)から、身体のラインが出るものは落ち着かない。



「不快に思わないといいんだけど……」

「なにが?」

「わっ!?」


 自分の姿に自信がなくて挙動不審な私を、空木はすぐ見つけたみたいだ。なんか、恥ずかしい。



「今来たとこ。遅れてる?」

「い、いえ……ちょうどです」

「よかった」


 空木が私の服を見る。


 一瞬、愛くるしい目が鋭くなった気がした。でも、険しいわけじゃない。理由が全く検討がつかなくて、私は困惑した。


「………服、小野と相談したの?」

「は、はい」

「……あいつ……」



……変な気がする。なんでだろ。


 しかし、私が一瞬そう思った次の瞬間、空木はいつもの人懐っこそうな笑顔に戻った。



「?」

「ううん、なんでもない。行こうか、色葉さん」


-----

 アクセサリーは無事に買えた。空木は最初からそのお店にまっすぐ行ったし、買うものを決めてたからすぐに解散かな、って思ってた。でも、そしたら、



「せっかくだから色葉さんも色々見てみたら?」って言われて恐縮しながらアクセサリーを見ていた。


 誕生月のアクセサリーを見ることは好きだからそのコーナーを見ていた。でも、自分の誕生月の11月よりも空木の誕生月の6月ばかり見てしまう。



「色葉さんも六月生まれなの?」

「えっ、いや、違います」

「そうなの?いつ?」

「11月16日です。本当は5月7日に生まれたかったんですけど。短歌の日だから」

「色葉さんは本当に短歌が好きだね」

「はい、とても」



 にへ、とついでれっとしてしまった。空木の前だとつい本音が出る。



「……疲れたでしょ。どこかでお茶しようか。話したいこともあるし」

「………はい、ぜひ」



 何を言われるか不安でいっぱいだったけど、毅然と返事をした。


……きっと今日、彼との関係が変わる一日になる。


 改めて決意し背筋を伸ばしたのだった。


白色のムーンストーンが導くは恋?友情?わからないけど


 続

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恋色葉詠物語 みつるぎおくた @Oct2355

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