第4話 青

「で、で、溜まってる課題は三つ。それぞれ別の色を使う必要がありましたよね?」

「そうそう」


 恥ずかしくて話を逸らした。頷く空木。我ながら名案だけど邪なことを考えた。でも、わたしは欲張りだから聞いちゃうことにする。


「好きな色はありますか?三つ詠むから三つ教えてください」



 そう、彼の好きな色を聞くのだ。話の流れ的に自然だし、そこから話を広げたらどんどん空木のことが知れる。我ながら必死だけど、千載一遇のチャンスなので無駄にしたくない。



「青!あと、黒と………緑かな?」



 青は前々から知っていた。着る服は青が多かったし、持っているものも青系が多かったし。黒もイメージ通りだったけど、緑は意外だったなぁ。



「じゃあ、それを使いましょう。好きなものって短歌にしやすいので」

「なるほどね、説得力があるなぁ」



 そう言ってニコニコ微笑みながら空木は私の方を見る。なんとなく言いたいことがわかって私の顔が赤く、熱くなっていった。



ーー色葉さんは俺のことが好きだから沢山短歌を詠んでるんだね。


 って。



「なんか言いました?」

「ううん、続けて」



……釈然としないが、色から好きなものを聞き出して、それを短歌にしてみよう。



「なんで青が好きなんですか?」

「俺、サッカーが好きで」

「はい」


……とても良く知ってる。サッカーのサークルに入ってるのも知ってるし、何だったら、どのチームが好きかも知ってる。練習試合のとき、黄色い声援を送られている空木を見たことがある。……かっこよかったなぁ。



「サポータークラブ入ってて、結構応援に行くんだけど」

「ふむふむ」



 うーん、それも知ってる。口には出さないけど。さっき空木に見られたノートを取り出してメモしていく。持っているもの、サッカー関連のグッズばかりだし。鞄についているのも選手のグッズらしきものだし。



「ホームのユニフォームが青なんだよね。だからかな」

「……わかりました。例えば、応援しててどういう時に嬉しいですか?」

「え!もう好きな選手が出てきてくれるだけで嬉しいけど……あ、でも特に嬉しいのが、俺、昔フォワードやってて」



 へえ、なんか意外。トップ下だと思ってた。もしくはボランチ。



「あ、いや、ちがうんだよ。俺負けず嫌いだけど攻めるだけって面白くないじゃん?だからトップ下とかボランチやらせて!ってよく言ってた」


 やっぱり。………自分の空木の理想像が現実すぎて引いてる。


「あ、ごめん、トップ下っていうのは」

「知ってるから大丈夫ですよ、続けてください」

「え、色葉さんサッカーわかるの?」

「……はい」


 昔、サッカー漫画の二次創作にハマりすぎたせいで詳しいのは、内緒だ。空木は驚いた顔をしてたけど、ボロが出るので、慌てて話題を切り替えた。



「あ、あの、続き聞いてもいいですか?」

「あ、ごめんごめん。俺だったらこうするなーって作戦が一致してて、それが上手くいくとついつい嬉しくなっちゃうかな。なんか、一緒に戦ってる気持ちになるというか。いや、勿論、チームが勝つのが一番だけど。でも、自分が好きなポジションだから、そういう見方をしちゃうかな」



 聞いた内容を書いていく。私の中ではもう短歌が出来ているけど、それは私の作品だから(と胸を張れるのが嬉しい)、空木の作品にしなくてはいけない。



「空木くんたちサポーターさんたちの中では『青』は自分たちが応援する戦士たちの象徴なんですね」

「『戦士たち』?なんかいいね。あ!五音だ!かっこいいから、俺の短歌に入れていい?」

「勿論です」



 ちょっとそれを狙ってたところもあるけど、採用されるととても嬉しい。口元がついつい緩む。ベージュ色の紙に「戦士たち」という言葉を追加した。



「他どうしようかな」

「そうですね……もし、空木くんが彼らに試合前に話すことができるとしたら、なんて声をかけますか?」

「うーん、頑張ってください、俺たちがついてますよって言いたいかな」

「じゃあそれをそのまま短歌にしちゃいましょうよ」

「え、でも俺たちがついてる、は、えーっと、九音だけどどこに使うの?」

「えっと、音を削るのは難しいので、増やす方がやりやすいです」

「え、増やす?五音と7音しかないのに?」

「2番目と3番目を足して12音、4番目と5番目を足して14音になるように、ってイメージするとやりやすいかもです」



 普段自分が無意識でやってることを言語化するのは難しかったけど、



「うーん試合前だから「今」入れるか。あ!これで12音になったから2番目と3番目に入れられる!で、青はユニフォームの色だから……」



 そう言ってしばらく考える空木を見守っていた。口を出したい気持ちはたくさんあったけれど、それよりも彼自身の作品を見たい、完成して欲しい、という気持ちが強かった。


 そして、私が抹茶オレを飲み終わった後、彼はニコニコしながら課題シートをを私に見せてくれたのだった。



「色葉さん!俺できたよ!見てくれる?」


 眩しい笑顔に魅せられながらも、真剣に課題シートを見る。そこには、彼らしい素敵な短歌が書かれていて。とても嬉しい気持ちが、好きな気持ちが胸で溢れて行った。



「はい、とても素晴らしい短歌だと思います。きっと選手の皆さんも喜びますよ」



戦士たち俺たちが今ついている青色を着て共に行こう




【おまけ】

「色葉さんだったらどうするの?」

「私ですか?そうですね……」


 空木に聞かれたので、もう既に思いついてノートに書いていた短歌を空木に見せた。まじまじと見た空木の目がまんまるになっていくから、少し恥ずかしかった。



11の青色纏う戦士たち祈りよ届け我らの希望



「めっちゃかっこいいじゃん、俺の霞むんだけど」

「ううん、空木くんのも素敵だよ。短歌に優劣とかはないんだよ。単に好みの問題」

「そっか、ありがとう」



 そう言って微笑む空木の目を見れなくて、眩しくて綺麗で。もうなにも入ってないのに、私はマグカップを持ったまま俯いてしまったのだった。

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