第2話 消えた記憶

「なあ、どう思う?」


 昼の社内食堂。テーブルの向かい座るシゲに、再び夢の話をしてみた。矛盾を感じて夢だと気付いても見続ける明晰夢めいせきむ。本当に何かの暗示ではないと言い切れるのだろうか。もしかしたら大学時代に苦楽を共にした仲間の身に、何かが起きているのではないか。そんな不安が募っていた。


「明晰夢だって? 夢占いじゃあるまいし」


「だけど、そういうスピリチュアル的なことってあるじゃないか」


「心配性だな。だから寝不足になるんだ」


「いや、だって、同じ夢ばかり見るか? おかしいだろ?」


「なぁ陽翔はると。お前、疲れが溜まっているんじゃないのか? 有給取ってしっかり体と頭を休ませるべきだよ」


「疲れてはいないよ。おかしなことを言ってるのはわかってる。でも、やっぱり気になるんだよ」


 シゲは呆れた顔をしていた。やっぱり俺の考え方がおかしいというのか?

 目を伏せ、しばらく考えていたシゲが口を開く。


「じゃあさ、同窓会でもするか? 卒業して2年経ったところで、みんなの近況を知ることもできるし、元気にしていたら陽翔も納得するだろ?」


「同窓会はいいけど、シゲはみんなの連絡先わかるのか?」


「まぁ、いつかはやろうと思ってたからな。住所が変わってる人がいたとしても、を辿れば連絡くらいなんとかなるだろう」


「同窓会か……。うん、いいかもな」


「だろ? テンちゃんにも会えるんだぞ」


「テンちゃん?」


「なんだよ。忘れたなんて言わないよな。ずっと片想いだっただろ、卯月うづきそら


「え、ああ……。もちろん覚えているよ」


 卯月天はクラスの中でも、ミステリアスな雰囲気を持つ綺麗な子だった。天という字は“そら”が正しい読み方なのに、“てん”と読み間違えられたのをきっかけに、みんなから『テンちゃん』という愛称で呼ばれるようになった。


 片想いか……。

 若かりし甘酸っぱい青春時代という感じだな。そんな時もあったんだな……。


「それにしても楽しかったよな、大学の頃は……。陽翔とは入学してすぐに仲良くなって、そのあとも常に一緒に行動していた気がするよ」


「ああ、そうだなぁ。あの頃は休日になると2人で映画館とかゲームセンターに行って遊び回ってた」


「そうそう。恋人か!ってくらいに、いつも一緒にいた」


「遊び過ぎて単位落としそうになって、勉強もシゲと一緒にしてたよな」


「結局、単位は落としたけどな。次の年が大変だった気がする」


「憶えてるか? 海まで行ったこともあったんだ。その時も男同士で侘しく」


「もちろん憶えてるさ。あの時は女子を誘ったら断られたんだよ。仕方ないから陽翔と2人で行くことにしたんじゃなかったか?」


 そう言うシゲにも片想いの子がいた。名前は永田ながたみなみ。クラスで……、いや、大学中でアイドル的存在の可愛らしい子。私設ファンクラブができるほど人気者だったから、彼女も特定の人を選べなかったんじゃないかな。

 クラスの中でも俺とシゲ、永田南と卯月天の4人は本当に仲がよくて、大学以外でも共に過ごすことが多かった。特にシゲは他人の懐に入るのが上手いから、すぐに『ミナミちゃん』『テンちゃん』なんて愛称を気軽に呼べるのが羨ましく感じていたものだ。その割に女子からは苗字で呼ばれていたんだけど……。


「今になって思えば、海じゃなくて、近くにある水族館へ誘えばよかったよ」

 シゲは未練がましく言った。


「水族館にも行っただろ?」


「えっ? 水族館は行ってないぞ。誰と行ったんだよ陽翔?」


「あれ、俺の勘違いかな……? それより、みんな来るといいな、同窓会」


「卒業以来だから、楽しみだな」


 そうだったな。卒業したんだ、いつの間にか……。



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