ひとりぼっちのウー
神埼 和人
ひとりぼっちのウー
ウーは地下鉄に住みついたお化けの子供です。
いつも
だけど、ウーはお化けだから誰の目にも見えません。
「よーし、今日も負けないぞー!」
ウーがホームを通りすぎる電車とおいかけっこをすると、すごい音と風がお客さんたちにふきつけます。
ビュー、ビュー、ビューーーー!
「勝った! 今日も僕の勝ちだよ、みんな」
そういっても、誰一人として振りむいてはくれません。
ひとりぼっちで、さみしい毎日。
だけど、その日は違いました。
パチパチパチ……。
どこからか小さな
「すごい! はやいねーお化けさん」
そこにはお母さんに連れられた、小さな女の子がいました。
「僕のことが見えるの?」
「うん、もちろん!」
でも、女の子はお母さんに手をつながれていないとホームを一人で歩くこともできないのです。
「ルル、病気で目が見えないの」
女の子は、かなしそうにそう答えます。
「見えないけど、そのかわりにお化けさんのことはちゃんとわかるよ!」
ウーとルルは、その日から大の仲良しになりました。
ルルが地下鉄にのって目のお医者さんに通う日は、必ずウーも一緒です。
そして
「ヨーイ、どん!」
ルルのかけ声と同時にウーが飛び出すと、風が地下鉄のホームをかけぬけます。
ビュー、ビュー、ビューーーー!
「すごいよウーちゃん! 今日もウーちゃんが勝ったよ!!」
そんなある日のこと。
いつものようにお母さんと地下鉄へやってきたルルは、なんだかうかない顔。
ルルを元気づけようとウーはハリキリます。
「よーし、ルル。今日はいつもよりもっと速いよ!」
「違うのウーちゃん、今日は大事なお話が……」
だけどウーは、ルルの話をちっとも聞こうとしません。
「いいから見てて! そうれっ!」
ゴォー、ゴォー、ゴォーーーー!
「キャー!」
ものすごい風にあおられて、ルルの体はふき飛ばされてしまいました。
「女の子が線路に落ちたぞ!」
まわりの大人達は、もう大さわぎ。
お母さんは、ルルを助けようと必死に手を伸ばします。
次の電車がすぐそこまでせまっていました。
「まってて、ルル! 今、助けるから!」
再び、ものすごい風がふきました。
すると、ルルの体がふわりと浮き上がり、ホームの上へとゆっくり着地したのです。
大人達は目をパチクリ。
お母さんはルルをだきしめて喜びます。
そして二人は、
次の日からルルは、なぜか地下鉄に来なくなりました。
「ルル、おこってるのかなぁ」
ウーは毎日さびしくてしかたありません。
そんなとき、地下鉄のホームでウーを呼ぶ声がしました。
「ウーちゃん! ルルが会いたがっているの!」
それは、ルルのお母さんでした。
だけど、お母さんはウーが目の前にいるのに気づかずに行ってしまいます。
「やっぱりだめだわ。本当にお化けなんているのかしら……」
ウーがこっそりお母さんの後をついていくと、大きな病院にたどりつきました。
窓から病室をのぞくと、そこにベッドで寝ているルルを見つけます。
「いや! ウーちゃんにお別れをいうまで、ぜったいに
「お母さんを困らせないで。明日は目の
ルルは、泣き出してしまいました。
「だって、
目が見えるようになったら、ウーのことがわからなくなる。
やっと、ウーは気がつきました。
<ルルはあの時、お別れを言いたかったんだ……>
次の日の朝早く、ルルは物音に気づいて目をさましました。
窓の外に泣きながらハタをふるウーがいました。
『ルルごめん! ルルがんばれ!』
ハタにはお化け文字で、そう書いてありました。
ウーの姿は朝日に照らされて、だんだん消えていきます。
それでもウーはハタをふりつづけました。
「ありがとう、ウーちゃん。さようなら」
「いつも、いつもいっしょだよ、ルル……」
それがウーの最後の言葉でした。
ルルの目は
そして、あの時以来、ウーとは会っていません。
だけどルルは、大人になった今でも地下鉄のホームをに降り立つと思うのです。
いつもウーといっしょだと――。
ひとりぼっちのウー 神埼 和人 @hcr32kazu
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
参加中のコンテスト・自主企画
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます