柴犬と暮らす日々

狭山ひびき@広島本大賞ノミネート

新しい家族

 突然ですが、我が家の一員である柴犬が、左後ろ足の十字靭帯を切ってしまいまして……。

 これまで日記とをつけていなかった私ですが、もし、大切なうちの子が突然いなくなったらと怖くなりまして、うちの子の日常を残しておきたくなったので筆を執ります。



 うちの柴犬(豆柴ですが、豆柴というわんちゃんは本当はいないそうで、柴犬の中でも小さな子を豆柴というそうです)との出会いは、今から三年と少し前。2021年の6月3日のことでした。

 奇しくも翌日が私の誕生日なのですが、それはさておき。

 実は同じ年の四月に、十五年半ずっと一緒にいた愛犬(雑種の子で、ラブラドールレトリバーと柴犬の血が入っている、大型犬と中型犬の間位の大きさの子でした)が、天寿を全うしまして、ずっとペットロスでずーんと沈んでいた時期です。

 たまたまよく行くショッピングセンターの中にペットショップがあって、そこは先代の子「チョコ」が生きていたときも、よくおやつやおもちゃを買いに来ていたところでもあったのですが、ふらりと吸い寄せられるように立ち寄った時に、今の子に出会いました。


 ガラス張りのケージが並ぶ中を、ぐるりと見渡して、ハッと目についた豆柴の赤ちゃん。

 どうしてか、どことなくチョコの子犬の頃を思い出して近づくと、まだ生後二か月だった赤ちゃん犬が、よたつきながら歩いて来て、ガラスの壁に、べたっと張り付いたのです。

 べったり張り付いて、まるで舐めさせてよと言うように舌をベーッとガラスに貼り付けて、じっと黒いキラキラとした目でこちらを見つめてきて……、あのとき、わけもわからず泣きそうになって、お店の中だからと我慢していたら、店員さんが「抱っこしますか?」と声をかけてくれました。


 抱っこしたらダメだなって、予感はありました。

 たぶん、抱っこしたら離せなくなる気がして。

 チョコが死んでまだ二か月しか経っていないのに、新しい子を迎えるのはチョコに対する裏切りなんじゃないかとか、いろいろ葛藤して、でも、どうしても気になって……。

 そうして抱っこさせてもらったら、やっぱりというかなんというか。

 離せなくなっちゃって、店員さんがいろいろ説明してくれているのに全然耳に入らなくて、ずっと、膝の上で、当時長かった私の髪を噛み噛みしたり、私の手を舐め舐めしたりして遊んでいるその子しか目に入らなかったです。


 たぶんそのときにはもう、この子を迎え入れることで頭がいっぱいになっていたんだと思います。

 三十分か、もう少し……、その子を抱っこさせてもらって。

 本当はもっと一緒にいたかったけど、仕事帰りに立ち寄ったので時間も遅くてそれ以上は無理で。

 店員さんに、この子を購入したいですと伝えると驚かれて、そして、衝動的にそう言ったと思われたのか、家に帰ってゆっくり考えてくださいと言われました。


 それはそうですね。

 だって、一つの命ですから。

 私はその子を迎え入れることしか考えていませんでしたけど、迎え入れる準備もありますし、即決して即連れて帰ると行かないのは当然です。

 でも家に帰って、その子のことしか考えられなくて、考えれば考えるほど、チョコの生まれ変わりなのではないかと思いはじめて、もし、悩んでいる間に他に買い手がついたらどうしようと、いてもたってもいられなくなって、次の日の朝、すぐにペットショップに電話を掛けました。

 そして、お迎えしたいですと。

 だから、他の人に売らないでくださいとお伝えしました。


 あとから聞いた話によると、あの子がお店デビューをしたのは、私が抱っこさせてもらった六月三日だったそうです。

 それを聞いたとき、なんだかあの子との出会いは運命だったような気がしましたね。


 だけど、私としてはすぐにあの子を連れて帰りたかったのですが、ここで問題が一つ発生しました。

 ペットショップの店員さんによると、あの子のうんちから寄生虫が発見されたそうなのです。

 その寄生虫は死体だったそうで、母犬のものを食べたものが出たのか、それともお腹にいるのかわからないとのこと。

 ペットショップの店員さんから、虫下しのお薬とかを飲ませるので、お迎えは少し待ってくださいと言われました。

 今すぐにでもお家に来てほしかったけれど、そう言うことなら仕方ありません。

 数日待つことになって、ようやく「大丈夫です」とご連絡をもらって、すぐにお迎えに行きました。


 名前はもう考えていて……。

 本当は「佐々木小次郎」とつける予定だったのですけど、妹に猛反対をくらって「ほたる」と。

 蛍と漢字を当てると、なんとなく私の中で虫の蛍をイメージさせて儚い印象になって嫌だったので、ひらがなで「ほたる」。

 ちなみに、男の子です。


 こうして、手のひらに乗るくらいちっちゃなほたるは、我が家の一因になりました。



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柴犬と暮らす日々 狭山ひびき@広島本大賞ノミネート @mimi0604

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