第8話 運命に導かれて~最終話~
ヒュ~~~~ドーーーン(花火が打ち上る音)
「たーまや~~~」
「藤次郎さま。現代の花火は色とりどり、不思議な色をしておりんすなぁ。空一杯に広がる華のようでありんす」
「あちきの時代では、両国橋という橋がこの辺にありんした。毎年夏には、そこから花火が上がるのでありんす」
「ほぉ、今は、もう少し下流の方でありんすか」
「それにしても、現代の浴衣は軽くて肌触りがいいでありんすなぁ。とても着心地がいいでありんす」
「この柄は朝顔でありんすな。あちきによく似合うでありんすか? ありがとう」
「朝顔が好きになりんした」
「藤次郎さまの中の魂が、やっと目覚めたのでありんすなぁ。藤次郎さまの魂が」
胸に頬を埋める。
「藤次郎さま。再びお会いできて、沙也風は幸せでありんした」
抱きしめようとしたら、消えた。
花火が上がる音だけが響いている。
沙也風との思い出が走馬灯のように脳内を巡る。
一人、川べりに座り込む主人公。
カラン コロン(下駄の音)
「とう、じろう、さん?」
突然の声に顔を上げる。
目の前に、浴衣姿の若い女性。
顔が沙也風にそっくり。
「すいません。突然。とても驚いてしまって」
「あはは、驚いてるのは、あなたの方ですよね。いえ、あの、なんていうか、とても驚いてるんです。こんな事……」
「え? 今、なんと? 沙也風と、おっしゃいましたか? なぜ、その名前を?」
「ちょ、ちょっと、慌てないで。話します! お話しますので、手を放してください」
「あの、とても信じられないお話かと思うのですが……」
「実は数日前、浅草に住んでいた祖父が亡くなりまして。もう随分古い屋敷で、処分する事が決まったので、遺品の整理の手伝いに行ったのです。
そこで、こんな物を見つけて」
彼女が差し出したのは、スマホ。
主人公が沙也風に渡した物。
「家宝がしまってある倉庫の奥底にあったんです。そこに入っている物は随分古い書物や着物が主だったんですが、その中になぜかこれが」
「あの、変ですよね。その箱は四世祖母、あ、私のひぃ、ひぃ、ひぃ、ひぃおばあちゃんに当たるんですが、その人が嫁ぐ時に宝物のように持ってきた箱らしく、明治の頃から、倉庫の中でずっと眠っていた物なのです。
もちろん充電は切れていて、私の先祖は、これが何なのかわからないまま、箱ごと現代に引き継がれたというわけです。
興味本位で私が持ち帰って、充電したみたら、なんと充電器がピッタリ合って、中身を見る事ができました
その中に、あなたに似た写真が何枚もあって……」
「驚きますよね? 大丈夫ですか? 聞いてます?」
「いや、あまりにも、あなたが度肝抜かれた顔してるから……」
「じゃあ、話を続けます。このスマホはiPhone6。少々古いですが、今も代替えとかで使ってる人は多く存在するような現役といえる機種で、明治時代にこんな物があったなんて、およそ信じがたい事で……
それに、四世祖母は、これをまぁまぁ使いこなしていたみたいんです」
スマホを操作する。
「この写真、見てください。あなたにそっくりじゃないですか? 背景だってどう見ても現代。それから、音声も入ってました」
録音を再生する。
『藤次郎さま。あちきは主さんに会えて、幸せでございんした』
「これだけなんですけど、この話し方は廓詞といって、昔、吉原の遊女が使っていた言葉です。四世祖母は、吉原の遊女であり、当時東京でも名のある商人だった四世祖父に身請けされたと。昔、祖母に聞いた事があります」
両肩を強く握る。
「うわぁっ、ちょ、ちょっと、落ち着いてください」
「え? そうです。その四世祖母の名前は家系図によると、沙也風」
「え? ど、どうして、あなたが、沙也風を知ってるんですかー? ちょ、ちょっとー」
「え? さっきまで? ここで? 一緒に?」
「いやいやいや、そんな……御伽噺みたいな事……」
「じゃあ、やっぱり、あなたは……藤次郎……さま」
「ちょ、ちょっと、わかりました! そんなに興奮しないで! わかりましたから、手を放してください」
「四世祖父の名前は、藤次郎ではありません! 恐らく、沙也風は藤次郎という人を想い続けて……」
ヒュ~~~~、ドーーーーーーン(花火の音)
「あ、花火、そろそろクライマックスですよ。よかったら、一緒に見ませんか? スターマイン。
沙也風のお話は、その後で、ゆっくりと」
ヒュ~~~~、ドーーーーーーン
パンパンパンパン……
【完】
前前前世からお慕い申していたでありんす。どうかお傍においておくんなんし 神楽耶 夏輝 @mashironatsume
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