第6話 騎士達

「……私はなぜ……こんな所にいるのだろうか……」

 その女騎士は街中に立ちつくし、流れゆく人の流れを呆然と見ながら独りごちた。ほとんど黒髪に近い青みがかった長髪を後頭部でポニーテール状に結んで垂らした美人である。その容姿も理由の一つだろうが、胸甲を装着していても解かる豊かな胸の膨らみのために、さっきから道行く男達に何度か声を掛けられてはつれない素振りで断る、という事を繰り返していた。彼女はある任務中であった……。


 エーテルランド王国王家直属騎士団所属の女騎士、グラーディア・グラディアス。26歳。騎士団内での階級は平騎士だが、そろそろ小隊長の椅子が回って来るか来ないかといった所。男爵家の長女だが家督は弟が継ぐ予定なので、本人の意思で結婚よりも騎士として生きる事を選んだ。


「……本来ならば、今ごろ戦場にいたはずだったのだが……なぜ……」


 そう言った所で答えが返って来る訳ではないし、その理由も解かってはいるのだ。

 摂政の宮フェリザベータ王女殿下直々のご下命で、3人の逃亡者……生贄として神に捧げるはずだった異世界人2人と、その逃亡を助けて自らも行方をくらました反逆者たる宮廷魔導師ハリオストラを捜索……発見次第、捕縛……もしかなわぬならば討ち取れ、との命令を受けたまわったのだ。

 彼女の他にも50名前後の騎士団員達が同じ任に当たっていた。そんなに多くの人員は避けない。戦争中なのだ。


 この命を受けた時、一同かしこまって拝命しはしたものの、内心では半ば落胆した者も少なくなかった。騎士たるもの、やはり戦場での華々しき武功こそ望むべくもの。逃亡者の追討なんて、なんて言うか、裏方じゃん……。

 だがフェリザベータ姫もそこは騎士達の気持ちも良く良く理解し配慮したものとみえ、見事3名を捕まえて来たならば戦場での武勲に匹敵する莫大な恩賞を取らせると約束した。


 裏方とは言ったが決してテキトーな人間が選ばれた訳ではない。相手が相手だ。あの異世界人2人は大した事なさそうだが、問題はハリオストラ。何しろ200年にも渡って宮廷魔導師として王家に仕え続けた大魔術師である。それを相手にしようと言うのだから、むしろ精鋭部隊と言えた。とはいえ……


「……やはり戦場の方に行きたかったなぁ……フェリザベータ殿下率いる友軍の本隊は今頃どうしているだろうか……もう戦端は開かれているだろうか……」

「……先輩!」


 ……とそこへ、同じ追討任務中の後輩騎士の男がやって来て声をかけた。ちなみに二人とも今は王国騎士の軍衣は着ていない。隠密行動中なのだ。


「……今、街の連中に聞き込みしてみたんですが……」

「ウォブ、どうだった? それらしい人物を見かけたという情報はあったか?」

「……はあ、それがですね……見たという声もあり、そんな人間いなかったという声もあり、似たような人間の見間違いかも知れないという声もあり……」

「なんだ……ハッキリしないなぁ」

「まるで海に放った小石を探すようなものですよ……それでも、もしあの3人が中立国であるシダルツ公国へ向かったとしたら、この国境の街ボルドリアを通過する可能性は高いでしょう……しかし……」

「何だ?」

「……いや、もしくだんの三人を見つけたとしてですよ、あの宮廷魔導師ハリオストラ様と戦うんですか? 僕、絶対勝てる気しないです」

「いや、勝てる気しないって言ったってお前、見つけたら捕まえなきゃいけないんだから……すんなり囚われてくれるとも思えないし……そりゃあ戦わざるを得ないだろ」

「先輩は勝てると思いますか?」

「そんなの判らん……しかしまだ見つけてもいないのにここでこんな議論をしても無意味だ。ちょっと腹も空いてきたな……昼食にしないか?」

「そういえばもう昼過ぎですもんね……ちょうど良い、あそこの食堂に入りましょう」


 二人は近くの大衆食堂に入った。


「いらっしゃいませ~! 何名様ですか?」


 出迎えたのは金髪に褐色の肌の女の子……クロノであった。


「二名だ」

「二名様ご案内~!」


 ……だが二人は気付けなかった。ハリオストラの顔はもう良く知っていたが、クロノとナハトの方は、あのお城の中庭で召喚直後に見たきり、良く覚えていなかったのだ。加えて金髪に褐色の肌というのもこの世界では珍しくなかった。


「……もう昼食の時間帯は終わっているのに、この店は随分繁盛してるようだな」


 案内された席に腰を下ろして、グラーディアはつぶやいた。それに対して近くの客が応える。


「そりゃあアンタ、み~んなあのクロノちゃん目当てさ。数日前からこの店で働き始めたんだが、それでたちまち大盛況ってワケ……それはそうと、キミもなかなかカワイイね……良かったら今夜……」

「断る。……だがクロノというのか、あの娘。確かに、明るくて感じの良い娘だな」

「そういえば店内、男の客が多いですね。僕も後で声掛けてみようかな……」

「馬鹿者、任務中だという事を忘れるな」

「は~い……」

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お前の召喚に巻き込まれたんだ!~爆乳ギャルとショタ、異世界召喚され互いに巻き込まれたと主張し合いながらも元の世界へ戻る方法を探る道中記~ 浦里凡能文書会社 @urazato2020

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