名家に生まれながらも、求められる才を持たぬが故に軽んじられ、自己肯定感を育めず、余裕を持たず、他者からの侮蔑には敏感で、暴虐に当たり散らす少年。
そんな少年が自身の破滅の未来を知り、己が持つ才を磨き、実力を身に着ければどうなるか?
自己肯定感はありつつも、余裕を持たず、他者からの侮蔑には敏感で、暴虐に蹂躙する少年になります。
それはそう。脳の構造がもう、物理的にそうなってしまっているので。
成人向けの和風ファンタジー陣取りSLG、本編開始の数年前。普通にプレイするとゲーム序盤でぶつかる悪役に転生したゲームプレイヤーの魂は、煽り耐性ゼロの肉体に抗えず、否応無しに破滅への第一歩を踏み出してしまう。
転生者の人格を吸収合併した元人格は、ゲームの知識と客観的な視点を武器に、自身の特性を御しつつ、ある「煽り」への報復を決意する――という所から物語は始まります。
武力を身に着け、仲間を集め、精神の成長を得て(※煽り耐性はない)、強くなっていく展開はまさに王道。
作中の「原作ゲーム」は「1980年代の流れを組みつつ2000年代に作られたR-18ゲームのノリを以て2020年代の技術とネットミームで作られたゲーム」という雰囲気なので、一定のゲームシステムの中に開発チームが面白いと思うことが乱雑に詰め込まれています。
そんな「原作ゲーム」世界を描く物語ですから、この小説自体もごった煮の世界観ながら、一定のフレームに基づいて安定した世界となります。
無茶苦茶をやっても無茶苦茶にならないインフラに、作者の確かな技術によるストーリーと笑いが積み上げられるのですから、もう本当に面白い。
期待感と信頼感を同時に抱ける、毎回先が楽しみなお話です。