第26話中国ブロック本番前日
お盆休みに入って、部活がないため、家でのんびり過ごしている、温也に郷子。そこへ仁保姉弟がやってきた。津留美も宇宙もバドミントンのラケットを持って、郷子のところへ行って、
「郷子おはよう~。今からなんか予定ある?暇なんじゃったら、バドミントンしない?」
「つるちゃんおはよう。いい天気ねぇ。まだ涼しいし、ちょっと体動かしますかぁ。あれ?ひろ君は?」
「あぁ、ひろはねぇ、泉ちゃん迎えに行ったよ」
「そうなんやぁ。相変わらずひろ君と泉ちゃん、仲がいいねぇ」
「もう、ひろはねぇ、泉ちゃんに夢中になってるみたいよ」
「そう言えば、あっくんは起きたんかいな?」
「ひょっとして温也君、朝は弱いんかねぇ?」
「めっちゃ弱いよ。休みの日なんか、私が起こさないと、なかなか起きないもん。昨日も、ライン電話で起こして、ようやく目が覚めたって言ってたしねぇ」
「ふーん」
温也に電話をかけて、10コール位でようやく温也が出た。
「あっくん、まだ寝てたっしょ。本当に朝が弱いんじゃから」
「いやいや、起きて朝飯食って、歯磨きしてたところ」
「あんれまんまぁ、珍しいこともあるもんじゃねぇ。これは雷が鳴るかも」
そう冗談言いつつ、
「今ねぇ、つるちゃんたちが来てるんじゃけど、一緒にバドミントンせんかって」
「バドミントン?いいよ。今からそっち行くわ。おぉひろ君じゃん。郷子、今から出るから電話切るね」
「ラジャリンコ~」
やがて、泉も出てきて合流して、5人で、学校のグラウンドへ。まだ8時過ぎということもあって、幾分涼しさが残る校庭で、シャトルを打ち合いながら、皆で体を動かした後、ミニゲームをすることになった。ネットはないので、その辺にあったかれた、木の枝でラインを引きながら、かく二チームに分かれて対戦。温也と宇宙チームVS郷子と泉チームで、審判を津留美が務めることになった。10点マッチの2セットゲームで、
「ひろくん、絶対勝とうぜ」
「もちろん」
「泉ちゃん、私達も負けないわよ」
「ラジャリンコ。お兄ちゃんには負けたくないもんねぇ」
そして、まずは郷子がシャトルを撃つ。それを宇宙が拾って、今度は泉が返して、温也がスマッシュをうつが、見事に空振り。
「お兄ちゃん、大丈夫?」
「いやぁ、バドミントンはここ最近やってないからなぁ。タイミングが合わんかったわ」
「それにしても泉ちゃん、バドミントン上手いねぇ。ぜひ中学に入ったら、バドミントン部に入ってほしいわ」
「うーん、将来はひろ君とオリンピックに出られたらなぁって思うけど、いけるかなぁ?」
そう言いつつも、泉としては宇宙と一緒にいられるだけで、嬉しくて、
「これが初恋ってやつなのかなぁ」
なんて思ったりしていた。バドミントンのミニゲームで汗を流した後は、一旦家に帰って夏休みの宿題をこなすために、みんなで図書館へ。調べたいジャンルの本を借りてきて、津留美と宇宙とは図書館で別れて、3人で帰宅。温也と郷子は数学の問題を解いて、泉はこの前、日原天文台に行って習った星の動きと、月の満ち欠けについての問題を解いていた。
やがて、運動と勉強を頑張ったお盆休みが終わりを迎えて、再び中国ブロックに向けた、吹奏楽部の練習が始まる。午前中に部活があるため、朝7時には起きて、8時過ぎには学校に向かう。部室のドアを開けて、楽器を持ちだして、一週間ぶりに音を出す。
一週間のブランクがあるので、音がきちんと出るかどうかと思った温也と郷子であるが、音はきちんと出ていたので、少し安心した二人である。やがて、他の部員もやってきて、開催まで一週間しかないので、チューニングが終わると、全体での合奏となった。しかし、一週間のブランクを感じさせない完成度に、上山先生も
「一週間ぶりの音出しやったけど、みんな良いよ。このままの調子で頑張ろう」
そう言っていた。そして、学校を出発する前日の、8月21日になった。まずは、楽器の運び出しと、トラックへの積み込みがあるため、練習が終わった後に、それぞれが忘れ物がないか、最終チェックを行ったあとにそれぞれ楽器をもって、外に出す。チューバなどの大きな楽器は二人がかりで持ち運んで、あとは自分たちの楽器を積んで、さらに譜面台も載せる。楽譜はそれぞれが今日持ち帰って、8月22日に自分たちで持ってくるということになっていた。そして、3年生が一人、トラックを運転する上山先生と一緒に乗り込むことになって、担当は佐知子となった。
翌日、温也も郷子も6時に起きて、朝食を済ませて、朝8時半過ぎに、光の運転する車で、湯田温泉駅に向かった。
「2人とも、大きな舞台での発表になるから、緊張すると思うけど、精一杯頑張っておいで」
そういって送り出された。その後みんなも集まってきて、トラックで向かうことになっている上山先生から、特急スーパーおきの乗車券と、指定席券を受け取る。やがて、警報機が鳴りだして、エンジン音を高らかに響かせながら、スーパーおきが入線してきた。皆それぞれの席に座って、松江へと向かった。山口を出ると、宮野を過ぎてから急勾配が続くのであるが、ハイパワーエンジンを搭載した187系ディーゼルカーは、ものともせずに上っていく。やがて、峠を越えて、徳佐盆地の中を快走する。三谷や徳佐といった、小さな駅に停車して、再び峠を越えると津和野駅に着く。この辺りは、敦也はまだ乗ったことがなかったので、興味津々に、うつりゆく景色を眺めていた。津和野では、観光客と思われる人が下車していって、車内は閑散となった。真ぁ、お盆休みが終わったので、観光客以外で乗る人はあまりいないのだろう。そして、先日行った、日原天文台の最寄り駅の、日原駅に着く。ここも乗り降りはなく、すぐに発車。
「ねぇねぇ、あっくん、線路のすぐわきを流れてるのは、なんていう川?」
「あれはねぇ、高津川っていう川。日本国内でも有数の水がきれいな清流って言われてるよ」
「へぇ、蛍もみられるんかねぇ」
「多分、この辺だとみられると思うよ」
「温也先輩、ちょっとおやつ食べません?」
「たかやんは、何持ってきたん?」
「えへへへ~。昨日、夢タウンに行って、ドーナツ買ってもらったんです~」
「おいおい、今から食べてたら、昼ごはん食べられんようになるぞ」
「大丈夫っす。俺は意外と大飯喰らいですから」
「いやぁまぁねぇ。郷子もなんか食べる?」
「そうねぇ。朝早起きしたから、ちょっとおなかすいたかも。それに喉も渇いたしね。私も自分で持ってきたおやつたーべよっと」
「郷子は何持ってきたん?」
「私はねぇ、月で拾った卵。これ、美味しいんよねぇ」
「わかる~。私もそれ大好きです」
「ながちゃん、これ美味しいよねぇ。ふんわりしてて」
「じゃあ、俺もちょっと食べようかなぁ」
そうしておやつタイムが始まった。温也が持ってきたのは大判のどら焼き。
「先輩も結構大きなどら焼き、持ってきてたんですねぇ」
「そう、これ美味いよぉ」
やがて列車は益田駅に到着。ここから山陰本線に入って、日本海沿いに東に進んでいく。透き通るような美しい日本海が続いて、景色を眺めているうちに、郷子も温也も眠たくなってきて、静かに寝息を立てていた。先に目を覚ましたのが温也。隣で心地よさそうに寝息を立てている郷子の寝顔を見ると、思わず
「かわいい~」
と思う温也であった。そして、スマホを取り出して、初めてみる郷子の寝顔をそっと写した。この写真は、一生自分の宝物にしようと思ったのである。やがて、郷子も目を覚ますと、ちょうど昼食の時間帯に差し掛かり、列車に乗る前に買っておいた昼食用の弁当を広げて、それから菓子パンも食べて、定刻に松江駅に到着。列車を降りると、ムワーッとした暑さが体を包む。まさにうだるような暑さであった。先生はまだ到着していないため、先に全員で改札を抜けて、駅構内のお土産店で、それぞれ家に持ち帰るお土産を買って、時間を過ごしていた。
「あっくんは、何買ったの?」
「俺はねぇ、家族向けには団子と、泉にはこのしまねっこのキーホルダー」
「かわいいねぇ。私はこれにしようかなぁ」
そう言って選んだのが、ゲゲゲの鬼太郎が描かれた、鬼太郎饅頭。すぐ隣の鳥取県境港市が、ゲゲゲの鬼太郎の作者の、水木しげるさんの故郷ということで、松江でも鬼太郎にちなんだお土産が販売されているのである。
やがて、トラックで楽器を運んできた、上山先生と佐知子が到着して、ホテルへと向かう。皆で点呼を取って、上山先生と、佐知子以外はバスでホテルに向かった。そしてホテルにチェックインしたのが14時過ぎ。長時間の移動だったため、それぞれ荷物を置いた後は、しばらくの間部屋で休んで、のんびり過ごしていた。郷子からラインが入って、
「あっくん、今からどうする?17時やから、まだ夕食には時間があるけど、私とながちゃんは温泉に入りに行こうって言ってるんじゃけど、あっくんとたかやんはどうする?」
「温泉かぁ。たかやんは温泉はいるって。俺もじゃあ行こうかな」
「わかった。じゃあ、部屋の前で待ってるね」
「OK。用意して出るわ」
そうして温泉に入りに行ったトロンボーン4人組であった。
「お待たせぇ。ながちゃん、ゆっくり入ってこようねぇ」
「はい。温也先輩たちもゆっくり入ってきてくださいねぇ」
女湯では、脱衣場で郷子とながちゃんが、
「ながちゃんは、今回どう?初めてのことじゃから、緊張とかしてない?」
「まぁ、私は普通ですねぇ。気負ったところとかないですし。先輩はどうですか?」
「この前間違えたところもだいぶうまくできるようになったから、このままの調子で演奏できれば、いいところまでいけるんじゃないかぁ」
「そうですよね。やっぱり演奏する側が音を楽しまないと、もったいないですよねね」
「そうそう。泣いても笑っても、明日が本番じゃからねぇ」
そう言った話をしながら、のんびり湯船につかっていた二人である。
一方の温也とたかやんの二人。
「たかやんは、なかなかうまいこと仕上がったんじゃね?緊張してる?」
「めっちゃ緊張してます~。明日本番で舞い上がってしまったらどうしよう」
「大丈夫だって。あれだけ練習してきたんやから。自信もっていいと思うで」
「そうですかねぇ。皆の足を引っ張らんかったらいいんですけど」
「お前ならいけるって。緊張して、失敗しそうになったら、そん時は「あんれまんまぁ」って心の中で唱えれば、緊張もほぐれるぜ」
「なんですか?その「あんれまんまぁ」っていうのは」
「俺んちで、予想外のことが起きたときとかに使う、湯田家秘伝の緊張をほぐす、魔法の言葉」
「へぇ、そんなんがあるんですねぇ」
「まぁ、そろそろ上がろうぜ。だいぶのぼせてきたわ」
「はーい」
やがて、郷子たちも上がってきて、浴衣に着替えた面々。温也は思わず、郷子の浴衣姿と、温泉から上がって、少し上気した姿に、ドキッとしてしまった。郷子の湯上り姿って、初めてみるので、すごくセクシーに見えた。そして、普段は服の上からであるため、あまりわからなかったが、想像していた以上に、胸のふくらみがあって、少しまじまじと見てしまったが、初めてみる郷子の、ちょっとセクシーな姿に赤面してしまったようである。
「あっくんどうした?少し顔が赤いけど…?」
「い、いや。なんでもない…」
しどろもどろになって、うまくごまかせなかったので、郷子は
「うん?」
という顔をしていたが、やがて夕食の時間。地元食材を使った料理が出されて、お腹いっぱい食べて、夕食を済ませて、それぞれの部屋に戻って、翌日の本番に備えて、早めに就寝したのであった。
「あっくん、なんか顔が真っ赤になってたけど、大丈夫かなぁ?」
ラインを送ってみた
「あっくん、さっきはなんか様子が変じゃったけど、何かあった?」
「いやぁ…。郷子やから正直に話すけど、初めて郷子のお風呂上がりの姿とか、浴衣姿を見て、きれいって思ってね。それでかなりセクシーやったし。ドキドキしてね、それで顔が赤くなって」
「そうなん?私のこと、女性としてみてくれたんじゃね。嬉しいけど、やっぱりあっくんはスケベじゃねぇ」
「えへへ~。俺はそんな郷子と付き合えてうれしいよ」
「もう、わかったから、早く寝んと、明日の本番に響くぞ~。エッチなこと考えんと、早く寝るんよ。寝坊しても知らんよ」
「はーい。それじゃあお休み~」
お休みと入ったものの、今日の湯上りの浴衣姿と、想像以上の胸のふくらみが頭から離れず、なかなか寝付けなかった温也であった。
それでも、皆早めに就寝して、翌日の中国ブロック本番を迎えたのであった。
トレイン&スポーツラブ~山口で出会った二人の恋物語 リンダ @dokurobe-2gou
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