第25話お盆休み
中国ブロック進出を決めた、 山口第一中学吹奏楽部。県大会が終わって一日休んで、再び練習が始まる。各パートで見つかった課題を重点的に取り組んでいるのであるが、郷子は少し第二楽章の入りで音が少し上がり切らなかったところがあったので、そこを重点的に。温也は第一楽章の主旋律の最初で音を外してしまったので、そこを中心に取り組んでいた。個人練習が終わって、次にトロンボーン全員で音の確認をしつつ、音を合わせていく。
「ながちゃん、AからBにかけてのメロディライン、もう少し息を入れて音を割らないように大きく出せない?たかやんは少し、音が上ずり気味やから気をつけてね」
「はーい」
「郷子はなかなか第二楽章の入り、安定してきたじゃん。その調子でいこうぜ」
「あっくんも主旋律の入り、よくなったよ」
「さんきゅ」
もう一度合わせて、
「たかやんもながちゃんもよくなったと思うよ」
「ありがとうございます」
そして、金管パートが集まって、ホルンの佐知子や和美・凛、
紘一と雄介と文子などが金管楽器も合流して、金管楽器全体で音を合わせる。
ユーフォニウムの下松笠(しもまつ りゅう)と室田光子(むろた みつこ)
チューバの島田海斗(しまだ かいと)と岩田大和(いわた やまと)の演奏がさえる。チューバの演奏で定評のある二人の重低音が全体を引き締めてくれる。金管で音を合わせて、いよいよ木管楽器との音合わせ。小夜子や道子や海斗や、巧介に陽子や周子と木綿子も加わって、全体に山口県大会よりもさらによくなっている手ごたえがあった。
このように練習を毎日行って、お盆がやってきた。11日から18日までは各部活も休みになるので、少しのんびり過ごせることになる。
お盆連休最初の11日、早く目が覚めた郷子は温也と勉強のため、敦也の家に行くことになっていた。朝8時。ラインを送ってみたが、既読がつかない。
「まだ寝てるんかなぁ?そろそろ起きてくれんと、一緒に勉強できんじゃん」
ライン電話をかけてみる。10コール位してようやく温也が電話に出た。
「ふぁーい。もひもひ?おはひょうごちゃりましゅる~」
「もう、いつまで寝てんのよ。もう8時過ぎてるよ。今日は一緒に勉強するんでしょ?早く起きんと、予定が狂うじゃん」
「郷子ちゃーん?むぎゅー。抱っこ~」
「もうサッサと目を覚まさんかい。この寝坊助が。抱っこじゃないの。本当にもう」
「おはよう。今起きたじょ~。げぇっ。もうこんな時間じゃん。やべぇ~」
「早くご飯食べて、用意してよ。今日は理科と歴史の勉強するんでしょ?」
「ほーい」
それから30分ほどして、着替えも終わって、郷子にラインして、勉強の準備が整った。今日は二人で夏休みの宿題と理科と歴史の勉強をすることになっていた。やがて郷子が家にやってきて、泉と小町が出迎えた。光も瑞穂もすでに仕事に行って家にいなくて、今は3人と小町だけであった。小町がいつものように郷子の足元にすりすりしながら、思いっきり甘えている。それを見て温也は
「俺も小町みたいにすりすりしたーい」
「だめぇ。あっくんの変態。そんなスケベなことばかり考えていると、将来結婚してやんないぞ」
「えぇ。それは困りましゅる」
「もう、お兄ちゃんは本当にエッチなんやから。性欲の塊みたい。まさしく美女と珍獣」
「泉もひでぇなぁ。俺はかっこいいお兄さんだべ」
「はいはい。かっこいい人は自分でそんなこと言わんよねぇ。泉ちゃん」
「そうそう。お兄ちゃんは珍獣じゃ」
「まぁ、冗談はさておいて、勉強始めようぜ。泉はどうする?一緒に勉強するか?」
「じゃあ、私も勉強道具持ってくるね。リビングでいいの?」
「そうじゃね。じゃあ、俺たちは先に始めてるから、あとで来いよ」
「わかった」
そして、まずは理科の教科書を広げて、気象に関する勉強を始める。まずは地球の大気循環について。大気の対流や天気の移り変わり、気圧変化や季節による気圧の変化や、地域による気象の違いなどを勉強する。そして、夏特有の気圧配置や、冬特有の気圧配置を勉強する。そして、天気図や写真、降水量や気温変化から、どこの地域の特色を表したものかを答える問題などを解いていく。
「ねぇあっくん、このグラフと降水量と気温変化ってどこだっけ…?」
「えぇとねぇ、この降水量のグラフだと、冬に降水量が多いやろ?そして、冬の晴天率が低いのと、気温の低さ、そして、背後に高い山並みが見えるのと、稲作が盛んな地域っていうことから、新潟ってことになるよね」
「そうかぁ。天気とか、気象を理解するには、地理も知っとかないとだめじゃね」
「そう、気象は地形にも影響されるからね」
それから、夏は日本は高温多湿になることが多いが、その理由について問われる問題も出ていた。その主な理由は、夏は太平硫黄高気圧が発達して日本付近までせり出してくるため、南から暖かく湿った風が吹きやすいためであるが、温也によると、こういった気象を知っておくのは、旅行を計画する上でも非常に重要になるという。旅先の気温や天候の特徴によって、持っていく着替えやもし計画しているルートが何らかの通れなくなったときの迂回ルートの確保にもつながるというのである。
「あっくんは本当に自然科学に関することとか、地理が得意よねぇ。やはり旅が好きとか、そう言ったことも関係してるんかもね」
「まぁね。日本地図はだいたい頭の中に入ってるよ」
「お兄ちゃん、この問題わかる?星の動きの問題なんやけど」
「これはオリオン座やね。で、一か月あけて同じ時間に観た時にどう見え方が変わるかっていう問題か。これは一か月後に観た時は、西の方におよそ30度移動して見えるっていうこと。30度っていうことは、1月1日に観た時の位置に同じ来るのは2時間前っていうことになるよ。だから答えは西の方に30度移動して見えるっていうのが答えやね」
「そうかぁ。じゃあこのイラストの答えは?」
「それは、自分で考えてみ」
「わかった~」
そして午前中は勉強して過ごして、昼になった。
「お昼ご飯はどうする?家にあるものでなんか作ろうか?」
「もう12時か。じゃあお昼にするべ」
「じゃあ、冷蔵庫開けてもいい?」
「いいよ」
そしてキッチンに向かって郷子は冷蔵庫にあるものから、ご飯もあるので野菜を切って、ソーセージもあるので、
「これで炒飯作ろう」
「じゃあ私も手伝うね」
「泉ちゃんサンキュ」
ということで、二人で仲良くキッチンに立って料理を始めた。
「なんか二人見てたら、本当の姉妹みたい」
そして、20分ほどで郷子と泉が作った炒飯が完成した。
「じゃあいただきます」
3人で仲良くテーブルについて食べてはじめた
「うんまい。食欲そそるわぁ。郷子に泉ありがとうね」
「いえいえどういたしまして」
そして昼食を済ませて、昼から泉はひろ君の家にゲームをしに行った。郷子と温也は図書館に行くことにして、水筒に麦茶を入れて、自転車をこいで向かった。
「ふぅ。本当に暑いねぇ。この暑さ、どうにかならんかねぇ」
「まぁ、こればかりは仕方がないよなぁ。自転車のサドル、めっちゃ熱い」
「ちょっと待ってて。家から濡れ雑巾持ってくるから。それで拭いたらサドルの熱さも少しはましになるんじゃない?」
そう言って郷子は家にいったん入って、水で濡らした雑巾を持ってきて、二人の自転車のサドルを水拭きして、出発。いくらかサドルの熱さもマシになった。
大学の前の交差点を左に曲がって、スーパーアルクの前を通って、ガソリンスタンドのある交差点を右に曲がって、セブンイレブンを過ぎて、上平井交差点を右に曲がって椹野川を渡って、山口線の踏切を渡る。やがて図書館の建物が見えてきて、駐輪場に自転車を止めて、中に入る。ここにやってきた目的は、温也は毎月発行されている鉄道情報誌を読むため。そして郷子は大好きな小説家の本を借りるため。郷子はこのところ推理小説にはまっていて、鉄道を使った推理小説や、ミステリー小説をよく読んでいる。郷子は西村京太郎さんと赤川次郎さんの小説を借りて、貸出の手続きを済ませて、座席に座って読み始める。
「あっくん、何かいい情報あった?」
「うん?今日はね、読者の写真投稿の欄でね、山口県近辺の写真がいくつか乗っていたから、いつか写しに行きたいなって」
「ふーん。どれどれ。これは、大島大橋の上から写した写真じゃね。柳井のちょっと先のところの写真じゃん」
「大島大橋?」
「そう、柳井市大畠地区と、周防大島を結ぶ橋。景色がきれいなところなんよ」
「そうなんやね。まだここは行ったことがないから、また今度いつか行けたらいいな」
「そうじゃね」
そして、図書館を後にして16時頃に家に帰った。
「温也帰ってきたか」
「あ、お父さんお帰り。今日は乗務終わったんやね」
「おう。今日はお父さんも仕事終わったし、泉が星空観察に行きたいって言うから、日原天文台に行ってみるか?」
「そうなん?お母さんはもうすぐ帰ってくる頃よね。郷子にも聞いてみてもいい?」
「俺はいいけど、郷子さんのお父さんとお母さんにもきちんと伝えておけよ」
「わかってるって」
そして郷子の電話をしてみる。
「郷子って今日の夜なんか予定ある?」
「今日は特にこれからは予定は入ってないと思うけど…?何かあるん?」
「今日ねぇ、お父さんが日原天文台って言うところに連れて行ってくれるって。星空観察に行ってみんか?泉が星空観察してみたいって。郷子のお父さんとお母さんに聞いてみてもらえんか?」
「本当?お父さん今家にいるから聞いてみる。ねぇお父さん、あっくんのお父さんが、星空観察に行かんかって誘ってくれてるみたい。行ってもいい?」
「温也君のご両親も一緒なんやな?気をつけて行って来い」
「やったー。お父さんありがとう。夕食はどうするんか?」
「聞いてみるね」
「あっくん、夕食はどうするの?」
「夕食は途中の雑炊屋さんによって食べるって」
「わかった。お父さんとお母さんに伝えておくね」
「ほーい」
「お父さん、夕食は雑炊屋さんで食べるって」
「そうか。それじゃあ温也君のお父さんにちょっと電話をかけてもらっていいか?」
「ほーい。あ、あっくん?うちのお父さんがあっくんのお父さんに連絡してくれって」
「わかった・お父さん、郷子のお父さんから電話」
「もしもし。今日は郷子がお世話になります。夕食代は持たせますので」
「いえいえ。お気になさらないでください。今日は私たち家族の方から誘ったんで、郷子さんも気軽に参加していただけたらと思います」
「じゃあ、お言葉に甘えさせていただきますね。宜しくお願いいたします」
「はい、こちらこそ。」
そして支度を整えて、郷子は温也の家に向かった。
「こんばんは。今日は宜しくお願いしますね」
「郷子さんいらっしゃい。じゃあ温也、出発するわよ。小町、いい子で留守番してるのよ」
「ニャオーン」
「こまちゃん、行ってくるね」
温也と泉も部屋から出てきて、光が愛車のマツダアテンザを出して、一路日原天文台へと向かった。国道9号線に入って、仁保入り口交差点を過ぎると、山間部へと入っていく。途中短いトンネルをいくつか潜り抜けて、津和野方面へと入る。泉はこちらに来るのは初めてで、まだ太陽が沈まない山口市阿東地区を北上していく。そして、津和野に向かって左側に今日の夕食と決めた雑炊屋さんがある。ここはいろんな雑炊を楽しめるグルメスポットで、温也と郷子は鮭と牛肉雑炊・光ると瑞穂は豚肉雑炊・泉は餅の入った力雑炊を頼んで、熱々の雑炊をフーフー言いながら食べた。ここは篠目地区にあり、美味しい雑炊が食べられる店として人気がある。
雑炊屋さん純味で夕食を済ませて、再び9号線を走って、願成就温泉を過ぎると島根県に入るが、しま年県内の増田までの区間はかなり急カーブが連続する区間があるので、運転には注意が必要である。津和野に入るあたりで日が暮れて、日原駅の真横を過ぎたころにはかなり暗くなってきていた。やがて、案内板に沿って高津川を渡り、天文台を続く細い山道を上っていく。かなり急勾配であるが、ハイパワーを誇るアテンザは力強く進んでいく。山道を走ることおよそ10分、天文台の駐車時に着いたが、ほとんど人工的な明かりがない中、瞬くように夏の星たちが輝いてた。それこそふるような満天の星空であった。郷子も泉も
「うわ~。きれい…。吸い込まれるよう」
と驚きの声をあげていた。
「お疲れさん。受付でチケット買ってくるから、ちょっと待ってて」
光が受付をしている建物の中に入って、5人分のチケットを購入。時間は20時。大型望遠鏡が故障していて、小型望遠鏡での観察会となったが、郷子と泉はテンション上がりまくり。
「お兄ちゃん、あの赤い星はなんていう星?」
「あぁ、あれはさそり座の一等星のアンタレス。泉の誕生星座や」
「へぇあれがさそり座のアンタレスかぁ」
「まぁまぁ、学芸員さんの話を聞きましょう」
学芸員さんの詳しい星座解説が始まる。
「あの赤い一等星は、アンタレスって言うんですけど、なんていう意味かというと、アンチアレース。火星に対抗する者っていう意味で、サソリの心臓部で輝く星です。なぜこのように赤い色をしているかというと、表面温度が3000度と低いためです。ちなみに太陽の表面温度は6000度で、温度が低い星って言うのは、一般的には赤色巨星とか、赤色超巨星と言われて、星としての寿命の最後を迎えつつある星です」
「へぇ、本当に真っ赤な色してますね。でも本当にきれい」
郷子が感嘆の声をあげる。
「他に観てみたい星ってありますか?」
「俺は白鳥座にあるアルビレオを見てみたいな」
「あっくん、アルビレオって?」
「あぁ、白鳥座にある、金色と青い星が近くをまわっている二重星。めっちゃ綺麗な色してて、天上の宝石とも言われてるよ」
「へぇ。ぜひ見てみたいな」
「私も」
望遠鏡を白鳥座の方に向けて、視界にアルビレオがとらえられた。
「本当に宝石みたい」
その他、太陽系最大の惑星木星を観察したり、月を観察したりして、星空散歩を楽しんだ。
「夏の大三角ってどこに見えてるんですか?」
「夏の大三角は、今ほぼ頭の真上あたりに見えてますよ。天の川を挟んで、あそこに見えるのがこと座のベガ。織姫星ですね。そしてこちらに見えているのがわし座のあるタイル。彦星ですね。そして、双方の一等星の真ん中を貫くように十字になった星の並びが見えると思いますが、あれが白鳥座で、白鳥の尾の部分で輝いているのが白鳥座のデネブっていう星。この、ベガ・アルタイル・デネブを結んでできる三角形が夏の大三角です。この白鳥座には、世界で初めて存在が明らかになった、白鳥座X‐1というブラックホールがある星座です」
他にもいろいろと星にまつわるお話を聞いて、最後に泉が今学校で習っている星や月・太陽のことについて教えてもらっていた。
「へぇ、宇宙って本当に不思議なことがたくさんあるんやねぇ」
多分人類が解き明かしたことよりも、いまだに解明されていないことの方が、宇宙では多いんじゃないか?」
そんな話をしながら、21時半ごろ天文台を出発して、漆黒の闇に包まれた山道を下って、帰宅したのが23時ごろ。郷子も宇宙の美しさに感動して
「夢のようだった~」
と思いつつ、中に入って入浴を済ませて、ベッドに入った。温也も郷子が喜んだようなので、誘ってよかったと思いつつ、入浴を済ませると眠りについた。
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