第24話吹奏楽コンクール中国大会へ向けて
吹奏楽コンクール山口県大会で金賞ゴールドを獲得し、中国大会への進出が決定した山口第一中学。中国大会が8月23日に島根県松江市で開催されるので、一日休みの後、再び練習が始まる。中国地方各地の県大会を通過した各県の代表校が出場するので、よりレベルの高い演奏技術が求められる。温也も郷子もコンクールの山口大会が終わって、まずは一息リラックスできたのであるが、中国大会に向けて、自分なりに見つかった課題に対して、真剣に向き合う覚悟を決めていた。
「焼肉美味かったなぁ。俺お腹いっぱいになったわ」
「私も。あっくん、なかなかいい食いっぷりやったねぇ」
「まぁね。青春はおなかが減るのだ~」
「そうだそうだ~アハハハ~」
「そう言う郷子も思ったよりたくさん食べてたから、俺、なんか嬉しかったなぁ」
「嬉しかった?」
「そう。やっぱりね、自分が好きな人には、美味しいものをたくさん食べて、ずっと健康でいてほしいと思うからね」
「ふーん。そう言うものなの?」
「そう。少なくとも俺はそう思う」
「そっかぁ。あっくんのためにも健康じゃないとね」
「たかやんとか、ながちゃんも美味そうに食ってたよなぁ」
「まぁね。同じ金管パートとして頑張ってもらわないとね」
そうこう話しているうちに家に着いた。二人は玄関先で別れて、それぞれの自宅に入る。
「ただいまぁ」
「お兄ちゃんおかえり~。お兄ちゃんいいなぁ。焼肉食べられて」
「ほれぇ美味かったぞ~。タン塩とか、カルビとか~」
「私も今度連れて行ってもらおうっと」
「誰に~?」
「お父さんとお母さんに決まってるでしょ」
「あれぇ?ひろ君とじゃないの~?」
「まだ小学生なのに、焼肉食べ放題に行けるお金あるわけないでしょ」
「まぁ、そうやねぇ。でも、泉も大きくなって働きだしたら、ひろ君と一緒に焼肉食べに行ってるんじゃないか?」
「ま、まぁ、それはぁ…。あるかもねぇ」
「ほら顔が赤くなった」
「もう、いつもそうやって私をからかう」
「いいじゃん。可愛い妹やから、からかいたくなるんや~」
そして光も瑞穂も帰ってきて、4人での夕食。
「温也。今日はよく頑張ったじゃん。凄いねぇ」
「ほんとう。俺も息子の晴れ姿見たかったなぁ」
「で、中国大会はどこでいつあるん?」
「えぇとねぇ。8月23日に島根県の松江で開催されるって」
「松江かぁ。スーパーおきに乗っていくんかな?」
「どうやろう?まさか学校のバスとかって言うのはないと思うけどね」
「じゃあ、前日に松江に向かうようになるんかな?」
「多分そうなると思う。まだ上山先生から正式な日程は聞いてないけど」
「まぁ、せっかくの中国大会なんやから、自分ができる精一杯の演奏をしなさいね」
「はーい」
そうして夕食を済ませて、緊張から解放されたためか、風呂を済ませるとあっという間に寝息を立てて眠りに入った温也であった。
郷子も、夕食を済ませて、入浴が終わると、温也にラインを送っても既読がつかないため、
「あっくんは疲れて眠りに入ったのかな?私もじゃあ寝るとしますか」
そう言ってベッドに入って眠りに入ったのであった。
翌日。コンクール明けで、部活は休みのため、7時過ぎに郷子は起きて、温也にラインを送った。
「あっくんおはよー。昨日はお疲れさま。今日はどうする?」
温也はまだ夢の中。8時過ぎてもまだ既読がつかないため、郷子がライン電話をかけると
「ふぁいふぁい?おふぁにょうごじゃりましゅる~」
という、温也の今起きたばかりですよって言っているような声が聞こえたので、郷子は
「やっと起きた。私からのラブコール要る?」
「郷子ちゃんのラブコールいりましゅる~」
「じゃあねぇ。起きろ~」
と言うと、やっと眼がシャキッと覚めた温也であった。
「おはよう。今日はどうする?お昼から泉ちゃんと一緒にフジグランに行くけど、あっくんは一緒に行く?」
「俺も今日は暇やし、一緒に行くか」
「じゃあ、13時にあっくんの家に行くから、泉ちゃんに伝えといて」
「あ、ちょっと待って。泉が今部屋から出てきたみたい。おーい。泉~。郷子が今日、一緒にフジグラン行かんかって。どうする?」
「郷子さんと?うん行く行く。一緒に観てほしいワンピースがあるんよ」
「じゃあ、伝えとくからな」
「はーい」
「泉は行くって。なんかすっごい嬉しそうにしてたで」
「泉ちゃんも、なかなか同性と一緒に買い物に行くってないんやろうからね」
「じゃあ、13時に集合ね」
そうして、郷子と温也と泉の3人でフジグランまで自転車で出かけることになった。
やがて昼過ぎを迎えて、郷子は家を出て温也に家へ。ベルを鳴らすと、温也や泉よりも先に小町がやってきた。
「にゃおーん」
「こまちゃーん。今日もかわいいねぇ。おうそうかそうか。よしよし」
小町はのどをぐるぐる鳴らして、気持ちよさそうに目を細めながら郷子に頭をなでてもらっている。やがて二人が出てきて
「郷子、今日は水色のスカートと、白いTシャツかぁ。夏を満喫してますなぁ」
「郷子さん、今日はありがとうございます。一緒にワンピース見てくださいね」
「いいよぉ。女同士、ちょっとした買い物楽しもうね」
郷子は小町の頭をやさしくなでなでしながら、
「じゃあ出発~」
3人で自転車にまたがって自転車をこいで、小学校のグラウンドの脇を通って、川を渡って、やがて高校の校舎が見えてくる。山口リハビリ病院に通じる交差点の信号を渡って、フジグランの中に入る。
「じゃあ、お兄ちゃんバイバイ。郷子さん行こう」
「あっくん、フードコートで待っててね。泉ちゃんと買い物して来るから」
「ほーい。気をつけてねぇ」
そして二人はキャッキャ言いながら服売り場へと向かった。
「泉ちゃんはどんな色のワンピがいいの?」
「明るくて元気の出そうな色のワンピがいいなって。レノファってオレンジがチームカラーでしょ?オレンジ色っぽいのがあればなって。それで、Tシャツは小町みたいに猫がデザインされたTシャツがあればなぁって」
「そうかぁ、オレンジ色かぁ…。泉ちゃんは身長どれくらいあるん?」
「私はねぇ、今130センチ」
「そうかぁ。それで、泉ちゃんは結構華奢やからねぇ。これなんかどうやろ?ちょっと色が薄いオレンジやけど、もうちょっと赤みが強い方がいい?」
「そうやねぇ。こっちとこっちじゃったら、どっちが似合うかなぁ…」
「私は色が赤みが強い方が、はっきり体の輪郭も見えるし、引き締まって見えると思うよ。ちなみに今日はどれくらいの予算?」
「えぇとねぇ。前からためてたお小遣いが5000円あるから、5000円で収まる範囲かなぁ」
「じゃあ、ワンピが3000円ほどってことになるかな?これなんか結構似合うんじゃんない?」
郷子が取り出したのが130センチサイズのオレンジ色より少し濃いめのワンピが見つかって、さらにTシャツも買いたいってことで、猫のイラストがプリントされたTシャツを探す。そして、見つかったのが白ではないが、クリーム色をした生地に猫が窓から顔をそっとのぞかせているTシャツが見つかったので、両方を試着することに。
泉が試着室に入って、ワンピを試着。着替えて出てきたら、よく似合っていた。
「泉ちゃんよく似合ってる。可愛いじゃん」
「本当?よかったぁ。じゃあ、これにする~」
「じゃあ、レジへ行くべェ」
「行くべェ」
そして支払いを済ませて、温也が待っているフードコートへ。
「お兄ちゃんお待たせ~」
「あっくんお待たせ。何してたの?」
「俺はポチポチとウッドパズルやってた。結構難しいぜ」
「すごい。3000点越えてるじゃん」
「これ、いい頭の体操になる」
「じゃあ、帰ろうかぁ」
「ホンじゃあ家へ帰るべェ」
「帰るべェ」
自転車をこいで、汗が噴き出る中、来た道を引き返す。
「ふぅーっ、本当に暑いねぇ。この暑さ、災害級じゃん」
「早く帰って、冷たい麦茶飲もうぜ」
「賛成~」
帰っていると、前からスマホをいじりながら自転車こいでる男子高生とぶつかりそうになって、温也が
「危ない」
そう声をあげたので、郷子も泉もぶつかることなく済んだが、男子高生がそのまま通り過ぎようとしたので
「ちょっとずいません。スマホをいじりながら自転車運転するのやめてもらえまへんか」
と温也が注意すると、男子高生は
「チッ。偉そうにいきがってんじゃねぇ」
などと言ってきたので、温也は自転車に張ってある、校名の入ったステッカーをみて、
「学校に通報します。本当に危ないんでやめてください。私達は大事な部活の大会が控えているんで、指をけがしたら困るんで」
「あぁ、わかったよ。マジでお前らうぜぇな」
そう逆ギレしながら、走り去っていった。
「マジでなんなん?あぶねぇやつ。そんなにスマホいじってなきゃいけねぇのかよ」
「まぁ、そう怒りなさるなかっこいいお兄さん。でも、あれはマジでやめてもらいたいよね。自転車の罰則も、厳しくなったっていうのにね」
「でも、お兄ちゃん意外と頼りがいがあるよね」
「当たり前じゃん。郷子や泉がけがしたらあかんからな」
「おぉ。かっこいいこと言ってくれるねぇ。あっくん頼りにしてます」
「えへへ~」
「あれ、お兄ちゃん照れてる?郷子さんにいいとこ見せられてよかったねぇ」
「おほん…。まぁ、な…。か、帰るぜぇ」
「あっくんて本当面白いよね。まぁそれがあっくんのいいところ」
やがて家に着いて、汗をかいたので、まずは着替え。
「あとで郷子の家に行くわ」
「待ってるからね」
泉は買ってきたワンピに着替えて、温也もTシャツを着替えて、麦茶をごくごくと飲み干して、郷子の家へ。
「おーい、来たぞ~」
「はーい」
「お邪魔しまーす」
「泉ちゃん、さっそく着てみたんじゃ。いいねぇ、よく似合ってる」
「ありがとうございます。やっぱり新しいのはいいねぇ」
「泉~、なかなかかわいいじゃん」
「そうやろぉ?もともとモデルがいいのと、郷子さんのセンスがいいからよ~」
「まぁ、そう言うことにしておこう…」
「もう、お兄ちゃん、素直じゃないんじゃから」
「まぁまぁ、その辺にして、冷たいアイスがあるから、一緒に食べよう」
「ありがとう~。暑いから助かるわ~」
そう言って台所にやってきて、差し出されたのは、ゴディバのチョコアイス。郷子の両親が頑張ったご褒美に温也と泉と一緒に食べなさいと言って買ってきてくれたものだった。
「おぉ。ゴディバのアイス~。めったに食べられんから、よく味わって食べないと」
「郷子さんのお父さん・お母さんありがとうございます~」
「じゃあ、皆でいただきますか」
「いっただっきまーす」
そうして高級チョコアイスを堪能して、色々とおしゃべりしながら、気が付いたら、もう17時。
「じゃあ、そろそろ俺たちも帰るとするかぁ」
「そうやね。郷子さんまた買い物付き合ってね」
「いいよ~。また行こうね」
「アイスごちそうさまでした。お父さんとお母さんにありがとうって伝えといてね」
「うん」
夕食を済ませて、望と桜も帰ってきて、
「あっくんと泉ちゃんがね、チョコアイスありがとうって」
「喜んでた?よかった」
「今度の中国大会、頑張れよ。俺たちは応援に行かれんけど、郷子ならきっと大丈夫」
「うん、ありがとう。また明日から練習が始まるけど、自分ができる精一杯の演奏ができるように、頑張るからね。松江のお土産楽しみにしててね」
「おぅ。俺もまた吹奏楽やってみたいなぁ」
「お父さんも、休みの日に地元の楽団で練習させてもらったら?チューバ吹きたいんでしょ?」
「そう、俺にとって、チューバの演奏は青春時代の楽しい思い出やからなぁ」
「やってみたいんやったら、相談してみたら?生きがいにもなると思うし」
「そしたら、今度は親子で演奏会してみるか」
「それもいいかもね。ごちそうさまでした。お母さん、今日は私が食器片づけるね」
「ありがとう。今日はずっと立ちっぱなしだったから、疲れたのよ」
「じゃあ、お母さんはゆっくり休んで」
「俺は風呂洗って来るわ」
そして、一日が無事に終わり、あしたからの練習に備える郷子なのであった。
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