第23話コンクール本番

 やがてやってきたコンクールの山口県大会。温也と郷子は朝から慌ただしく準備を整えて、朝食も済ませて朝7時頃に家を出ることになっていた。藍とトシ、それから津留美も部活の練習の合間を縫って観に来てくれるそうで、それから大阪の郷子の伯父・伯母夫婦と、温也の祖父母の邦夫・梓夫婦を途中の四辻駅から乗ってくるということで、かなりの大人数での移動となったが、楽器は前日に学校所有のボンゴに載せてあるので、身一つで移動ができるようになっていた。

 伯父・伯母夫婦は前日の夜に到着したので、今日が温也と初めての対面。郷子が

「今いいお付き合いをさせていただいている、湯田温也君。もうかれこれ出会ってから4か月になるよ」

「ほぉ。なかなかハンサムやなぁ。イケメンやん。温也君、郷子のこと宜しく頼んますわなぁ」

「いえいえ。僕の方こそ郷子さんにお世話になってます。今日は僕たちの演奏を聴きに来ていただいてありがとうございます。一生懸命演奏しますね」

「それじゃあ出発するべェ~」

矢原駅まで、わいわい賑やかにおしゃべりしながら歩いていく。温也は久しぶりに聞く大阪弁(正確には河内弁)を堪能しながら、山口に引っ越して、郷子と初めて出会った時のこととか、吹奏楽に青春をかけていることとか話していた。やがて矢原駅に着いて、コンクールに一緒に参加する吹奏楽部員と合流。駅で藍とトシ・津留美とも合流して、やがて到着した山口線に乗って新山口駅まで出て、新山口駅から山陽本線に乗る。温也がホームで待っている間に祖父母に電話して、先頭車両に乗るっていうことを伝えて、やがてホームに4両編成の115系電車がやってきた。真っ黄色に塗られた車両は、内装こそ大幅にリニューアルされているが、走行機器などは40年以上前のもので、かなり新型の227系に比べると揺れも大きく、差がある。その吹奏楽部員を乗せた115系電車は、椹野川を渡って平坦な道のりを軽快に走って、祖父母が乗ってくる四辻駅に到着。祖父母の元気そうな顔を見て、温也もうれしそうな顔を見せる。車内に乗り込んできた祖父母に、温也が

「じいちゃん・ばあちゃん、こちらが今お付き合いさせてもらっている上田郷子さん」

「これまた可愛い彼女さんじゃのう。べっぴんさんじゃあ。温也にも彼女が出来たんかぁ」

「おじい様・おばあ様・上田郷子です。宜しくお願いいたしますね」

「私は郷子の伯父の名村草夫、そして妻の美紀子です。これからよろしくお願いしますね」

「はい、こちらこそよろしくお願いしますね」

「温也~。今日は自信あるんけ?」

「おぉ。まかせとけトシ。めっちゃ今日の日に備えて練習してきたからなぁ。なぁ郷子」

「そうよぉ。毎日暑い部室で練習頑張ったもんね。皆も大丈夫じゃろ?」

「ほーい。今日はベストを尽くします~」

「私でも練習したらうまく吹けるかなぁ」

「つるちゃん、なんか演奏してみたい楽器あるん?」

「B’zの松本さんのギター演奏とか、XJAPANのhideさんのギター演奏見てて、めっちゃかっこいいなって思ったことがあってね、楽器演奏するならギターがいいなって」

「クラシックギターとか、フォークギターとか、エレキギターとかあるけど、やっぱりつるちゃんはエレキ?」

「そうやねぇ。バンドのエレキってやっぱりかっこいいなって思う。それか、吹奏楽やったら、トランペットかなぁ」

「そうなんやねぇ。楽器で演奏するのって、人の喜怒哀楽を音で表現するものやから、つるちゃんとか藍ちゃんとかトシ君はマーチとか、ノリのいい曲が似合うかもね。3人とも、スポーツの合間にやってみたら?」

そのような会話をしていると、富海駅に着いた。ここは瀬戸内海が間近に見える駅として知られていて、ここから先は山が海岸近くまでせり出しているため、トンネルをいくつか潜り抜けて、周南市に入ってやがてコンビナートが見えてきて、新幹線の高架橋をくぐって徳山に到着。ここで皆下車して、周南文化会館へと向かう。路線バスに乗って10分ほどでついて、楽器を運搬するのに上山先生と凛と佐知子が先についていて、ここで吹奏楽部員と一般観覧者と別れて、温也や郷子は上山先生と一緒に待機場所へと向かう。そして楽器の状態の最終確認と忘れ物がないかなどのチェックをして、チューニング。

「いよいよやなぁ。今日は目いっぱい楽しもうや」

「本当ねぇ。春先からこのコンクールをまずは一つの目標にしてたからね。他の真珠ことを心がけて、一生懸命演奏しようね」

やがて、出場する学校が次々と舞台に上がって演奏を披露していく。やがて第一中学校が発表する番になった。ステージに上がり前、上山先生が

「みんな一生懸命よく練習した。今日は緊張するかもしれないけど、今まで頑張ってきたことをここですべて出そう。皆なら大丈夫出来るよ。それじゃあステージに行こう」

「はい」

部長の佐知子が

「今日は皆絶対大丈夫。今まで練習してきたことを信じて頑張ろう」

と言って、皆

「おぉーっ」

と声をあげて、

「続いては6番、山口第一中学校。曲はエルガー作曲交響曲威風堂々です。それでは山口第一中学校の皆さん演奏を始めてください」

司会の女性がアナウンスする。そして、上山先生が指揮棒を振り下ろすと山口第一中学校の演奏による威風堂々の演奏が始まった。温也も郷子も出だしは快調。生きのいい音を奏でながら、第一楽章の主旋律をこなしていく。郷子と二人、本当に息の合った演奏を披露して、第二楽章へと入る。流石に凛・佐知子・和美の3人が奏でるホルンの音色は、6年間ずっと吹奏楽仲間として切磋琢磨しながら高めあってきたので、本当になめらかで美しい主旋律を奏でていた。まさに堂々と行進が行われているような、そんな貫録を感じさせる演奏であった。そして最終の第三楽章へと入る。ここまで来たらラストまであと少し。温也も郷子も、再び主旋律を奏でることになるため、さらに気合が入る。そして、一番最後の音が決まって、山口第一中学校の演奏による威風堂々は終わりを告げた。最後に起立して、観客席に一礼をして舞台を降りた吹奏楽部員たち。緊張から解放されて、みんな無事に演奏を終えることが出来て安堵の表情を浮かべる。まだコンクールは終わっていないため、今度は楽器をボンゴに積んで観客席で他校の演奏を聴く。やがて、昼食の時間となり、藍やトシ、津留美がいるところに行って、皆で各自が持ってきたお弁当を食べていると、郷子の伯父夫婦と、温也の祖父母がやってきて、

「本当にいいものを聴かせてもらったよ。みんな上手やったわ」

「そうですよねぇ。孫がこんなに大勢の皆の前で楽器を演奏するなんて。温也が孫で生まれてきてくれて、本当によかったわ」

「それじゃあ、私たちは帰るからね。温也、郷子さん。それに吹奏楽の皆さん、気をつけて帰るんよ」

「はい。ありがとうございます。伯父さん伯母さん、御じいさまもおばあさまもお気をつけて」

「ありがとうね」

そう言って帰っていった。

「ねぇねぇ、郷子も温也君も今日の出来栄えは何点ぐらい?」

「そうじゃねぇ。少し音を外してしまったところもあったから、私は85点くらいかなぁ?」

「そうなん?はたから見れば、全然わからんかったけど」

「そうそう。俺も全く分からんかったよ」

「私も。でも、やっぱり舞台に立って演奏してみたら、自分で間違えたとこってわかるもんなん?」

「そう、それでも間違えたことを顔とか姿勢に出さないように演奏するのもテクニックの一つやからね」

「それで温也君の出来栄えは?」

「俺はぁ…。うーん郷子と同じくらいの85点くらいかなぁ」

「そうなんやぁ」

そして昼からの部の発表も滞りなく終わって、審査結果の発表が行われるため、各学校の部長と副部長が舞台にあがる。今日出場した学校の中から、金賞に選ばれた学校のうち三校が山口県代表で中国ブロック進出となる。

やがて、山口第一中学校の審査結果が発表される時間となった。

「山口第一中学校。演奏曲目はエルガー作曲交響曲威風堂々…。金賞ゴールド」

観客席からは

「ヤッター」

という歓声が沸き起こる。これで中国ブロック進出の可能性が残された。そして、出場した学校の各省が発表されて、続いて中国ブロック進出の学校が発表される

「中国ブロック進出校は…。山口第一中学校です」

その他進出二校も決まり

佐知子と凛は舞台上で

「へ?私達?」

っていうような驚きの顔をしていた。というのも、他の金賞を受賞した学校の演奏のレベルは非常に高くて、佐知子と凛は

「正直中国ブロック進出は無理かもしれない」

って思っていたそうで、驚きの表情を浮かべたのち、嬉しさのあまり、顔をくしゃくしゃにして涙を流しながら喜びの表情を浮かべて、観客席に戻ってきた。

「みんなぁ。やったよぉ。凄いよみんな。ここまでみんなで頑張ってきて本当によかった。ありがとう…」

そして上山先生も

「皆が努力して頑張った結果じゃからね。本当にみんなおめでとう。よし。今日は頑張ったみんなに、私が焼肉をご馳走しようじゃない。今日の夕方に湯田温泉駅の近くにある焼肉屋さんに集合~」

「ヤッタ~。先生ありがとう。楽しみ~」

「焼肉くえるぜぇ~」

そう言って皆大盛り上がりで、会場を後にした。

「伯父さん伯母さん。やったよ。金賞とれた。中国ブロック大会に出るよ」

とラインを送って、

「郷子、すごいじゃん。よく頑張ったねぇ。おめでとう」

と返信が来た。温也も祖父母に

「じいちゃんばあちゃんやったよ。中国ブロックに行くよ」

「おめでとう。よく頑張ったからね。おめでとう。気をつけて帰るんよ」

と返信が来ていた。

 そして、吹奏楽部員は新山口駅に着いて、山口線に乗り換えて矢原駅に到着。みんな一斉に下車して、歩いて帰る。そして、一旦中学校に集まって楽器の運び出しをして、学校で解散となった。時刻は16時を指していた。いったん温也も郷子も家に帰って着替えて、温也の家に郷子が行くと、泉と小町が出迎えてくれた。

「郷子さん、今日はどんなでした?」

「今日はねぇ、金賞とったよ。中国ブロックに行けることになったの」

「わお。凄い。演奏めっちゃ上手いんやろうなぁ」

「今度文化祭の時に一般公開もしてるから、見に来る?」

「うん。行く行く~。それとねぇ、郷子さん、今度の日曜日に一緒にお買い物に付き合ってほしいなって。フジグランに行って、服を買いたいんですけど、一緒に言ってくれたら嬉しいなって」

「そっかぁ。前に泉ちゃんと一緒に女同士で出かけようねって約束してたもんね。大丈夫。日曜日は練習もないから。じゃあ、お昼食べたら一緒に行こうか」

「本当?ヤッタ~。郷子さんありがとう」

「いいえぇ、可愛い泉ちゃんとの約束じゃもんね」

そこへ着替えが終わった温也がやってきた。

「じゃじゃーん。これ、この前新しく買ったんだぜぇ。ギャップのジーンズ、小遣い貯めて買ったべェ」

「おっ、いいじゃん。かっこいいよぉ」

「これ、お兄ちゃんが今日コンクールに出て、金賞とって中国ブロックに行けることになったら、郷子さんに一番最初に見せるんだって、めっちゃ張り切ってた」

「そうなん?まぁ、あっくんらしいというかなんというか…」

「でも、お兄ちゃん、今日焼き肉食べに行くんやろ?焼く肉の匂いとか、煙の匂いとかついても大丈夫なん?」

「あ…。それ考えてなかったわ…」

「まぁ、今まで着慣れた服にした方がいいんじゃない?」

「そうやねぇ。匂いよりも服に油とかたれが着いたりしそう。やっぱり着替えてくるわ」

そう言って着替えてきて、郷子と二人、湯田温泉駅近くにある焼肉屋さんへと出かけて行った。それぞれの両親には

「焼肉を上山先生がおごってくれることになったから、湯田温泉駅近くの焼肉屋さんに行くので、夕食はいらない」

とラインで伝えてあるので、泉にはきちんと鍵かけておくようにと伝えて、17時頃に焼肉屋さんに到着。皆ラフな格好で集合していて、上山先生も到着。やがて、楽しい焼肉パーティーが始まった。

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