第7話 パーティーの寄生虫
依頼者のカインに書類を届けるため、事務所の上の階を訪問。
「今日の夕方までにこの付箋が張られている箇所にサインをしてちょうだい」
「はい、はい……あ、ここはメンバーの過半数のサインなんですね」
クックが書類を見せながら説明していく。しかもいつの間にか付箋まで張って、結構やり手だなぁ、と後方腕組み社長。
5分ほどかけて一通り説明を終えたところで、
「最後に追放者の居場所を教えてくれる? 住所と、あとは普段行きそうな場所」
「アイツなら確実に家にいますよ。場所は王都東の集合住宅。メゾンアフォイの一階です」
地図を元に居場所を把握。
さあ、これでもうここに用はない。あとは追放者のゴージを説得するだけだ。
だが、その前に。
カインに言っておかなければならないことがある。
「一つだけいいかな」
「なんでしょう」
「サブリーダーのゴージ。彼がパーティーの解散を拒否するからメンバーが迷惑を被っている。だから追放したい。そうだね?」
「ええ」
「君たちの言い分は聞いた。でもね、ゴージがどうして解散を拒否するのか、その理由がまだわかっていないんだ」
「それはまあ」
「もしかしたら納得する理由があるのかもしれない。あるいは、実は君たちが嘘をついてゴージを理不尽に追放しようとしているのかもしれない」
「そんなことはありませんよ!」
ムッとして大きな声を出した彼に「ごめんごめん」と謝ってから、
「でも俺の目からはどっちが正しいかは現状わからないんだ。許してくれ」
「……結局何が言いたいんです?」
「もしゴージが解散を拒否する理由が納得できるものだったら、そのときはこの依頼はキャンセルということでいいかな?」
追放もののラノベを読んだことがある俺は知っている。
追放の理不尽さを。
現状はカインたちが正義で、ゴージが悪という構図になっている。
でも逆かもしれないんだ。
カインたちが悪。無能なゴージを無理やり追放しようとしているだけなのかもしれない。
俺はそんな悪に加担したくない。
どうせ追放代行サービスをするなら、弱者や困っている人を救いたい。周りに迷惑をかける不届き者だけを追放したい。弱者を虐げるようなことは金を貰ってもしたくないんだ。
「わかりました。そのときは受け入れますよ」
俺の強い意志を乗せた眼差しに、カインは不服そうにしながらも合意してくれた。
「でも会えばわかりますよ。アイツがどれほどクズかってことを」
そのセリフが真か偽か。
それは会えばわかることだ。
結論。
クズだった。
「こんな早くから何の用だよ」
ゴージの家を訪問したところ、姿を現した青年。
昼過ぎにもかかわらず寝間着姿で茶色の髪はボサボサ。一目見てだらけた性格だということがわかる。
さらに俺が「なぜパーティーの解散に応じないのでしょうか?」と質問すると「誰だか知らねえがてめーは無関係だろうが! 教える義理はねえ!」激昂し、胸を突き飛ばしてきた。
イラっとしたが、こんなことで怒っているようじゃあ追放代は務まらない。
冷静に冷静に。
「実は私、追放代行サービスをしておりますハクラと申します」
清潔感のある笑顔とよそ行きの声と丁寧なお辞儀。社畜人生のおかげで最低限のビジネスマナーは身に着いている。
「追放代行サービスぅ? なんじゃそりゃ」
「ゴージ様の所属する『コインシデンス』のリーダー、カイン様から依頼を受けました。サブリーダーのあなたを追放してほしいと」
「な!?」
いきなりの追放宣言に、頭すっからかんな見た目のチャラ男でもさすがに動揺した様子。
「でもデビュー以降ずっと一緒にいたパーティーだぞ。なんで……」
「どうやらカイン様はじめパーティーメンバーの方々はパーティーを解散し、次のステップに向かいたいようです。ですが、あなたがそれを拒否しているようですね」
「それはそうだけど……」
「どうして仲間の要望を無視するのですか?」
ここで「長年連れ添った仲間と離れたくないから」みたいなほっこりする理由があれば、追放を中止して、パーティーメンバーを集めて話し合いをさせようと考えていた。
ゴージは頭を掻きながらその意図を語る。
「だってよぉ、俺、アイツらに依存してるからさ」
「依存?」
「俺さ、そもそも冒険者になったのって楽して金を稼ぎたかっただけなんだよね。俺、頭も悪いしまともな才能もないんだよ。遺伝子が良くないんだよなぁ。まじ親ガチャ失敗だわ」
ヘラヘラ笑いながら平気でそんなことを口にする。
「そんな俺が人並み以上に稼ごうと思ったら、もう冒険者しかないわけよ。後方支援職でもやって戦闘は味方に任せれば安全じゃん?」
「……」
「だから冒険者試験に受かったメンバーを誘ったわけ。パーティー組もうぜってな。あいつら結構才能ありそうだったから、ヒモできそうだと思ったんだよな。マジでナイス判断」
「不純ですね」
「見込み通り仲間はドンドン強くなった。今や全員CランクかDランクだ。サボってた俺だけ置いていかれたわけ」
「ゴージ様のランクは?」
「F」
最低ランク。つまりこの男は冒険者になってから三年、同世代の仲間が努力する傍らで何一つ成長しなかった。
「ありがたいことに、結成時の取り決めで報酬金は平等に分配されるからさ、貢献度ゼロでもたっぷりもらえるわけよ。マジで今のパーティー居心地いいわー。最高の絆って感じ」
「……そう思ってるのはあなただけよ」
クックも苦言を呟くくらいには苛立っている。
俺も一緒だ。この馬鹿者にお灸をすえてやりたい。
「だから解散されたら困るんだよね。アイツらはともかく、俺みたいな雑魚は引き取り手がないっつうか。路頭に迷うっつうか。ちょっとやめてほしいかなって」
「だから拒否権を発動させた、と」
「念のためにサブリーダーに立候補しておいてマジで助かったわ。三年前の俺、マジファインプレー。これで一生食い扶持に困らねえ」
「……あなたの言い分はわかりました」
これで追放側・カインの意見と、追放される側・ゴージの意見が揃った。
ジャッジの時間だ。
俺ははっきりとした声で告げる。
「ゴージさん。あたな、追放です」
真面目に頑張る人の足を引っ張る輩は容赦なく追放だ。
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