第6話 追放手続きは煩雑です
「本来、追放は冒険者基準法で禁止されているわ。
「じゃあどうやって追放するんだよ」
「自分の意志で脱退したという体にするのよ。私だってあんたに追放を命じられたから、自分で脱退申請書を提出したんだから」
「じゃあゴージに脱退申請書を書いてもらわないといけないのか」
「そうなるわね。その手の書類はすべて冒険者協会に行けばもらえるわ」
というわけで王都の中心部。お城のように立派な建物に入る。
王都を歩いていても武器や装備身に着けた人はそれなりに見かけたけど、ここは特に多い。
それもそのはず。今俺たちがいるのは冒険者協会本部。ミッションの依頼を受けたり報酬を受け取ったり、スキル習得講座や冒険者認定試験を受けたりと、冒険者にまつわるあらゆる窓口が入っているそうだ。
ただ、前を歩くクックは混みあった広いホールを足早に抜け、閑散とした二階に上がる。
「急に人が少なくなったな」
「一階はクエスト受注や清算受付とか、主要なやりとりが行われているわ。対して二階はパーティー設立申請とかメンバー死亡届とか、パーティーに関する情報の変更を行う場所。あまり用のない場所よ」
なんか運転免許センターみたいだ。一般の窓口は長蛇の列ができているけど、うっかり失効とか特殊な事情がある人専用の受付があるエリアは閑散としている感じ。
いくつかある窓口の内『パーティーメンバー加入・脱退』の案内が書かれた窓口に向かう。
「ねえ。脱退関係の書類、一式もらえるかしら」
「出た! ヘルゼンクック! パーティークラッシャーの異名を持つ女」
受付の快活そうなお姉さんがクックを見て嫌そうな声を上げる。
「昨日もここに来たじゃないですか! 昨日脱退して、今日も脱退するんですか? 二日連続脱退なんて前代未聞なんですけど?」
「違うわ。今日は別件」
「本当ですかねえ」
疑いの眼差し。どんだけ信用ないんだこの女。
脱退書類を一式入れたA4サイズの茶封筒を受け取ると、受付のお姉さんに別れを告げてロビーの机に移動し中身を確認。
「うわ。結構書類多いな」
「見掛け倒しよ。ほとんどはサインをするだけ」
パーティーの解散やら脱退やらに精通しているクックは慣れた手つきで黒文字がびっしり印刷された書類を分別する。
「まずこっちがパーティー側が出す書類。脱退申請書、脱退同意書、慰労金証明書ね。脱退申請書は単純にパーティーからメンバーが離脱することを知らせる書類、同意書はリーダーとメンバーの過半数のサインをもって脱退者の脱退をパーティーとして認める意志表明になるわ」
「慰労金証明書は?」
「メンバーが脱退するとき、パーティー側は慰労金を渡す必要があるの。脱退者のランクごとに下限が決まっていて、上限はないわ」
「なんでそんなものが?」
「次のパーティーがすぐに見つかればいいけど、長期化したら無収入が続くわけで。その期間の生活を保障する意味があるんでしょうね」
「しっかりしてるなぁ」
「次にこっちが脱退者が書く書類」
明らかに枚数が多い方の書類を俺の前に差し出す。
「脱退申請書、脱退嘆願書、理由書、慰労金受け取り証明書、その他事由確認書」
「多いぃ!」
頭痛くなってきた。俺は社労士にでもなったのか?
「脱退申請書と嘆願書は両方とも脱退の意志を表明する書類。前者は協会に、後者はパーティーに出すのよ」
「なるほど」
「理由書は脱退する理由ね。これはちょっとした作文だけど、テンプレがあるからそれをなぞれば問題ないわ」
「なるほど」
「慰労金受け取り証明書は慰労金を受け取ったあとに協会に届け出るものね。まあ慰労金は脱退と同時に支払われるから、申請書と同時に出す」
「なるほど」
「……ぜんっぜん聞いてないでしょ」
「なるほど」
ジト目を向けられたって俺の頭はパンク状態。
「……一応最後まで説明するけど、その他事由確認書は、パーティーで共有していた武器とか防具とか道具を返却するかどうかを話し合ったうえで、その決定を履行したことを伝える書類。以上よ。何か質問はある?」
「とりあえずクックにすべてを任せることだけはわかった」
「……私も途中から『あ、これ私がやることになるな』ってうすうす気づいていたわ」
話の分かるメイドだ。このまま彼女主導で進めよう。
「次はどうするんだ」
「パーティー側で準備する書類をリーダーさんに渡しましょう。そこで脱退者の居場所を聞いて、会いに行く」
「えー。ゴージに直接会って『脱退の書類を書いてください』ってお願いするのかよ。逆ギレされそう」
「そういう役割を請け負うサービスでしょうが!」
おっしゃる通りです。
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