天狗少年

「槍の石突の部分を調べてもらうように生長さんにお願いしておきましたよ」圭亮は言う。

 生長と随分、親しくなったようだ。圭亮は西脇の夢を槍の石突を調べろという意味だと読み解いて、そのことを生長に伝えたようだ。そんな話、現役の刑事が信じるかどうか。

「ああ、そうですか」と西脇は興味がない。

 所詮は夢の話だ。自分にそんな超能力があるなんて思ってもいない。確かに夢のお告げ通り、東野正純の首吊り死体が見つかった。だが、それは単なる偶然だと思っていた。

「先生。他に有力な容疑者はいないのですか?」

「弘中俊文という人物を疑っているようです」

「弘中俊文⁉」そいつは一体、誰だと菊本に視線が集まる。

 皆の注目を浴びて、「し、知りません。聞いてみます」と菊本がおどおどしながら答えた。

「弘中俊文は東野正純さん、碇屋象二郎さんのひとつ下で、学生時代に虐めにあって引きこもりになってしまったようです。碇屋恭一さんともトラブルがあり、碇屋兄弟と東野正純さんに対して恨みを持っていた人物だと聞きました」

「それだけ分かれば何とかなるでしょう。頼むよ。菊本君。少し調べてくれないか」

 藤代が言うと「はい」と菊本は会議室を出て行った。今井町民で美嶽セメントに勤める友人がいると言う。彼に話を聞きに行ったのだろう。行動的な若者だ。

 入れ違いで受付の女性がやって来て「鬼牟田さんにお客様です」と言う。「誰ですか?」と尋ねると「社長のお嬢さんです。お友達とご一緒で、鬼牟田さんにお会いしたいと言っています。どうしますか?」と言う。

 圭亮が返事をする前に、「何だろう? 直ぐに通して下さい」と西脇が答えた。

 コンコンとノックの音と共に、会議室に美嶽奈保子が現れた。奈保子が姿を現した途端、昼間にもかかわらず会議室がパッと明るくなったようだった。若い女性を連れている。背格好は奈保子とほぼ同じ。柔和で優しそうなイメージの奈保子と違い、キリリと跳ね上がった細い眉毛と大きな口が勝気さを感じさせた。

 女性は碇屋美羽と名乗った。「碇屋恭一、象二郎の妹です」と言う。美羽は西脇に歩み寄ると、「鬼牟田先生。兄を助けて下さい」と懇願した。

 後藤象二郎が警察に呼ばれ、逮捕されるのだと思ったのだろう。

「すいません。鬼牟田先生はあちら。あのデカイ人」と西脇は圭亮を紹介すると「サクラ・テレビの西脇です」と名乗った。

「あら。テレビ局の人」美羽が目を輝かせる。

「碇屋さん。心配しなくて大丈夫ですよ。お兄さんはもう直ぐ釈放されます。事情をお聴きしているだけです」

 圭亮が優しく話しかける。

「本当ですか⁉ 今朝、突然、二人の刑事さんがうちにやってきて、象兄を連れて行ってしまいました。恭一兄ちゃんが死んでから、うちの親はすっかり元気がなくなってしまい、おろおろと狼狽えるばかりです。これで象兄までいなくなったらと思うと・・・私が余計なことを言ったものだから、象兄、宝来家に行ったのだと思う。もう泣きたくなりました。でも、泣いている場合じゃないと思って、ナホちゃんに相談したら、偉い先生が来ているから相談したら良いよって」

 よくしゃべる。

「偉い先生だなんて」と圭亮が照れる。

 西脇は「先生、そこじゃないでしょう」と突っ込んでから「碇屋さん。余計なことって何ですか? 何をお兄さんに言ったのですか?」と美羽に尋ねた。

「それは――」と美羽は一瞬、口籠ってから言った。「恭一兄ちゃんを殺したのは宝来宗治さんじゃないかって言ってしまったのです」

「宝来宗治さんが碇屋恭一さんを殺したって、何故、そう考えたのですか?」

「直樹さんが町からいなくなった時、誰もがあのろくでなしの親父のせいだって思ったはずです。あいつを捨てて町を出たのだって。直樹さん、成績だって良かったのに、あの親父のせいで行きたかった東京の大学をあきらめたのです。一人にしておけないって。あいつの面倒を見るために町に残ったのです。優しい人だったから」

 美羽の話は止まりそうもない。

「宝来直樹さんの失踪とお兄さんの事件との間に、どんな関係があるのですか?」

「ひょっとしたら直樹さんが帰って来ているんじゃないかと思って、宝来家に行ってみました」

 一瞬だが奈保子が苦しそうな表情をしたのを西脇は見逃さなかった。美羽が話を続ける。「やっぱりいないみたいで帰ろうと思ったら、あの親父が酒瓶下げて坂を上って来たのです。酒屋で酒を買って来たみたいで、直樹さんが帰って来ていないか尋ねたら、直樹はいないって答えました。昼間から酒瓶下げて歩いている親父の顔を見ていたら、何だか無性に腹が立って来ちゃって、あんたがしっかりしていないから直樹さんが出て行っちゃうのよと言ってしまいました。そしたら、あの親父、怒ったみたいで――」美羽は眉を顰めて言った。「恭一の野郎だ。直樹が何処に行ったのか知りたければ恭一に聞けと言ったのです」

「宝来直樹さんの失踪に恭一さんが関与していたのですか?それで、どうしました?」

「恭兄ちゃんに確かめました。直樹さんが何処に行ったか知っているのか?」

「お兄さんはなんて返事をしました?」

「俺が知っている訳がないだろうって答えました。直樹さんが何処に行ったか知りたければ、お兄ちゃんに聞けって宝来宗治が言っていたという話をしたら、あの親父、頭がおかしいから、あいつの言うことなんか、真に受けるなと答えました。だから、それきり忘れてしまっていたのです。その話を、ふと思い出して、象兄に伝えてしまいました。そしたら・・・こんなことになって・・・宝来宗治が殺されて、象兄が警察に捕まって、もう私、どうしたら良いのか分からなくなってしまいました・・・」美羽が両目に涙を溜める。

「それで奈保子さんと相談して、鬼牟田先生のところに来た訳ですね」

「はい」と言って美羽はコクリと頷いた。

 涙が一筋、頬を伝った。

 圭亮が優しく言う。「大丈夫です。心配いりません。先ほども言いましたが、事情を聞いているだけですから、終われば直ぐに帰してくれます。宝来さんの事件では、宝来さんの家にお兄さんの足跡が残っていたり、指紋が残っていたりして、疑わしき状況にあるのは間違いありません。でも、裏を返せば、お兄さんが犯人だとすると、宝来さんの事件にだけ証拠を残して行ったのは変だということになります」

「そうなのですね!」奈保子が嬉しそうに言った。

「お二人、仲がよろしいのですね?」

「小学校三年生の時からの付き合いです。一番の親友です」奈保子が言うと横から美羽が口を挟んで言った。「ナホちゃんは小学生の時から美少女で、男子からの人気は高かったけど女子からは嫌われていました。嫉妬です。私も上の二人が乱暴者だったので、親からあの子と遊ぶなと言われていたみたいで、友達がいませんでした」

 圭亮が巧みに調子を合わせる。「へえ~そんな二人が運命の出会いを果たした訳ですね」

 さっきまで涙を流していた美羽が満面の笑顔で答える。「うん。よく分かるね。そう運命の出会い。あの日は朝から雨だったの。私、傘を忘れてしまって、学校が終わると雨に濡れながら家に向かっていました。すると、途中でナホちゃんが追いついて来て、傘を差し出して、一緒に帰ろうと言ってくれました。私、びっくりしたけど、うんって返事しました。

 ナホちゃんは山の手、私の家は反対の港でしたけど、話をするのに夢中になって、ナホちゃん、私を家まで送ってくれたの。私、ちょっと待ってと家に入ると、直ぐに傘を持って、今度はナホちゃんを家まで送って行きました。二人でいっぱい話をしました。家に着くとナホちゃんの帰りが遅いのを心配して、後藤さんが玄関の前で待っていました。そして、もう遅いからと車で私を家に送ってくれました。そうやって友達になりました」

「何だか微笑ましい話ですね」

「そうでしょう。運命の出会いなのですよ~」

 美羽と奈保子が顔を見合わせて笑った。

「碇屋さん。ひとつ教えて下さい。象二郎さんは恭一さんが殺害された日の夕刻、港で恭一さんと話し込んでいた見知らぬ男を目撃しています。黒っぽい服を着で、がっちりとした体形、髪の長い人物だったと言っていました。生憎、後姿しか見ていないので人相は分からなかったそうです。漁師の一人も船上からですが同一人物と思われる男を見ています。遠目でちらと見ただけですので、人相は不明です。その人物に心当たりはありませんか?」

 初耳だ。碇屋象二郎の事情聴取で出た話題のようだ。西脇はちらりと圭亮の横顔を見た。まだまだ話していない捜査機密が沢山、持っていそうだ。時間をかけて情報を引き出して行くしかない。

「兄の知り合いでしょうか?」

「違うようです。警察で聞き込みをしていますが、該当する人物が見つかっていません。ひょっとして事件に関係のある人物なのかもしれません」

「すいません。分かりません。私、恭兄ちゃんのこと、知っているようで、何ひとつ知らないみたいです。本当、兄妹なのに情けない」

「結構ですよ~気にしないで下さい」

「恭兄ちゃんと象兄は兄弟仲が良かったとは言えませんが、象兄が恭兄ちゃんを殺すはずありません。そんなの変です。象兄、本当は優しい人なのです。私、ナホちゃんと友達になる前は友達がいなかったので、何時も象兄に遊んでもらっていました。象兄は近所の悪ガキ供のボスとして威張っていました。妹の私に対しても容赦なくて、無茶なことばかりやらされました。お前は女だから、どうせできないだろうって笑われるので、私、それが悔しくて、何時も象兄と喧嘩ばかりしていました。でも、特別扱いされないことが良かったのです。でないと、私、象兄のグループでも浮いた存在になっていたことでしょう。乱暴者ですが、そういう気配りも出来るやつなのです。先生、信じてあげて下さい」

 そう言い残して、美羽は奈保子と共に会議室を出て行った。二人がいなくなると、会議室は火が消えたようだった。

「なんだか空気が重たくなった気がします」と西脇が言うと、圭亮が笑いながら「そうですね~」と同意した。

「しかし、宝来宗治は息子、直樹の失踪に碇屋恭一が関与していると、何故、そう思ったのでしょうか?」

「刑事さんが宝来宗治さんに話を聞きに行った時、彼が言っていたそうです。直樹さん失踪後に、あちこち探し歩いていると、恭一さんから、無駄なことは止めろと脅されたことがある。だから宗治さんは恭一さんが何か知っていると思ったのでしょうね」

「何を知っていたのでしょう?」

「分かりません」と圭亮が答えると、藤代が言った。「宝来直樹は生きているのでしょうか?」

「そのことを僕も考えていました。もし、生きていて、彼が今、町に戻ったら――」

「戻ったら?」

「美嶽奈保子さんの花婿候補として唯一無二の存在になります」

「一連の事件の犯人である可能性がある訳ですね。失踪に見せかけて姿を隠し、犯行を重ねている」

「どうでしょう。碇屋恭一さんや東野正純さんはともかく、父親の宝来宗治さんを殺害する必要はない訳ですから。彼に宝来宗治さんを殺害する動機がありません」

「ああ、そうですね。例え何かを知られたとしても殺す必要はありませんね。父親なのですから墓場まで持って行ってくれるでしょう」

 西脇が口を挟む。「奈保子さんは美羽さんが宝来直樹を好きなことを知っているみたいですね」

「えっ⁉ 碇屋さん、宝来直樹さんのことが好きなのですか?」

「先生。鈍感ですね~でなければ戻って来ているかどうか確認の為に家まで行きます?あの様子だと一度や二度じゃない。頻繁に行っていたのでしょう。だから滅多に外出しない宝来宗治が酒を買って帰るところに遭遇した。奈保子さんは美羽さんが宝来直樹のことを好きだということを知っていた。無二の親友が恋する相手を花婿として選ぶでしょうかね? 彼は蚊帳の外だったのかもしれませんよ」

「西脇さん。鋭い観察眼ですね~僕なんかより、よほど名探偵だ」

「先生が鈍感なだけです」

 西脇は手厳しい。藤代が「まあまあ、昼時ですので、食事に行きましょう」と割って入った。


 美嶽貴広から自由に会社の社員食堂を使ってもらって構わないと言われていた。朝は八時から一時間、昼は十一時半から二時間、午後は三時と六時から二時間、夜食は十時から一時間と時間的な制約があるが、従業員向けにボリュームたっぷりの料理が安価で提供されている。社員証があればキャッシュレスで支払いが出来るが、無くても食券を購入することができた。

 菊本が食堂の隅で誰かと話し込んでいた。例の友人だろう。仕事熱心だ。折角、美女が二人も会議室を訪ねて来たのに、居合わせなくて気の毒だった。

 ガタイの良い圭亮だが、見かけの割に食が細い。意外に小食なのだ。それでいて「やあ~食堂だ。社員食堂って良いですよね~」とご機嫌な様子だった。早速、「先生。そんなに小食で、どうやってこんなに大きく育ったのですか?」と西脇に突っ込まれた。

「そうですね~よく寝たからでしょうね。寝る子は育つって言いますから。はは」

 食事を済ませて会議室に戻ると、菊本が戻っていた。圭亮の顔を見るなり「弘中俊文のこと、聞いてきました」と言う。無口だが役に立つ若者だ。

「菊本さんって、ザ・仕事人って感じですね~」と圭亮がおだてる。

 菊本は圭亮のおだてを無視して報告を始めた。「弘中俊文は東野正純の一つ下、学校で虐めを受け、高校二年生の夏に登校を拒否して部屋に閉じこもるようになってしまいました。学校で弘中を虐めて引き篭もりに追い込んだ張本人が東野正純です」

 引き篭りだ。担任の教師や同級生が家に足を運んでくれ、学校に行くように説得してくれたが効果がなかったらしい。

「東野正純さんは下級生を虐めるような人物だったのですか?」

「東野正純は悪夢のような存在だったようです。学校で一番の不良と言えば碇屋象二郎ですが、陰湿な虐めには興味がなく、喧嘩三昧の毎日でした。東野正純は碇屋象二郎の腰巾着のような存在で、象二郎の威光を笠に、気の弱い生徒に暴行や恐喝を繰り返していたそうです」

 悪質だ。引き籠りとなってしまった弘中俊文だったが、冬を越して春が来る頃、突然、部屋から出てきた。

「弘中を虐めていた東野正純が高校を卒業したことが、引き篭りを止めた原因でした。両親はほっと胸をなでおろしたことでしょう」

 結局、一年遅れで弘中俊文は無事に高校を卒業することができた。

 もともと、頭の悪い子ではなかったが、すっかり勉学への関心を失ってしまっていた。大学進学はあきらめ、父親があちこち頭を下げて回り、今井漁港にある漁業協同組合への就職が決まった。

「昨年の春から新社会人として働き始めていたそうです。ところが、ある日突然、漁業協同組合の仕事から戻ると部屋に閉じこもったきり出てこなくなりました。漁師の一人が漁業協同組の建物の裏で、碇屋恭一が弘中俊文を罵りながら殴りつけているところを目撃していました。要領の悪い弘中を碇屋恭一は嫌っており、頭をはたく、胸を小突く程度の嫌がらせは日常茶飯事だったそうです」

「碇屋恭一さん、東野正純さん、被害者二人から虐めを受けていたのですね!」

「二人を殺害する動機があった訳です」

 藤代が言う。「そして、宝来宗治に何かを悟られ、口をふさぐために殺害した。弘中俊文が犯人で決まりじゃないですかね」

 西脇が異論を挟む。「どうでしょう。鬼牟田先生が言った力の誇示をするような人間と弘中俊文は対極にいるような気がした」

「ああ、そうでした」

 圭亮がとりなす。「鬱屈としていた感情が爆発したのかもしれません。自分の方が上だと力を誇示したかったとも考えられます」

 黙って三人の会話を聞いていた菊本が突然、口を挟んで言った。「弘中俊文は天狗少年と呼ばれていたそうです」

「天狗少年?」早速、圭亮が食いつく。魑魅魍魎のたぐいが大好きだ。

「子供の頃、山で天狗にあったと言って、天狗の存在を信じていたそうです」

 小学生だった頃、弘中俊文は一人でよく近所の裏山に遊びに行っていた。湧き水を見つけて飲んだり、小池を見つけてザリガニを取ったり、一人で遊んでいた。ある日、探索に夢中になって迷子になってしまった。懸命に家路を探したが見慣れぬ景色が広がるばかりだった。途方に暮れてしまい、とうとう泣き出した。

「そんな時に天狗と出会ったというのです」

 気がつくと、泣きじゃくる弘中を天狗が見下ろしていた。天狗に気がついた俊文が泣き止むと、天狗は背中を向けて歩き始めた。

 泣き腫らした目で、広い背中を見つめていると、天狗が足を止めて振り返った。どうやら、ついて来いと言っているようだ。

「天狗の後姿を見失わないように懸命について行くと、民家の見える場所まで山を下りることができたそうです。これで家に帰れると、駆けだそうとして、振り返った時には、もう天狗の姿はなかったということです。近所の子供たちに山で天狗に会った話を吹聴している内に、天狗少年というあだ名がついたみたいですね。弘中俊文という名前は知らなくても、天狗少年と言えば町の人間なら大抵、知っていると友人は言っていました」

「何故でしょう。微笑ましいというより、悲しい話に聞こえてしまいました」

 圭亮は優しい。友人がいない弘中俊文に同情しているのだ。

「ちょっと待って下さい」と藤代が言う。「弘中俊文自身が鬼牟田先生の考える犯人像に合わないとしても、弘中俊文の父親はどうでしょう? 意外にマッチョな人物で、息子を引きこもりにした碇屋恭一、東野正純にブチ腹を立て、復讐したという線が考えられるのではないでしょうか?」

「ああ、なるほど~」西脇が感心する。

「菊本君。弘中俊文の父親に関して情報はないかい?」

「ありません。また調べておきます」

「容疑者を整理しておきましょうか?」と西脇が言う。会議室なので白板がある。西脇はすらすらと白板に容疑者リストを書いた。


 容疑者リスト

●美嶽貴広~振袖村の伝説を知っていた。

●碇屋象二郎~力の誇示という意味ではぴったりだが兄を殺したとは思えない。特に首を切り落とす必要はないはず。

●後藤猛~力の誇示という意味ではぴったりだが動機がない。

●弘中俊文~動機はあるが力の誇示というイメージに合わない。

●弘中俊文の父親~人物像を確かめる必要がある。

●宝来直樹~行方不明。父親を殺す必要がない。力の誇示というイメージに合わない。


「いや~西脇さん。うまくまとめますね~」圭亮がおだてる。「犯人は生首伝説になぞらえて殺人を行っています。美嶽社長は伝説を知っていたことから、容疑者の一人として考えたことがありました。ですが、村の人間なら一度は伝説を耳にしたことがあるようですから、伝説を知っていただけで疑うなら村の住人、全員が怪しいことになります」

「ああ、そうですね。先生。もう少しプロファイリングをお願いします。犯人像に迫ることができるように」

「プロファイリングですか~僕に出来るのはテイン飲んでレスごっこしながらグラミングすることくらいですよ~」

「ああ、良いですね。是非、やって見せて下さい」西脇は相手にしない。

「嫌だな~西脇さん。冗談ですよ」

「アリバイはどうでしょう?先生。この中でアリバイがあるのは?」

「碇屋象二郎さんのアリバイについては分かっています。事情聴取で聞きました。碇屋恭一さんが殺害されたのは生首が発見された日の前日の夜。その時間、象二郎さんはドライブに出かけていて帰宅したのは深夜だそうです。その間、ずっと一人でバイクを運転したと証言しています。アリバイはありませんが、金欠で食事代をたかろうと高校時代の同級生に何度も電話したそうです。結局、相手は電話に出なかったようですが、携帯電話の着信履歴に象二郎さんからの着信履歴が残っていました。何度か電話があったけど、どうせ金をたかられるだけだから無視したと同級生は証言しています」

「嫌われたものですね。しかし、電話の着信履歴があったからと言ってアリバイにはならないでしょう。作り話とも思えませんが、碇屋象二郎を容疑者リストから除外することは出来ませんね」

「正直、アリバイ作りをするようなマメな人間とは思えませんが。さて、東野正純さんの事件のアリバイですが、彼は恭一さんは生首が発見された日から数えて三日前の夕刻、後藤さんと主婦に目撃された後、行方を消して直ぐに殺害されたことが分かっています。その日は仕事が終わってからパチンコを打っていたと象二郎さんは証言しています。裏は取れていないようです」

「彼、仕事をしていたのですか⁉」西脇が驚く。

「趣味と実益を兼ねて柳井にあるバイクショップで働いているようです」

「へえ~じゃあ、宝来宗治を訪ねて行ったのは平日の昼間でしょう? バイクショップを休んだのですか?」

「まあ、その辺は結構、自由な職場だそうです。多少、仕事を抜けてもオーナーは気にしないそうです。宝来宗治さんの事件のアリバイはありません。事件当日、彼を訪ねて家まで行っていますから最有力の容疑者ですしね。しかも宝来家を訪ねて行く象二郎さんの目撃情報まであったようです。後藤さんのアリバイについては、聞いていません。東野正純さんを送って行った姿を主婦が目撃していますから、アリバイはあると言えますね」

「菊本さん。アリバイについて情報はありますか?」

 皆、一斉に菊本の顔を見る。菊本は小さく顔を振った。「弘中俊文さんは自宅にいたでしょうし、他の方は分かりませんね」

 引き籠りの弘中俊文が家にいたであろうことは想像がつく。

「まだまだ情報が足りませんね。先生、頑張って生長さんから情報を取って来て下さい」

「了解です。いこくを終わります」

「先生。真面目にやって下さい」西脇に怒られた。

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