第22話 問答の時間
慌てて逃げるように図書室を後にした俺は、息が切れるぐらいの勢いで寮の自分の部屋の近くまで戻って来た。
「はぁ…はぁ……流石にやばいかも……」
咄嗟の行動だったとはいえ、さすがに話もせずそのまま眠らせて逃げるなんてはたから見たらやばい光景でしかないかもしれない……
(うん……流石に戻った方が良いんじゃない?)
「アレン……けどお前だって流石に逃げるだろ? 自分の立場が危うくなるかもしれない場面だったんだぞ?」
(うん……それはそうだけど、それでもせめて事情を説明すれば何とかなるかもしれないよ?)
「アレン……」
こいつが言っているのは結局の所、理想論だ。こうあって欲しい、こうあるはずだって思っているだけの願望の形。だけどアレンみたいな考え方も大事なのも事実。
「分かったよ……今すぐ図書室戻ってさっきの先生に謝るよ……」
「私がどうかしたのかな?」
「ん? ……ってうわぁ!? さっきの人!?」
おかしい! つい数分前にオザスリンを掛けてしまった以上、最低でも五分は寝てしまうはず……
来た道を戻って図書室に戻ろうとすると、まさかさっきの人がもう起き上がってこうして俺の目の前に立っている事実に心臓が止まりそうになった。
「随分と驚かせてしまったようだね。申し訳ない」
「いえ……俺の方こそすみません。さっきはオザスリンを掛けてしまって……」
「良いって。だって最近は忙しさで割と寝不足気味だったからぐっすり寝れて助かったよ」
「そうですか……」
さっきは一瞬しか表情は見なかったが、今の彼は顔色が良いように見えた。
「とりあえずここでずっと立ち話もなんだから、あそこの中庭で色々とお話を聞かせてほしいな……」
「はぁ……あなたがそういうのなら」
そんなこんなでその先生に案内されるように俺たちは中庭へと足を踏みこんだ。
寮の部屋前の廊下からそのまま一緒に中庭のベンチに歩き出し、座るように促されて隣り合わせで座ることにした。
「とりあえずそこにでも座ろうか」
「……はい」
さっきはそれほど気にしなかったけれど、この人けっこう淡々と話していくものだから、彼が不機嫌なのかそうでないのか。そっちの方にばかり頭が行ってしまう。
「とりあえず軽い話といっても自己紹介でもするかい?」
「そうですね……俺の名前はカイ。マエハラ・カイです」
「カイか……良い名前だね。私の名前はケビン・マッカーニだ。よろしく。カイ」
「はい……よろしくお願いします」
そう言ってケビンの差し出された手に対して、恐る恐る自分も手を伸ばして軽い悪手を交わして無事簡単な自己紹介が終わった。
「それでカイ。普通ならこのままワイワイと談義でもしたいぐらいんなんだけど……私の方から聞きたいことがあるんだけど、良いかな?」
「……はい」
おそらく予想するまでも無いことだけどこの人が言う聞きたい事って言うのはアレだろうな……
『せめて話をしてみてからでも遅くないよ! 事情を話せばわかったくれるはず……』
その時、アレンが口にした言葉が俺なの頭の中によぎり、冷静になれた。
「はい……どうぞ」
「ズバリ聞くけど君は……君たちは二重人格者かな?」
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