第21話 最悪の日

「失礼しまーす……」

 中の様子を見ながらドアを開けてみると、まず当然といえば当然だが、誰もいなかった。

「まぁ……流石に休日までわざわざ学校の図書室に行くやつなんて俺ぐらいだろうな」 

 とはいえ、それはそれで好都合。本当は単なる暇つぶしでここを訪れたのではなく少しでもこの世界、もとい俺が住んでいるこのアカシア領の事すら全く知らなかった。

 それでも最近になって知ったのは、ミナ。彼女の苗字? の様な部分がアカシアだで同じだと知り、それについてそれとなく聞いてみるとあっさり自分はアカシア領ライアン・アカシア侯爵の一人娘で後どりであることを教えてくれた。

 少なくとも自分にはほぼ無関係な以上、軽く頭の隅っこにその情報を置いておくことにして俺は引き続き調べものに取り組むことにした。



「うーんと……これは常に紙に書いて毎日見て覚えないとな……」

 アカシア領のそれとは別に興味が惹かれる項目が一つだけあった。

 それは各魔法ごとにおける属性とその弱点だ。

 言葉だけ聞くとソシャゲにおいては割とよくある概念だが、いざそういった情報を実際に目の前にするとすこしだけ頭の中は混乱する。

 弱点といっても常識的に考えて行けばある程度は簡単に理解できる。

 それこそ火は水に弱く、そのほかには闇属性は光属性と相性は互いに良いらしく相互的に相性が良いらしい。その他にも雷、土、風、と計七種類の属性についてあれこれ書かれていてその内容には俺自身は思ったより読みいっていき、けっこうな時間が経過していた。

「さすがにずっと本ばかり読んでたものだから、さすがに飽きてくるな……けどこれらを頭に全部叩き込んでおかないと、ただただ怪しませるだけになる以上、嫌だとか飽きたとかそんなことも言ってられないな……」



「にしても属性だけでもこれだけあるんだな……派生形だと泥や嵐、はたまた氷水魔法なんかには目移りしたけど……」

 こうしてみると中々に豊富な情報量だ。

「こんにちは。珍しいね、君の様な休日でも勉強のためにここにくる人は」

「こ、こんにちは……」

 その時だった。突然前方から誰かが挨拶するように声を掛けられるものだから俺もまた読み途中だった本を一度閉じ、その声の主の方の方を見やる。

「先生こそ、珍しいですね」

「俺はただの司書としての仕事をやりにいるだけだ。だからそんなにいないけどな」

「そうですか……」

「ん? というか君が読んでいる本って……どうしてまたその手のジャンルのを君が読んでいるのかな? この間も二重人格の本といい」

「う……」

 最悪だ。よりにもよって彼に見つかるとは……これは最悪の可能性になるのを想定ん入れないといけないかもしれない……

「君ってまさか……」

「オザスリン!」

 咄嗟にこの状況への危機感から、ついさっき覚えたばかりオザスリンを目の前の先生相手に使ってしまった。

「うぅ……」

 流石に咄嗟に対応することが出来るわけもなく彼は、その場にゆっくり倒れこんだ。

 今の質問、完全に俺への疑いを掛けられているのが判明した以上、もうひとまず逃げるしかない。

 そう思い、俺はその先生にスリープ魔法を掛けてその場を後にした。

 

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