第10話 慌ただしい目覚め

「ふわぁ……そんじゃ俺はそろそろ寝るよ。カイもさっさと寝ろよ。お休み」

「あぁ。お休み」

 ラインから色々と話を聞いた後、夜ご飯や風呂を済ませた俺とラインはちょっとだけ談笑した後にそのまま床に着くこととになった。

 寝る前の挨拶をしてすぐに部屋のロウソクが消され、真っ暗になる。しかし僅かに窓から月明かりによる光が差し込んでいて、視界は確保できた。

「ふぅ……」

 今日は本当にいろんな出来事が一気に起こったことにより、既に精神的に疲れている。本来ならそのまますぐにでも眠りにつきたいところだが、今日はまだやることが残っている。

 「紙は……あった」

 そのやることを終わらせるために俺は机上の一枚の紙切れと羽ペンに手を伸ばした。


「改めてこの世界について知ったことを書き記しておこう……」

 ここは俺が暮らしていた日本の様な落ち着いたような場所とは大きく異なり、魔法のような非日常でファンタジーな世界。

 正直日本の頃の様な感覚で暮らしていると、そこまで困ることはあまりなさそうだが、少なくとも文字の読み書きや魔法についてはある程度の教養は身に着けて置いた方が後々楽になるような気がする。

 そう思い書き記していくものの……

「よくよく考えればラインやミナの事ぐらいしか知らないな……」

 それこそ、魔法に関してはミナが日中見せてくれた水魔法のあれしか知らないし……明日にでも聞いておくか。

 そう思い、俺はそのままベッドを上り自分の寝床にて目を閉じた。



そして翌日。俺がこの異世界に来て二日目の事。

「ん……ねっむ。今って何時だ?」

 そう思い、ショボショボの目を力いっぱい少しずつ見開いていく。

「……あ」

 そのぼやけた視界に移りだすのは窓からの日差し。そして……

「……何やってるんだ? ミナ」

「おおお、起きててたの!? 痛った!」

 結構な近距離で互い目が合ったのもあり、ミナは驚きのあまり、そのまま後ろの本棚にぶつかり、おまけにその中から数冊ミナの頭上部に命中した。

「起きてたというか、ついさっき起きたというか……それで?」

「えっと……もしかしたら仮にアレンに戻ってたら寝坊するんじゃないかって思って様子を見に来たけど意味なかったわね……」

「そうか……悪いな。中身が俺のままで」

 ミナからすれば俺じゃなく、アレンと話したかったんだろうな。

「別にあなたが嫌だとかそうは言ってないし……」

「そうは言っても顔見れば分かるぞ。けっこう分かりやす奴なんだな。ミナって」

「ミナって言うな。少なくともあなたにはそういう風に呼ばれたくない」

「って言われてもな……」

 ミナ意外に呼び名なんて俺は知らないし、それこそフルネームすら知らないしな……

「だったらせめてフルネームを教えてくれよ、その方がよくないか?」

「……アカシア。ミナ・アカシアよ。アカシアって呼びなさい」

「へいへい。アカシアさん」

 昨日より妙に態度が悪くなっているのは少し気になるところではあるけれど、そこは触れないでおくか。

「だけど……」

「だけど? 何?」

「あくまで今のあなたはアレンなんだから、みんながいる時だけは特別にミナって呼び捨てで呼ぶことを許可してあげるわ」

「それ以外はアカシアさん呼びにしろと?」

「そういう事。できるでしょ?」

「まぁ、出来るけど」

「それじゃあ。そういう事だからこれからよろしく。えっと……」

「カイ、マエハラカイだ」

「カイ……ね。よろしく」

 そう言って差し出された手を握り、軽い挨拶を済ませた俺たちは、そのまま朝食をとる事となった。




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