第9話 希望的観測の一筋

「どこにいるか分からない……」

「あぁ。そんな感じだから悪いな。あまり力になれそうになくて」

「いや、気にしないでくれ。ライン。少なくともその情報自体は俺にとっては希望的でもあるから、助かるよ……」

 そう。確かに助かるばかりだ。そもそもそういった自分と似たような境遇、もしくは同じ転生者がいるかもと勝手に希望的観測を抱くのは俺の勝手だ。

 しかし実際はそういった情報がどこかにあるわけでもなく、途方に暮れるばかりだった。

 そんな中、ラインが教えてくれたその昔の友人の情報。

 これには俺としても藁にも縋る思いで聞き出せることは可能な範囲で聞き出していきたい。

「ちなみにその友人の事で他に覚えてる事ってあるのか?」

「他に? う~ん……そうだな。強いて言えば確か、独り言? が多かった印象があるな」

「独り言?」

「そう。って言っても最初は何も事情を知らなかったのもあって、普通に少し怖かったのをよく覚えてるよ。だけど今となってはその時はもう一人の誰かと話してたんだなって納得してるよ」

「そうか……」

 今になって思えば俺もけっこうな頻度でアレンと会話していた気がする。主に誰もいない状況でのみだけど……

 現状、この事情を把握しているのはラインとミナ。この二人ぐらいだ。だからこの二人がいない状況だと尚更バレないように気を付けておかないと……



「それで他にはある?」

「え~他か……あ、そうだ一番大切な事を言い忘れてたよ」

「一番大切な事?」

「そう。あいつの名前だよ確か……そう! 思い出した!」

「名前はタカネ・マキセガワだったけ……」

「え、それってその本人の名前か? それとももう一人のやつの?」

「後者だな。ちなみに元の肉体の人の名前はバンダさんだよ」

「そうか……マキセガワ・タカネ」

 名前からして恐らく女性なのは間違いないはず。にしたって何故に旅なんかに出てしまったんだろうか。そこだけが気になってしょうがない。

「俺から教えられる情報はこのぐらいだな。役に立てたか?」

「ん…あぁ、おかげで助かったよ。とりあえずアレンと応相談する形でその人を追う事になりそうだな」

「そうか……そしたら大学は休学することになるのか?」

「まぁ、そういう事になるかな……流石に通いながら探しに遠くへ、ってのは厳しいし」

 そうなったら俺は構わないけど、アレンはさぞ困るかもしれないな……その辺も改めて後でアレンに報告だな。

 とはいえぶっちゃけた話、俺自身はそれほど『元の世界に戻りたい』みたいなごく普通の考えは今の俺にはない。

 というよりは戻れたところでまた退屈な日々に逆戻りするだけだ。それならいっそ、こっちの世界で生きていく方が断然良いに決まってる。

 しかしずっとアレンの肉体に居続けるのもアレンにも悪い気がするからこそ、せめてアレンの肉体から分離したいものだ。

「その辺も含めて今夜、アレンと相談するとするか……」

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