第8話 女子水入らずの密会
「ふぅ……」
そんなため息交じりに部屋のベッドに座り込んだラインを横目に、中を少し観察してみる。
寮と言っていたぐらいだから二人部屋なのは当然ではあるのだが、寝る場所が二段ベッドだとは知らなかった。しかもラインが下に座っているってことは俺が上かよ……
「それで……だ。えっと…なんて呼べばいいのかな?」
「……前原廻、カイだ。とりあえずそう呼んでくれ」
「カイね……これからよろしく!」
そう言ってラインは純粋な笑みを浮かべながらこちらに握手を求めた。一応ここはその誘いに応えるのが礼儀だと思い、そのまま固い握手を交わした。
しかし、それとは別に今のラインに態度に俺は少なからず思うところはあった。
「……なんでそこまでフランクに接するんだ? 仮にもアレンの体から急に別の人間が現れたんだぞ? アレンとはもう会えないと思って怒るのが普通だろ」
「まぁな。カイがそう思うのも無理はないわな。現にミナは冷静さを欠いてそこんところ気づかずにいたみたいだがな」
「……? どういう意味だ?」
正直彼が言っている内容があまりにもピンとこず、俺の頭上にははてなマークが浮かんでいることだろう。
「まぁつまるところ、肉体的に見てすぐに分かったってことだよ」
「肉体的に? 体つきで判断したって事か? まだアレンがこの中にいるって」
「ああ。これはミナには言っていない事なんだがな。俺には昔変わった友だちがいてな」
そこから少しおちゃらた雰囲気だったラインの様子は一変。
珍妙な顔もちになったものだから聞き流すつもりでいた俺も真面目に聞くことにした。
「それでその時の友だちっていうのが、いわゆるカイと同じような感じに一つの肉体に二つの精神が入っていたんだよ」
「ま──」
(本当にー!?)
そんな中、会話を遮るようにアレンが驚いたような声を上げるものだから、少し驚いた。マジで心臓に悪いからそうやって驚いて大声上げるのは止めてほしいもんだ……
「はぁ……なぁ、ライン」
「ん? どうした。疲れたような顔して」
「とりあえず一旦休憩させてくれ。既に色々とあり過ぎて軽く横になりたい」
「……分かった。そういえば友達に用事があったのを思い出した。ちょっと出てくるよ。留守番よろしく」
「うぃ~」
そう言って彼が一時的にこの部屋を去っていったのを確認してから、アレンを呼び出す。
「起きてるか? アレン」
(うん。まだね。それでどうしたの? 急にラインに出て行ってもらっちゃって)
「いや、ちょっと俺たちでしか話せない事だからあいつには出てもらった」
(そっか……ん? 僕達でしか話せないこと?)
「あぁ。まだラインの話を全部信じるわけじゃないけど、その友だちの話は聞いておくに越したことじゃない気がする」
それこそ、俺がアレンの肉体から離れて生活できるかもしれない。そういった希望的観測がとれるかもしれない。
(うん。僕もそれには賛成かな。できれば精神を入れ替えられることが出来ればいいんだけど……)
「悪いな。話の途中で出ちゃって。それで……どこまで話したっけ?」
アレンとの会話の途中でラインが言っていた用事が終わったようで、すぐに戻ってきた。
「二つの精神が肉体の所だな」
「あぁそうだった、そうだった。でなここからが大切な事なんだけど、あいつ曰く精神をいつでも切り替えたり出来たらしい」
「いつでも……そりゃ便利だな」
「あぁ。だけどその都度体格がそっちの肉体に引っ張られるのもあって、肉体的疲労は半端ないらしい」
いわゆる魂が肉体に引っ張られるって事か……
「そうか……あ、まさかそれを根拠にさっき……」
「そういう事だ。そのおかげで確信に繋がったよ」
まさか俺みたいな前例の人間が既にいたのか……とは言っても、そいつが俺と同じように転生した人間かどうかは分からないが……
そこで俺はある一つの質問を投げかけることにした。これの返答次第では俺のやるべき瞬間が決まる。
「それで……その友だちは今、何処にいるんだ? 会って詳しく話をしたい」
「そういう事なら、教えてやりたいんだがな……」
そう言うとラインは何かに思い悩むように、気難しそうな表情を見せる。
「なんだよ。良いから言えってば」
「あぁ。そいつなんだがな、別れる前に世界中を旅してくるとか言ってたからぶっちゃけ場所は知らない」
「世界中を……旅に……?」
それじゃあそいつを見つけ出すのはぼ不可能なのか?
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