第7話 一触即発ならず

「それで……君は一体誰? 本物のアレンは何処?」

「くっ……」

 早いとこ、疑いを晴らしたいが為に勝手な憶測で答えて墓穴を掘った……

「……仮にだけどもし俺が偽物であったとして、本物が見つかった場合、俺はどうするんだ? 殺すのか?」

「……別にそこまではしないわよ。私達はただ本物のアレンに会いたいってだけ。さ、何処なの? 早く言いなさい」 

 そうしてミナはさっきより一層、強い敵意と鋭い視線を向けていき、更には攻撃的意思を見せるかのように木製の杖の先端は未だに俺の方へ向けられていた。

「早く言わないと……こうするわよ」

 そう言うと突然彼女の杖が水色の光に輝きながら、その効果を発揮させるように近くに置かれていた、花が添えられていた壺の中身の水がまるで宇宙空間にプカプカ漂う大きな球になっていた。

 あまりにも衝撃的な光景に僕は驚きのあまり、素で唖然とした反応を見せてしまい、空いた口が塞がらない。


「何よ、こんなのただの水魔法の基礎も基礎なのよ。そんなに驚かなくてもいいじゃない。まるで魔法そのものを見るのが初めてな反応の様に見えるけど……」

「いや、別に驚いてはいないぞ。ただ『そんなので脅しになる』と思っている事に驚いただけだ」

「……は? これが脅しにもならない、ですって?」

「げ……」

 流石に今聞いたマジトーンのは? は正直脅された時以上に生物的恐怖を感じ取ってそれ以上煽るのはよしておこう。

 水魔法というぐらいだからさぞ汎用性においては高いはず。


「まぁまぁ、一旦そこらへんで落ち着けよ。ミナ。そこの知らない誰かさんもな。挑発が過ぎるぜ」

 その時だった。俺と彼女の一触即発寸前の状態をぶち壊すように、仲裁役としてラインが間に立つ。

 ミナには優しく説得するようにして彼女が杖に込める力が減っていったのか、宙を舞う球体の水は床に叩き落ちた。

「別に……私は至って冷静よ、ライン。私はただこの男に一刻も早くアレンの居場所を聞き出したいと思っただけなんだから」

「あぁ。そうやって急ぐのは構わないんだが、一応……あいつの話を聞いてやってもいいんじゃないか?」

「彼の話? もうさっき聞いたじゃない」

「まぁ、そうっちゃそうなんだが、具体的には話さずそのままミナが攻撃仕掛けようとしたんでしょ……はぁ……」

 そう言ってラインは少し呆れた様子で自分の後頭部をポリポリとかく。

「……そうね。少し冷静さを欠いていたわね。ごめんなさい」

「別に俺には謝らなくていいよ。ただあっちには謝っておいた方が吉だと思うけどな~」

「……分かってるわよ。あなたもさっきはごめんなさい、あなたの話を聞かずに攻撃的になってしまって……」

「あ、あぁ。別にそれは構わないんだけどさ、もしさっきラインが止めてなかったらその水の球体で何する気だったんだ?」

「何って……形状変化させてとりあえず頬にでも傷をつけようと思っていたんだけど……」

「そ、そうか……」

 あ、危ねぇ……自分が思っていた何倍もの事をされかけようとしていた事にこれはこれで普通に驚いた。改めて止めてくれたラインには感謝だな……

「……分かったよ。観念して話すよ。最初は上手い事隠して置ければそれでよかったんだけど……そう上手くはいかないものだな」

 そうして状況的にも観念せざる負えなくなった俺は、この世界に来てからの全てのいきさつを洗いざらい話すこととなった。


「っていうのが全てだ。俺が話せる説明は」

「……」

 説明はした。したのだが……やはりと言うか分かり切っていたことだが、二人は疑いの視線だけではなく、そこにはさらに不思議そうなものを見る様なものも含まれていた。

「……にわかには信じがたいし、まだすべてを飲み込む事が出来ないけど……仮にすべての話が本当だったとしてアレンは無事なのね」

「まぁそういう事になるかな。俺もこの状況には理解が追い付いていないんだけど……」

「……はいはい。とりあえずこの話は止めだ。ここは他の人も通るし、後の事はこっちで聞いておくよ。それでいいか?」

「えぇ。お願いするわ。ライン」

「おう。任された。ほら行くぞ。誰かさん」

「あぁ」

 そうして俺は彼に案内されるように男子寮の中に入っていった。

 

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