第4話 ギリギリ危機回避?
「えっと……その……」
完全に迂闊だった。まさか俺の独り言が彼女に聞かれていたとは……というか幼なじみの独り言に聞き耳を立てるなんて良い趣味してるな。
「……本当にアレン、なんだよね?」
こうして考えに頭を働かせている間も彼女、ミナから向けられる懐疑的な目は変わらずのまま。どうにかして誤魔化さないと……
「ところで……その包帯、どうしたの? ここに来る前には巻いてなかったよね?」
「それは……」
包帯はただパニックになっていたアレンを落ち着かせる為に自分から頭を打った……なんて、信じちゃくれないよな。言ったらますます話が複雑になる以上、言わないけど。
結局、この包帯に関しての丁度いい訳の理由も思いつかずのままで、今、こうして途方に暮れている。
「えっと……」
いっそのこと、ミナが良い感じに都合よく、解釈して納得してくれれば助かるんだがな……
「もしかしてまだ体調悪かったりするの? だとしたらベッドで横になってなくちゃ! 」
「え? ちょ……」
ミナの中で勝手にそう結論づけられた俺は、彼女に手を強く引っ張られる形で再びさっきのベッドに引きずり込まれた。
「……えっとミナ? これは?」
「ん? 何が?」
「いや、俺をベッドに寝かしつけたところまでは別にいいよ。けど……なんでミナが俺に膝枕してるの?」
再びさっきまで横たわっていた、ベッドに運ばれた俺は何をされるのか、内心ヒヤッとしたが、それとは無関係に今、俺はなぜかベッドの上で彼女に膝枕されるという謎の状況に変わっていた。
「だって昔からアレンってこうされるのが落ち着くって言ってたじゃない。忘れたの?」
「そ、そうだっけ?」
仮にそうだとするなら、アレンの奴思ったより甘やかされていたんだな……
「まぁ十年以上前の事だし、覚えてないのも無理ないわよね……」
「と、というか! この後も授業あるでしょ! 行かなくて平気なの?」
「あ、そういえばそうだったわね……むぅ、授業が無かったらこのまま……」
「え、今何か言った?」
「ううん? とりあえず私は教室に戻るから、安静にする事。いい?」
「は、は~い」
安静も何も、そもそも元気な体そのものなんだけどなぁ……
そう言い残して、ミナはそのまま医務室を後にした。念のためドアの前に誰かいないことを確認してあいつを呼び起こした。
「おい。アレン。起きろって」
(ん? やっと寮に着いたの? 早いね……はわぁ)
そう言えばさっきのミナとのやりとの間、アレンからの声が聞こえなくなっていたから都合よく黙っていたのかと思えば、多分寝てたな……
「いや、まだ医務室だ」
(え? なんでまだそこに? もしかしてトラブルがあったりした?)
「トラブルも何も、一度マジでバレかけたぞ……独り言をミナにうっかり聞かれたみたいでな……」
(え!? それってかなりやばいんじゃ……)
「うるさ……頭の中で喋りかけられてるとはいえ、あんま大きな声出さないでくれよ」
(ご、ごめん。つい……そ、それでどの辺りから聞かれてたとかは知ってるの?)
「……あ、そういえば一番肝心なそこを聞き忘れてた」
まださっきの会話を振り返るに多分、完全にバレてはいないかもしれないけど、いまだに疑われている可能性の方が高そうだ。
(そっか……それならしょうがないよ。とりあえず近いうちにまた聞き出しておいてもらっていい?)
「ああ。分かったよ」
ひとまずまだ疑われているなら、それはそれでどうにか納得させる訳をかんげ解かないとな……少なくとも今は完全にバレない事を祈るばかりだ……
Side ミナ
アレンがまだ元気とは言えなさそうな状態だったものだったから、様子を一応見に行っておいて正解だったわね……授業が終わったら急いで戻らないと。
「はぁ……久しぶりにアレンに膝枕できたのに、授業があったのすっかり忘れてたわ……」
実際、昔に比べてアレンは私から膝枕の提案をする度に断られていたし、さっきみたいにさせてくれて本当に嬉しかったわ……
「後は属性混合の実技授ぎょ──あれ?」
この後受ける授業の内容を頭のなかで確認しておく傍らで、アレンとのやり取りを振り返っているとふと一つの違和感に意識が集中する。
「さっきの膝枕していた時、それをするのに楽しくて気づかなかったけど……」
「アレンって自分の事『俺』だなって呼ばないよね……?」
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