第5話 危機的状況からの脱却
「そういえば聞く程の事でもないんだけどさ、一個聞いていい?」
(何? というかそれはそれでカイこそなんで医務室から出ないの? サボりたいとか?)
「ちげーよ。アレンは知らないだろうけどな……去り際に授業が終わった後にまた様子を見に来るって言ってたんだよ。おまけにここで待っててとも言われたし」
(僕が寝てた間にそんなことが起こっていたんだ……)
ミナが言っていたというその授業がいつまでかかるのか分からない以上、迂闊に俺個人がしびれを切らして抜け出すのはあまり得策とは言えない。
たださえ現在進行形でミナから疑いをかけられている今、行動に移るにしたって慎重に動かないとその疑いが確信にでも変わったらすぐにゲームオーバーだ。
(そういうことなら……こほん。えと、それで? 君が聞きたい事って?)
「ああ、その事なんだがな……さっき、欠伸してたよな?」
(ん? うん…したけどそれがどうかしたの?)
「ぶっちゃけまだまだこの肉体の事とか点でさっぱり、把握しきれていないけどさ……今のアレンって眠気とか感じるのか?」
(……あ、言われてみればそうかも。僕っていわゆる魂だけの状態なのであって、疲れたり眠くなったりはしないよね……)
「そうなんだよ。そこが一番気になることであってそしてこれが一番の本題なんだ」
(え? まだあったの?)
「まぁいいから聞けよ。今から言う事が出来るかどうかで、今後の状況をうまい事回避できるかもしれないんだ」
(分かったよ……それで?)
そう言ってアレンはため息交じりにそう言って俺の次の言葉を待っていた。
「ぶっちゃけ、俺と肉体を魂ごと入れ替わる事って……可能か?」
(……えっとどういう事?)
「くっ……一言目がそれか」
おそらくこの反応を見るに、出来る出来ない関係なくそもそもそういう発想すらなかったって感じだな……
(えっと入れ替わるって、つまり僕が自分の肉体に帰って君の事を肉体から追い出すって事?)
「なんか言い方が気になるけど……まぁ概ね合ってるな」
(多分、出来ないと思う……)
その提案に対して出された答えが『出来ない』という立った四文字のシンプルな返答だった。
「出来ない? 難しいとかじゃなくて?」
(うん……だってこうして話している間にも、その入れ替わる? ってやつを試そうと色々やってみてるけど、相変わらず口しか動かせないよ……)
「そうか……」
正直これだけが現状打破への最適解だと思ってアレンに頼んでみるもやっぱり難しいみたいだ。
こうなった以上改めて、彼女に納得してもらう説明でも考えておくか……本当ならアレン本人に入れ替わってもらうのが手っ取り早いのだけど、背に腹は代えられない。
Side ミナ
「であるからして……お、鐘も鳴ったし今日はここまで、全員よーく復習しておくように」
『はーい』
けっこう複雑かつ、難しいことで有名な混合魔術の実技授業もようやく終わって私たちは解放された。
「う、うーん……はぁ、さてと」
授業も終わったことだし、早速アレンの元に行かなくちゃ。課題は後で纏めて片付けるとして……あ、そうだ。
「アレンがいなかった分のノート、纏めておかなくちゃ」
そう思い、カバンの中からさっきの授業で書き留めた内容を一枚の白紙に書き写していく。
みんなが教室から去っていき、いよいよ中にいるのは私一人だけとなり、更に深い静寂が私を包み込む。
「アレンの所には行かなくていいのか? ミナ」
そうして集中している中、聞き慣れた渋く、聞き慣れた声が耳に入り込む。
「ライン……今見ての通り、アレンの為に書き写し中。だからこれが終わったら行くわよ」
「そうか……どうだったんだ? アレンの奴。医務室に運んでいた時は、随分と疲れてたように見えていたからな……」
「別に。ただ少しだるい。みたいな事を言ってはいたけどね」
「そうか……それは心配だな」
「なんだったら付いてくる? この後もう一度アレンの様子を見るついでに、寮の部屋まで運ぶ予定なの」
「そういう事なら……俺も行くよ。部屋一緒だし、様子を見て確認したいし」
「分かったわ。それなら早く行くためにもこれを片付けるわよ」
「あいよ。姉御」
「あね──……なんでもない」
相変わらずラインはなぜかたまにこういう風に私の事を読んだりする。これはどういう意味で言っているんだろうか……
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