第3話 まずは落ち着こうや

(え? そもそもなんで僕の体に僕とは全く違う人間が入ってるの!?)

(そもそもこの状況、僕ってもう死んでるの? だとしたらもうあの子に伝えたかったことも……嫌だ~! 生きたい! まだやりたいことがあるのに~!)

「はぁ……なぁ、落ち着けよ。えっとアレン……だっけ?」

 俺が憑依した肉体の持ち主であるアレンは頭の中で声が聞こえるようになってから、ずっとこの調子だ。

 そもそもアレンというこの男、この言動の時点でよく分かるが小心者といった感じだ。ずっとあれこれ喚いていて、実体があればすぐに口を塞いでいたところだ。

 しかし、この男は恐らく、俺の脳内、というよりは精神として宿っている気がする。 

 詳しいことは分からないが、今の俺らはいわゆる多重人格のようになっている。

(誰か~助けて~!)

 そしてアレンはこの状況をよっぽど重く受け止めているのか、今も酷いパニック状態を続行中。

 おまけに物理的に彼を黙らせ──落ち着かせる方法は自分には思いつかない。

 とりあえず現状分かっていることはアレンもしっかり自分の肉体の事をしっかり認識できているという事ぐらいだ。

「……ん、そうだ! あれなら!」

 ある策を落ち着かせるための方法を一つ閃いた俺は早速、それを実行することにした。多分、アレンからしたらさぞ驚かれるだろうけど……



「ふぅ……んっ!」

(やだ! 生きたい! 死にたくな……ってちょっと何やってるの!?)

 アレンを無理やり落ち着かせる方法。それは俺が憑依したこのアレン・ベルドットの肉体を傷つける事。これは俺自身も痛い思いをすることになるが、背に腹は代えられない。

 とりあえず、この医務室に置かれていた硬そうな分厚い医療について書かれた本があったのでそれで少しずつ頭部に衝撃を与えていく。

 それにここは医務室。あとで包帯でも巻いておけば隠せる。

 そしてようやくパニックって滅茶苦茶な言動をしていた彼も、ようやく現状に気づき、言葉だけで必死に静止の言葉をかけ続ける。

 そろそろ止めておくか……なんか普通に頭から血、垂れてきてる気がするし……

(分かったから!話聞くから! それやめて~~!)



「落ち着いたか? アレン?」

(うん……ごめん。勝手に取り乱して。うるさかったよね?)

「いや、普通の人間ならあれぐらい取り乱してもおかしくない。といってもうるさかったけどな……」

(本当にごめんよ……)

 ひとまずアレンを落ち着かせることが出来たのでじっくりと話をしつつ、俺は頭から垂れていた血をふき取り、軽く包帯を巻いていた。さすがに後で改めて謝っておくべきか……

「とりあえず状況の整理も兼ねて自己紹介でもするか。俺は前原廻だ。よろしく」

(マエハラ、カイ……あれ、どこかでその名前聞いたことがあるような……気のせいかな)

「どうかしたのか?」

(ううん。何でもない改めて。僕はアレン。アレン・ベルドットだ。ここマギア魔法大学の一年生だ)

「マギア魔法大学……やっぱりここは魔法学校的な場所だったんだな」

 どうりで医務室に運ばれる途中も、そこかしこに魔法っぽい物があったわけか……

(えっと……まだ頭の中を整理しきれていないけど、とりあえず聞きたい事ってある?)

「まぁ、俺の方は多分、そっちの何倍もあるぞ。それでもいいか?」

 それらを考えただけで山ほど浮かんでくる。

 ここがどんな世界なのか、アレンを心配していた彼らは誰なのか。そしてアレン、彼自身について。  

 ひとまず誰かに悟られないようにもっとアレンのことを知らないといけない。だから今は彼のことを優先的に聞くことにした。



「なるほど……アレンの事を心配していあのは幼なじみのラインとミナ……と」

(そういう事。あと他に聞きたい事ってある?)

「いや、特にないな」

(そっか……とりあえず必要最低限の僕の情報は教えたから、後は寮で自分の部屋に入るまでどうか気を抜かないで。他の事はその時にでも……)

「おう。分かった」

 それからプツリと途切れた電話のようにそれっきし、アレンの声は頭に聞こえなくなった。

「……とりあえず整理するか」

 まずアレン・ベルドット。あいつは一言で言うなら本当に小心者だ。何ならそれを本人の口できいた以上、筋金入りなんだろう。

 それに確かミナって言ったけな? あの子、やたら俺に世話を焼こうとしていたし、よっぽど普段から『頼りない男』っていう風に見られてるんだろうな。それこそまさに弟を見るみたいに……


(あ、そうだ。一つだけ注意することを伝えとかないと……)

「注意すること? なんだよ」

(えっと……彼女、ミナのことなんだけどさ。ミナ、ああ見えて感が鋭いから気をつけて……)

「あ、ああ。分かったよ……」

 気をつけろって言ってもどうすれば良いんだよ……バレたら多分。面倒になるぞ……


その言葉を最後にアレンからのコンタクトは途切れた。

 ひとまず、『頭痛がひどい』の名目でここにいる以上もう少しいることにした。それに頭の包帯は説明が難しいし……その辺も何か理由を考えて置かないとな。


「そろそろいいか……」

 ベッドの上で体を大きく広げてはしゃいで、少し疲れたけど何かがすっきりした。

そして自分の教室に戻ろうとしたところで、それよりも先に目の前のドアが開きだす。

「あ……」

 確かこの身長が高い女の子は確か……

「あ、えっと……ミナ。どうしたの? というかいつからそこに?」

「少し前からよ。中に入ろうとしたらアレンにしては珍しく、独り言を言ってるからつい聞き耳を立ててたの。ごめんなさい……」

「うん……それは別にいいよ。僕が勝手に独り言を呟いてたんだし」

 もしかしてさっきの内容を普通に聞かれていたのか……? だとしたらどう誤魔化す?

「それで……さっき聞いてて思ってたんだけど、アレン。アレンってそんなに独り言多かったけ?」

「え?」

 ……すまん。アレン。約束。守れんかったわ……




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