第2話 まさかの精神同居!?

「ここは? ……何処だ?」

 さっきまで図書室にいたはずだったのに気づけば、そこは見知らぬ場所。見知らぬ人に心配そうに顔をじっと見つめられて、この状況への理解が追い付かない。

「アレン? おいってば。どうした。急に気絶するみたいに机に伏せて。起き上がったと思えば今度はボーっとして、心配したぞ……」

 そう言ってやや深刻そうに暗い顔をしているこの男は……本当に誰なんだろう。多分、俺はアレンという男の肉体にでも憑依したんだろう。そしてこいつはそいつの友人かそこらだろう……

 というかガタイ、凄いな……親戚の叔父さんにそんな人がいたな……

「ねぇ……本当に大丈夫? さっきからボーっとしてるけど…医務室行く?」

 そしてもう一人、僕の身を案じているこの子はさっきのガタイの良い男以上に、心配そうにこっちの様子を窺っている。

 とはいえ、今はこうして頭の中で整理を付けようにも、この二人が声を掛け続けから落ち着かない。ひとまず一人の時間が必要だ。

(ひとまず、アレンっていう人間を自分なりに演じてみるか……)

「うん……ちょっと頭痛くて、医務室行ってくるよ……」

「大丈夫? 私もついていくよ。結構しんどそうだし」

「え、けど……」

「いいから、アレンっていつもそうやって、私からの誘いは断ろうとするよね……こういう時は遠慮しないでよ。今のアレン、ほっとけないよ」

「……ごめん。手を貸してもらっていい?」

「勿論! ほら行くよ!」

 そう言って彼女は俺の体を半身の肩に担がれる形で、運ばれる。というかそもそも医務室というのがどこにあるのか分からなかった以上、連れていってくれるのは助かった。


「……ん?」

 こうして担がれながら、歩いていると廻は足元に妙な違和感を感じていた。

気になって足元を確認すると、担がれている側の足がもろ、浮いていてもう片足しか床に足がついていなかった。

(あぁ、そうか……)

 多分、彼女は俺以上にけっこう身長が高いのか。さっきまではしゃがんでこっちを見ていたからこそ、その時は気づかなかった。

「でかいな……本当に」

「ん? 何か言った?」

「いや、何でもないよ……」

 とりあえずこのままほぼおんぶに近い態勢のまま、彼女に疑われることも無く医務室に運ばれることにした。



「失礼します!」

「あら、ミナちゃん。どうしたの?」

「アレンがちょっと体調悪いみたいで……休ませてもいいですか?」

「いいわよ〜それじゃあ空いてるベッドに運んでおいてね」

「はい。ありがとうございます!」

 そうして中に入った医務室(保健室のような場所)は思ったより広く、10人ぐらいの生徒を入れても問題なさそうなぐらいに中は広かった。

 おまけにベッドの方もけっこうデカイにも関わらず、5つも設置できているのが少し驚いた。

「それじゃあ、アレン。お大事にね。後でまた顔見せに来るから!」

「あ、うん……」

 そう言ってミナと呼ばれていた彼女はベッド周りのカーテンを閉じて医務室を後にした。


「体調はどう? アレン君?」

「はい……まだ少し頭が痛いです。もう少し休んでも?」

「いいわよ。」

「ありがとうございます……」

 滞在の許可も取ったことで、僕は大きなベッドの上に仰向けになる形で寝転がった。

「はぁ……」

 今でもにわかには信じがたいが、ここは明らかに日本じゃないどこかだ。

 まだまだこの場所について詳しく知る必要があるし、何より俺がこの元の体の人間である、『アレン』について少しでも情報を集めて周囲から不審がられないようにしないといけない。バレたらどうなるのか分かったものじゃない。

「やるべきことは山積みだな……」

 とりあえず眠りながら頭の中でこの状況について、一つ一つ分かっている事を整理する必要があるかもしれない。

 さっきからずっとトントン拍子にいろんな事が起き過ぎて、もう俺の脳内における情報処理能力はパンパンだ。

 そうして自然とゆっくり落ちていく自身の瞼に身を任せ、俺は少し仮眠を取ることにした。



「ん……」

 眠りにつこうと目を閉じたはずなのに妙に意識がはっきりしている。

「ん……ここは?」

 さっきまで確か医務室のベッドに横たわり、頭の中を整理するために少し目を閉じていたのに気づけば寝てしまったのか……

 それならそれで見知らぬ場所で目を覚ますのはおかしい。

 周囲を見渡しても白いモヤモヤばかりで回りには何も無く、当然ながら誰もいない。

「ここは……現実の場所じゃない? 多分夢を見てるんだろな」

 今日、というよりはさっきからいろんなことが起きてばかりだから、頭の中はまだ少し、混乱している。

 突然見知らぬ世界にやってきて、おまけに俺はアレンという人間として演じて生きていくことになって、これからの事を考えると息苦しい事この上ない。

 しかし、前いた世界はどちらかといえば退屈に感じていた廻は、この世界に来て、非日常な日々を期待している今、彼の胸のざわめきは誰にも止められない。

 (──覚まして)

「ん? どこからか声か……?」

 この状況への満足感に浸っていると、その空気を壊すかのように聞いたことのない男性らしき声が自分自身にまるで呼びかけるような声が、さっきより鮮明に聞き取れる。

(目を覚まして……お願い!)

 そこで俺の意識は一気に世界に引き戻されて、目が覚めた。



「はっ! なんだったんだ? 今の……」

(あれ、なんで僕の体、動かないの?)

「……? 誰だ? どこにいる!」

 すぐ近くにいるかのようなその声はこっちの世界に来てから聞いたことのない声だった。

 周囲を見渡しても、カーテンの外にも誰もおらず、今医務室には完全に俺一人しかいない。

 そんな状況で突然聞こえてきた謎の声……ついさっきの呼びかけてきた声に似ていたような……

(ってここは医務室? そっか、僕また怪我しちゃったのかな……)

 なんとなくだがこの声の主が誰か推察だが……予想ができる。もしかして……

「な、なぁ……今、俺とは別に喋ってるやつ、俺の声が聞こえてるのか?」

(う、うん……っていうか僕の声なのに、なんか僕じゃないみたいな……君は……?)

 やっぱりこれで疑念が確信に変わった。さっきから聞こえていたこの声の主は恐らく、いや、間違いなく俺が憑依した肉体の持ち主。アレン・ベルドットだ。





 

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