第11話 蠢動
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ハルバート領には多くの工場が立ち並ぶ。景観は汚れ青空は工場地帯から排出される黒煙で覆われる。汚染水が川へ流出することもよくある事だ。公害や環境問題として度々問題視されるハルバート領だが、それ以外にも、ハルバート領は真っ当ではない格闘技や賭博を認めており、治安が非常に悪い。
他の家門が強く抗議できないのは、単にしないというのも大きな理由の一つだが、人類軍の武器のほとんどを賄うプラント群は、人類軍を育てる議会や家門にとってはアキレス腱に等しい。魔人のような強靭な肉体も持たず、天人のような奇跡を体現する特別な力も持たない人間は、文明が培った科学力を駆使した武器のみが唯一の対抗手段なのだ。それを生み出すハルバート領にはある程度の勝手が許されているのが現状だ。
そういった背景から、ハルバート領は無法地帯だというイメージを持つ者も多い。ここでは地位や金が無くとも、勝ちさえすれば這い上がれる。勝者には自由が与えられ、敗者には何も残らない。領民達もそれ相応の人達が集まっており、彼らからしてみれば、アンジェシカ領のような地位と財力のみが支配する社会よりも、別の形の完全弱肉強食社会、つまりは極端な実力主義の方が万人にチャンスが与えられると嬉々とした様子だ。
当然、そういった社会基盤であっては、必ずと言っていいほど深い闇が燻るものだ。誰の目にも触れない、暗い暗い奥底で。彼らは蠢いているのだ。
「なあ兄貴。この間ウチの仲間がよ、おもしれぇ〜もん見たってよ。」
豪華で広々とした居室。置かれている家具やインテリアはどれも綺麗に輝く高級品だ。庶民では一生かけても踏み入ることさえ叶わないだろうその空間に、そぐわない人物が一人。
身だしなみは不清潔。挙動や言動は粗野で不快。この空間の異物のような存在は、しかし異様に空間に馴染んでいた。たどたどしさや遠慮というものがないからだ。
「それはどんなものだ。」
ソファにどかっと大きく開脚して座る男とは違って、外を眺めるこの男は小綺麗なスーツを窮屈そうに身にまとい、主に相応しい毅然たる風貌だった。
「ウチのモンがターゲットの家を張ってる時、見たんだってよ! あいつが不思議な力を使ってるとこを!」
「不思議な力?」
「ああ。あの家さバカでけえから定かじゃねーと思うんだけどさ、カイヅカ・ユウトが炎や水を生み出して操り、何と空中をぷかぷかと浮いたってよ!」
ケタケタと下卑た笑みを零す。
対してスーツの男は、変わらず平静に外を眺め続けていた。だが、水面に一滴の雫が落ちると波紋が広がるように、弟が語った『事実』は彼の鋼のように硬い心を揺らした。
「やはりあの男には何かがある………。」
「なあ兄貴、いつになりそうだ?」
弟の催促に、珍しく彼はニタリと笑みを浮かべた。
「心配するな、リゲル。その時は近いさ。」
リゲルは兄の言葉に興奮を抑えられなかった。
それは、この男もそうである。
いくら綺麗なスーツを身にまとい厳粛な立ち振る舞いをしようとも、その下の穢れた本質は変化しない。
「カイヅカ・ユウトも、フシミも、人類も、全ては我がハルバート家の為に。」
レイシスター 光田光 @koudahikaru
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